夢見るバレンタイン(11)
それから俺たちはマンションに戻り、部屋の前の廊下に帰ってきた。
「そ、それでは今日はありがとうございましたぁ……14日よろしくお願いします」
明菜の顔は赤く、どこかまだ緊張していた。それを隠すように自分の家に駆けこんでいった。
そこで俺は大きくため息をつく。
「はぁ…………」
別に嫌ではなかったんだけど……若い子と一緒にいると気疲れがすごいな……。どうやら俺は風俗で余った時間に喋るぐらいが丁度いいということがわかった。
風俗マスターである俺でも3時間以上2人っきりでお喋りするとか……難度が高い。前に音無さんとデートした時も思ったけどな……でも、音無さんとは別の緊張があった……。
なんとか楽しませなきゃ……的な考えがずっと頭にあったし……。
その点、音無さんはそんなにわたわたしてなかったお陰か、そういう焦りはなかった。
(何はともあれ……これで終わりか。いや……来週の土曜日また会うのか。……ただ飲むだけなんだからあんまり気にしなくてもいいと思うが……)
俺は自分のスマホを取り出して見つめる。先ほど明菜と連絡先の交換をした。
半年以上の付き合いだが……連絡先交換してなかったからな……。
職場関係と家族以外では初めて若い女の子と連絡先を交換した気がする……なんというか、むずがゆい……これから夜な夜なメールでお話とかしたりするのだろうか……。
「はぁ……俺はガキか。そんな夢見る歳でもねぇだろ……」
俺は自分の考えが恥ずかしくなり、そんな考えを消しながら自分の家の扉を開いた。
今日はうまいものでも食って、酒を飲んで――。
とか、考えていると、信じられない光景が視界に映った。
「お、お父さん……」
「あっ! パパお帰り!!」
それはリビングにいる娘たちの姿だ。実花はいつも通りの笑顔で、未来はいつも通りの無表情で頬だけほんのりと赤い。その理由は単純明白だ。
2人はリビングの中央に立ち、痴漢ごっこをしていた。
いや……何を言っているのかわからないかもしれないが……風俗歴が長く、AV研究家の俺にはわかる……。これは痴漢ごっこだ。
未来は制服姿で上半身は半脱ぎの状態で下着が見えていて、天井から吊るされた電車のつり革を握っている。それ……どこで手に入れてきたの?
そして実花はそんな未来を後ろから抱きしめ……おっぱいをもみもみと揉んでいる。ちなにみに俺が部屋に入ってからもその手は休むことはなく、おっぱいをこねくりまわしている。
「お、お姉ちゃん、お父さんが見てるから……」
「くすっ……見てるから? 未来ちゃん……私一応現役JKだから、どことは言わないけど……どんどん硬くなってきてるよ?」
「もっとやってください……。お父さんに見られてると興奮します」
「おっけー!! 実花ちゃんフルコースを――!!」
「待て!!!!!! てめえらそこに正座しろや!!!!! ドン引きだわ!!!!!」
俺は思わず雄叫びを上げる。俺がエロネタでドン引きする状況とかマジでレアだからな。だけど……さっきまで腕を組むだけで真っ赤にしていた明菜を相手にしていたからか……娘たちを本気で更生させたくなった……。
◇◇◇
『待て!!!!!! てめえらそこに正座しろや!!!!! ドン引きだわ!!!!!』
義孝の雄叫びが隣の部屋から聞こえてくるが……。
「ど、どうしよう……よ、義孝さんとバレンタイン約束しちゃった……」
それが耳に入らなぐらい明菜は気が動転していた。それもそうだ……バレンタインの約束は今日みたいに『偽のデート』という立て前はない。
正真正銘のデートなのだ……明菜の中では……。
「はあぁぁぁぁぁ」
深く息をはくと、そのままどすっとベッドに倒れこむ。まだ頭の中が緊張で埋めつくされている感覚に支配されている。
「わ、わたし、とんでもないことをしちゃったんじゃ……」
そして、次にやってきたのは羞恥心で、穴があったら入りたくなるほど、恥ずかしさでどうにかなりそうだ。
「い、いきなり腕に抱きついちゃって……む、胸を押し付けて……で、でも、葵さんが『義孝さん』は胸が好きって言ってたから、勇気を出して……」
その時、自分口から出てきた言葉にキョトンとなる。自然にするりと口から出てきた『義孝さん』という言葉。
やがて自分で驚くぐらいのにやけ顔になり、ベッド近くに置いてあったお気に入りのペンギンのヌイグルミ『キャサリン』を手に取り、ぎゅうううっと抱きしめる。
「えへへ……義孝さん、義孝さん……義孝さん……えへへ」
何度呟いても飽きることはない。それどころかどんどん愛おしくなっていく。
しかも次回に約束までできた……しばらく1人でいる時は自然とにやけそうだった。




