偽りの約束(4)
「えっと……竜胆の跡取りってどういうことだ?」
俺は疑問に思ったことをそのまま口にする。いや、疑問自体は他にもマジで沢山あるんだけど……何で平凡な生まれで大した能力もない俺が大企業の跡取りになってるんだよ……。
まあ、爺さんとはなにかと理由をつけて会いにくるけど……孫が可愛くて仕方がないと思っていたが……。
「竜胆の御党首様が各方々におっしゃっているのよ」
『ついに息子、後継者ができたぞい。ほぉっ、ほぉっ、今は孫の願いで他で仕事をしておるが、いずれはわしの跡を継がせたいのぅ。老後の楽しみができたのじゃ』
「…………」
「……っと、楽しそうに語っていたそうよ。わたくし以外の人間はその『息子』というのが誰だか見当がついてないみたいだけど……実花さんの話を聞いたわたくしは違う。竜胆のお爺様がおっしゃる息子は、貴方のことじゃないかしら?」
まったく信じられないんだが……えっ? そ、そんな話になってんの? 俺まったく何も聞かされてないんだけど……。
「まったく……竜胆家の跡取りなんてね……」
小さくを息をしながら呆れたような表情をする如月。どうやら、俺の存在は相当なイレギュラーなことらしい。
「そ、そんなにまずいこと言うのか?」
「大ごとであるのは間違いないわ。貴方のお爺様はわたくしたちの世界ではかなりのやり手で通っているもの。後継者の噂もなかったから、多くの人間が貴方のポジションを狙っていた筈よ」
「…………」
どうしよう『なんかすごい』ぐらいしか、
わからない。なんかもっと具体的な情報が欲しいな……。
「……ち、ちなみに爺さんの年商ってどのぐらいなんだ? お、億ぐらい……?」
「何を馬鹿なこと言ってるのよ」
「あ、ああ……そうだよな。稼ぎが億ってありえ――」
「その程度な訳ないわよ。あのお爺様なら億程度なら時給で稼ぐわよ。少しは竜胆の格というものを理解しなさいな」
「…………」
日本の平均時給1000円ですよ? 待て! このままじゃ拉致があかねぇ!
「わ、悪い。電話をかけるぞ」
「ええ、どうぞ」
俺はスマホを取り出して、すぐに爺さんに電話をかけた。
すると数コールもしないうちに電話に出る。
『おお、息子よ。よくぞ電話をかけてくれたのぅ』
「あっ、爺さん! なんか俺跡取りになりそうだって聞いたんだけど!!」
『…………』
電話も向こうで爺さんが息を飲むのがわかる。『しまった! バレた!』みたいな空気感だ……。
『おっほっほっ、息子よまだ先の話じゃ、そ、そこまで気にする必要はないぞい』
「いやいやいやいや! 規模が大きすぎるだろっ!」
時給億の仕事を簡単に投げようとするなや!
『……おほん、息子よ。ひとつ言おう』
爺さんは咳ばらいを軽くすると、真剣な威厳のある声色になる。それは多くの人間の上に立つ者の風格があるような気がする。
『わしは息子と孫たちが可愛くて仕方がない。お主らのためならどんな無茶も押し通そう。わしの後継者はお主以外にはおらん……!』
「………………」
期待が大きすぎるんだよおおおおおおおお!!!
一般人に何を頼んでやがる!!!!!
『お、おっと! わしも忙しい身じゃ! 息子との会話を楽しみたいが、今日はこれでしまいじゃ。それじゃあのう』
「お、おい! ちょ、ちょっと! 待て――き、切りやがった」
受話器の向こうから「ぷー、ぷー」という無機質な電子音が悲しく耳に届いた。
……おい、ま、マジか……。
「同情はするわ。気の毒ね。でもいいじゃない。これでお金には一生困らないわよ」
「い、いや実感ねぇよ。むしろ、爺さんには悪いが悪徳商法にかかった気分だ」
……いきなり時給億の仕事が回ってきます……っと、言われてもなぁ……。まだ異世界に転生した方が現実味があるんじゃねぇか……?
「……はぁ……お、俺は一体どうすれば……」
「わたくしと結婚しなさいな。最悪一緒に住まなくても戸籍だけ一緒になってくれればいいわ」
「…………」
人生がクライマックス過ぎる……。
「貴方の結婚相手はわたくししかありえないわ。『利害』が一致するもの」
「な、なんで、そんなに俺と結婚したいんだよ? 俺ってイケメンだから仕方ないけど」
「いえ、顔はよく言って中の下ではないかしら。上の上であるわたくしとはつり合いが取れないわね」
うっせええよ!!! ここで心を折ってくるんじゃねえ!!!
自分でもわかってるよ! でも冗談の1つでも言いたくなる心境なんだよ! 逆に!
「そう落ち込まないで。顔はともかく、あなたの人間性は認めてるわ。わたくしも『選択肢がない』とは言え、少しは足掻きたいもの」
「人間性って……昨日初めて話したじゃねぇか……」
「会話はそうね……でも、わたくしは半年間、貴方を見て来たわ」
「………はっ?」
半年って俺が学食で働き始めた時からか……?
「それってストーカーか? 警察行くか?」
「……貴方失礼ね。でも……そんな所も面白いわ。ふふっ、こちらも複雑な『家族事情』だけど、不満は抱かせないわ。それに今すぐ決めろとは言っていないわ。わたくしが学校を『卒業』するまでに答えを出してくれればいいわ」
如月は歳不相応な妖艶な笑み浮かべる……。
もう……何が何だが……ああ、社畜時代の何も考えないで働いていた時期が懐かしい……死んでも戻りたくないけど。
そうして――そんなこんなで俺と如月のお見合いの時間は流れていった。
……果てしない宿題ができた気がするが……。




