バレンタインの幕開け(1)
◇◇◇
懇親会終了から数時間、日付が変わろうとしている。
俺は少しおぼつかない足取りで、自分の家に向かっていた。
人間飲まなきゃやっていられないこともある。俺は仕事が終わると三沢と葵ちゃんと浴びるように酒を飲み、結構いい感じに酔っぱらっていた。
「たくっ……この歳で『見合い』とか何のつもりだよ……ひっく……いや、この歳だからか」
俺ももう30中盤だ。世間では結婚して子供がいてもおかしくない歳だ。そりゃあ、見合いの1回ぐらいはしてもいいのかもしれない。
(だけどなぁ……結婚はしてなくても娘はいるしなぁ……『如月』の思考回路がマジでわからん)
数時間前に会話した小さい美少女のことを思い出す。
彼女の要求……というかお願いというか、頼みというか、命令は1つで、ある人物と明日……お見合いをして欲しいというものだ。
「…………」
それだけ聞くとマジで意味がわからんな。
だけど……安心してほしい。俺もマジで意味がわからんから。あいつ、要求だけ言うと――。
『わたくしも忙しい身なので、これで失礼するわ。それでは明日、早朝に迎えを送りますので。早くすめば午前中には終わるわ。それではごきげんよう。いい夜を』
とか、言って優雅に去っていきやがったし。
はぁ……マジで意味がわからん。俺に見合いをさせてあいつに何の得があるんだよ。目的がわからない要求ほど怖いものはない……。
そりゃ、酒に溺れたくもなる。
「三沢と葵ちゃんに信じてもらえねぇしな……」
まあ、『俺今日、見ず知らずの美少女からお見合いに誘われたんだ!』っていう言葉をすんなり受け入れられる方が少数派か……。
唯一の救いはお見合いは午前中で終わるそうなので、未来との『先約』とは被らない点だ。
明日は未来と実花とお洒落なランチ行く約束をしてる。夜は明菜との飲みだしな。
というか……なんでみんな明日に予定を入れたがるんだよ……なんかあんのか明日?
(はぁ……お見合いか……1人身の頃だったら多少は楽しみにしてたのかもなぁ……あれだけの美人が連れてくる女なんだから、とんでもない美女が来るかもしれないし……でも娘がいる身としてはな……お見合いか……はぁ……あ、家着いた)
俺は盛大にテンションを下げながら、ごちゃごちゃと考えていると、いつの間にか家の前にいた。どうやら深く考え込んでいたらしい。
とりあえず起きてたら娘たちに『如月』のことを聞いてみるか……。
ガチャ。
俺は家の鍵を開けて扉を開け家の中に入ると――。
「ただい――」
「あっ、お帰りなさいお父さん」
俺は言葉を止める。酔いが全て吹っ飛んだ気がした。
それもそうだ。リビングには制服姿にエプロンという魅惑な服装で仁王立ちしている未来と――。
「ぐすん……もう許してよ…ぐすん」
涙目で正座している実花がいた。何故か下着姿で。
白の下着がとても可愛らしく、その大きな胸は男をどうしようもなく惹きつけ、目が離せなくなる……頬も泣いているせいか赤く染まっているので、やたらエロい。
「お、お邪魔しました……」
廊下に出る。ここは俺のいていい場所ではない――。
ガチャ。
「お、お父さん……どこに行くんですか。あなたが居るべきはここしかないよ」
「う、うっせええ! なんかヤダ! とてつもないことに巻き込まれそうでヤダ! 俺は明菜の家に泊めてもらうもん!」
「お、お父さん、深夜なんですから、変なことを口走らないでください」
まったくもって正論だ。だから声のボリュームは抑えたし。
「ほ、ほらお父さん、わがまま言わないで家に入ろ……?」
ついさっき見た衝撃的な光景を見てなかったら、素直に従っただろう。
だけどそうはならなかった……あれは親でも家出する光景だ。家出は川島家名物なので。
ガチャ。
「あ、あの、う、うちに泊まりますか?」
まさかのお隣さん、明菜の登場。
明菜は扉から顔だけひょっこり出し、俺のさっきの魂の声を鵜呑みにしてるのか、顔が赤く、軽くテンパっている。
うむ。さすが俺。話がさらにややこしくなる。というか、明菜もお人好し過ぎだろ。
「お、お布団も2つありますし……な、なんなら……お、おな、同じ……べ、べっーー」
「泊まりません! ほらお父さん、いい子だから帰るよ。事情は説明するから……」
「はぁぁぁぁぁぁぁ……」
盛大にため息。
俺は力ずくで家に押し込められた。これ以上抵抗すると本当に近隣の迷惑になりかねないので……素直に従おう。
そしてーーそんなこんなしてるうちに日付が変わった。




