お仕事を頑張ります(5)
昼休憩も終わり、今度は洗い物の山と、懇親会の準備、さらに終われば食材の発注に、売り上げの計算をしたり、銀行に入金に行ったり、等々……。
いやぁ~、自分で言いうのはおこがましい気がするけど、俺って結構働いている気がする。いやマジで。
その分、調理や懇親会会場の設営などは三沢とかに任せてるけど。
まあ、そんなこんなで気が付けば時刻は夜7時を回っていた。
「はぁぁぁぁ、やっと落ち着いた……」
俺は事務所で一息つく、今懇親会が開始し、後は終わり次第片づけをするだけだ。
「あはは、テンチョーお疲れ。今日は中々厳しい戦いだったな」
三沢が2人分のコーヒーを持って事務所に入ってくる。こいつも残って懇親会の片づけをしてくれる話になっている。
「由衣と新井は帰ったか?」
「ああ、嫌々だったけどな……ふっ、由比なんか、かなりのふくれっ面だったぞ」
「はぁ……何でサービス残業できなくていじけるんだよ。普通逆だろ」
新井は気に入った相手には義理堅いけど、意外と要領いいところがあるから心配ないけど、由衣は心配だな……力の抜き方を知らない。
なんか数年前の葵ちゃんを見てるみたいだ。
あの時、葵ちゃんリアルに胃に穴が開いたからな……。このままだとにのまいになるぞ。
「なぁ、本人が残りたいって言っても、あの2人は無理やり帰せよ? 言い方は悪いけど、あいつらバイトなんだから、社畜になる必要はない」
「それは同感だ。あいつらに無理させるぐらいなら、生名に米炊きをさせた方がマシだ」
……いや、だからってエリアマネージャーに米炊きさせんなよ。はぁ……これ以上忙しくなるなら素直にバイトの数を増やすか。
4月になると土曜日の懇親会も増えるみたいだしな……前みたいに、臨時バイトとして未来を頼るのもどうかと思うし。
「はぁ……社畜滅びねぇかな……」
「まあまあ、そんなにくさんなって。そうだ、明日休みなんだし、これが終わったら飲みに行こうぜ」
「ああ、それもいいな」
そういえばこいつとサシで飲みに行ったこないな。うむ、偶にはそんな珍しい日があってもいいだろう。
……気分的に飲まなきゃやってられないのは事実だしな。
「あっ……でも2人で飲むのはまずいか」
三沢は自分で切り出しておきながら、しまったという顔をする。おい、その反応は少し傷つくぞ。
だけど……ちょっと意外だな。
「えっ? お前ってそういうの気にする奴だったのか?」
「いや、あたしとしてはまったく問題ないんだけど……あ、あれだよほら」
なんか露骨に慌て始めたな……どうしたんだ?
「えっと……ああ! ふ、2人で飲みに行くと未来に精神攻撃をされるんだよ! あいつ黒魔術とか使えるから呪われるしな!」
「人の娘に無茶苦茶言ってるんじゃねぇ……と、言いたいところだが……」
……三沢が言うことも一理ある。いつか家の棚からご五寸釘と藁人形が出てきたらどうしよう……。
「なんか……すまん」
「あ、謝らないでくれよ……あたしも板挟みでどうしたらいいのかわからねぇんだ。あ、葵でも誘おうぜ、あいつなら問題ないぜ」
「そ、そうだな。葵ちゃんには俺の社畜理論を叩き込んであるからな。どんなに忙しくても酒が飲めるなら喜んで遊びに来る」
……社畜は会社の人以外との会話に飢えているからな。尻尾を振りながら来るぞ。仮に明日出勤でもな……。
まあ、俺は明日明菜と飲みだけどな! もしかして勝ち組か!?
「なら、あたしから連絡しとくよ。よし、先に厨房のガスのチェックとかしてくる」
「ああ、それなら俺は懇親会の様子でも見てくるかな。洗い物とかあったら下げてくるか……」
早く上がって飲みに行こう。週末なんだ少しぐらい遅く帰っても罰は当たらないだろう……。娘たちも許して――。
「…………」
電話ぐらいするか。
◇◇◇
俺は家に電話した後、懇親会の会場である食堂にやって来た。
今回のパーティーは立食形式なので洗い物などを下げやすいからな。
(たく、未来のやつ……あそこまで誰と飲みに行くかを問い詰めなてもいいじゃねぇか……)
未来いわくーー。
『お父さんも息抜きが必要です。なのでぜひ飲みに行って下さい……でも……誰と行くんですか? 誰ですか……? 葵さんですか……? 三沢さんですか……? その二人なら許可しますが……夢野さんや由衣がいるなら私も行きます』
とのことだ。
未成年を居酒屋に連れて行けるわけねぇだろ。
(はぁ……さっさと仕事を終わらせるとするか……?)
懇親会の会場を見渡すと、100人ほどの人間が楽しそうに会談をしていた。その中の4分の3はここの学生だ。確か……今日は演劇部の懇親会だったな……。
(ここまでの人数が集まるとか……よっぽど有名な部活なんだろうな)
俺はそんなことを考えながら、料理卓に向かうと空いた大皿を下げようとする。
今回は若い学生が多いということで料理は多めに設定をしている。だが、料理の減りはいい、どうやら満足してもらっているようだ。
(よかった……この時間でこの減りは量も質もばっちりだな――)
『もし、そこの貴方』
「ん……?」
その時、会場にいた一人の女子生徒に話しかけられた。
小さくて可愛らしい女の子だ。身長は140センチあるかないかぐらいで……顔立ちは幼さは残るが、人形みたいで可愛らしい。なんというか、顔のパーツが黄金律で並んでいるようだ。
そして、一番特徴的なのが気品ただよう、その存在感だ。つけている時計とか高そうだし、いいところのお嬢様みたいだ。
(勘だけど、将来……すげぇいい女になりそうな人だな……ん? というかこの女生徒どこかで……んんー、まあ、いいか)
「えっと……何か御用ですか?」
俺がそう尋ねると、少女はまるで大事な試験前のような真剣な顔で、俺の傍に寄り、小さく口を開く。どうやら周りに話を聞かれないように配慮しているようだ。
「川島義孝さん。貴方に『縁談』の話をお持ちしましたわ。きっと、ご満足いただけるのではないかしら」
少女は真剣な表情のまま、そんなことを言う……思考が止まる。縁談……縁談ってなんぞ?




