お仕事を頑張ります(4)
何とか営業時間が終わり、ひと段落着いた。
今日はストックを多く抱えていた麺類を除き、全てが完売という大盛況ぷりだ。これなら今月も目標売上に届きそうだな。
よきかな。よきかな。
それで今俺は由衣が早く来てくれたおかげでゆっくりと昼休みをおくることができていた。
三沢が作ったまかない料理を、学生たちが居なくなって閑散とした食堂で、従業員たちと共に食べている。
今日のメニューは根菜と豚肉の煮物と残った広東麺のあんをアレンジした中華丼、そして具沢山の味噌汁だ。うん、三沢の料理は相変わらず美味い。
見た目はヤンキー丸出しだから……ギャップがすごいけど。
「わああ、麻衣さん、この煮物美味しいですね。私もこのぐらい作れたら絆も喜ぶのにな」
「おおよ。あたし特製の煮だれを使ってんだ。興味あるならレシピを教えてやろうか?」
「えっ、いいんですか?」
煮物を食べながら女性陣は楽しくおしゃべりをしている。うむ、由衣が言う通り、この煮物はよく味がしみ込んでいて、根菜や豚肉は柔らかい。
うむ、確かに美味い……これもメニューに加えてもいいか? まあ、食べ盛りのガキはから揚げとかガッツリした物の方が喜ぶか……。
……おっさんは若い子の好みがわからない……。
「ん? 兄貴、難しい顔をしてどうしたんすっか……? 嫌いな野菜でも入ってました? 仕方ないっすね。僕が食べてあげるっすよ」
「ちげぇよ……」
……俺はガキか。
「そ、そうだ。店長って……嫌いな食べ物ってあるんですか……? あと好きな食べ物も……お、教えてほしいかと……」
由衣は俺の様子を伺うように上目遣いでおずおずと聞いてくる。
理由はわからんが、普段は凛々しいのに、こう弱々しいと……からかいたくなってくるのが男という生き物だろう。
「えっ……? お前おっさんの好き嫌いとか、気になるのか?」
「そ、その言い方はやめてください! て、店長とも付き合いも長くなってきたので、興味本位です!」
「テンチョー……相変わらずひねくれてるな……さっさと答えてやれよ」
「いや、音無にはそれぐらいの対応で丁度いいっすよ。ちっ」
蔑むような視線を送ってくる三沢と、不機嫌そうな新井。
あ、あれ……軽いジョークのつもりだったのだけど……いい過ぎだったか?
「すまん、冷静に考えたら若い子に言うことじゃなかったな」
「あ、い、いえ……私も感情的になりました……ごめんなさい。そ、それよりも、好みを教えてください」
「あ、ああ、好きな物は肉料理が好きだな。角煮とかスペアリブとか。嫌いな物は人間が食える物だったら特にないな」
イナゴとかの珍味系は、あまり食べたことがないから未知数だけど。
「テンチョー、そういえば未来は洋食が得意だったよな……?」
「そうそう。最近ハマってるらしくてな。グラタンやミネストローネとかが最近よく食卓に上がるな」
「へぇ、さすがは未来の姉御! 高校生なのに色々料理できるんすっね! やっぱり女はそうじゃなくちゃなぁ。なぁ、音無」
「う、うっ、わかってますよ。私も料理ぐらい……できますよ?」
最後自信なさげなのが可愛いな……。
「おい、新井、あんま由衣をいじめてやるな」
さっき失言をした俺が言うことでもないが……。
「はぁ、まあ、兄貴がそう言うなら――」
呆れたような顔をしていた新井は言葉を途中で突然切り、次第にその顔は驚いたような表情になる。
「あ、兄貴! 今こいつのことを名前で呼んだっすよね?」
「えっ……あ、ああ……」
まずい。つい新井の前で名前を呼んでしまった……でもいつかは知られることだし、別にいいか? ガキじゃあるまいし。でも大騒ぎされそうだ……。
「はぁ! このあま! 神聖な職場で何を発情してやがる!!!」
「は、発情なんてしてません! 呼び方はその……」
「あ、ああ……問題があるなら苗字呼びに戻すけど……」
「あ……えっ……? そ、そうですか……そうですよね……そうなんだ……はぁ」
おい、由衣……この世の終わりのような顔するんじゃねぇよ。罪悪感が半端ねぇ……も、もしかして、そこそこ好かれてるのか俺? 勘違いしちまうぞ?
「新井、テンチョーがどう呼ぼうかいいじゃねぇか。それよりさっさと、食っちまおうぜ。これから仕事は山の様にあるんだから」
「……そうすっね。兄貴がいいなら、いいっすけど」
「だろ? テンチョーは呼び方はそのままでいいんじゃねぇね?」
「まあ、問題ならいいんだけど……由衣もそれでいいか?」
「……は、はい……ほっ」
俺がそう言うと由衣は安心したような笑顔を俺に向けてくる。
どうやら……このまま名前で呼んでいいらしい。
「………」
自分でもよくわからないが……そのことに妙な安心感をい抱いている自分がいた。




