夢見るバレンタイン(7)
◇◇◇
同時刻川島家にてーー。
「…………」
「…………」
姉妹は仲良く向かいあって各々作業をしていた。
未来は引き続き英語の勉強。実花はノートパソコンを開き、イヤフォンをつけてカチカチとマウスをクリックしている。
義孝が家を出て数十分ーー。時間が経つにつれて未来は自分の機嫌が悪くなっていくのを感じていた。
(夢野さんはお父さんとデートしてるのに……私は勉強……ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい……)
「未来ちゃん、未来ちゃん、負のオーラが漏れてるよー。ふぁー」
その時実花が上品にあくびをしながら、未来に言う。すると、未来は無表情ながらもむすっとして、実花を見る。
「ふん、だってお父さんがデートしてるんですよ? 冷静でいられるはずがないよ」
「ええー、でも偽りのデートだよ?」
「関係ありません。夢野さんはそうは思っていないはずです」
未来は身内以外の人の心を察するのが苦手だ。それは自分でも自覚している。
だが、そんな未来でも明菜の気持ちはをわかる。それぐらい明菜はわかりやすい。
「はぁ、お父さんは女性の心に対して鈍感過ぎます。今しているのを偽りのデートだと思っているのはお父さんだけです。はぁ……本当になんで気がつかないのかな……ストーカーをあぶり出すだけなら、いくらでも方法があるのに」
未来は今までの不満を吐き出すように早口で語る。それを見た実花は優しく笑う。
「パパのそんな純粋なところも素敵じゃん」
「そ、それはそうですが……」
未来は実花の言葉に思うところがあるのか、言葉を濁す。
そして実花は小さいく笑いながら、言葉を続ける。
「くすっ、それに夢ちゃんならいいんじゃない? 夢ちゃんパパとの関係に悩んでたみたいだし……」
「それはそうですが……」
未来は明菜が義孝を深く想うあまり、うまくコミュニケーションがとれてないことを知っていた。
というか、何度か義孝から相談されていたこともあった。
昨日なんかはつい助言までしてしまっている。
「はぁ……なんで夢野さんのような美人がお父さんに恋をしてるのでしょうか……? 歳だって一回り以上離れてるのに」
完全に自分たちのことを棚に上げた発言だが、嫉妬心から口にせずにはいられなかった。
それは実花も同様なのか、苦笑いをする。
「本当にね。優しくて巨乳でさらには処女なんだから……国宝だよ国宝」
「あっ、夢野さんって本当に処女なんですか……?」
「うんうん、実花ちゃんレーダーに間違いはないよ。下手したら、手すら繋いだことがないよ。女子校、女子大出身だって言ってたし」
「…………」
(ら、ライバルとして強大すぎます…………由衣みたいな野蛮人相手ならどうにでもなると思っていましたが……これはまずいです……それにアヤメさんもなんか怪しいし……)
「くすっ、未来ちゃん、恋する少女の顔になってるよ? 可愛いー」
「……どんな顔ですか……?」
「包丁を持ち出してホテルに乗り込む顔」
「……私はそんなことしないもん。少なくとも絶対に包丁は持っていかない。お父さんを傷つけません」
「未来ちゃん視線を合わせてお話ししようねー」
(乗り込むことは否定できないので、それはできません……はぁ、このままでは不利ですね……『バレンタインの策』にもう一手間加えた方がよさそうです)
「あはは、競うのはいいと思うけど正攻法で勝負しなよ?」
「…………は?」
未来は面白そうに笑う姉をジト目で見る。未来の目が物語っていた『お前が言うな』と……。
一番『正攻法』という言葉が似合わない人間だ。
「お姉ちゃん、私はまだ一番最初にお父さんに抜け駆けで会いに行ったことを恨んでるかね」
「おっと……! 雲行きがあやしいから私は趣味の世界に戻るぜい!」
「もう……ていうか、さっきから何やってるの?」
「エロゲー。今日は痴漢もの」
「聞くんじゃなかった……他人がエッチをしてる創作物の何が楽しいんだが……」
未来は盛大に呆れ、自分も勉強に戻ろうとした時ーー。
「ええぇー、これパパの持ってるAVの種類から考察して導き出したパパの好みだよ?」
「気が変わりました。私も一緒にやります」
表情をキリッとさせて答える未来。
それを面白そうに見ている実花。
そんな姉妹の時間はゆっくりと流れていった。




