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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第一章『異世界に召喚、いや、異世界を召喚した少年』
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七の巻『誕生、現代の冒険者ギルド』

   七の巻『誕生、現代の冒険者ギルド』



 忍の赤字経営を脱出するために雷丸が考えた方法が派遣会社である。


 仕事の依頼を受け、内容に適した人材を派遣する。これだけ聞けば異世界の冒険者ギルドとシステムが同じだと思付いたことが全ての始まりであった。


 成人している忍を社長にすえ、企画半年で会社をおこした。


「冒険者を夢見る若者たちよ、よく集まってくれた」


 ギルド一階ホールの檀上。元は旅館の食堂であったスペースに丸い木製のテーブルを持ち込みファンタジー風酒場のような内装になっている。


 そこで自分も一六歳の若者である伊古代雷丸が、集まった若者たちに演説をしていた。


 できる限り声を張り上げ後ろまで聞こえるように、でも怒鳴り声にならないように丁寧に、マイクなどの音響機械は異世界にイメージに合わないと一切配備していないこだわり設計、利便性よりも雰囲気を優先している。


 現代(リアル)冒険者ギルド『狼弧(ろうこ)』本日開店である。緋桜配下の十五名の御側役たちがホールスタッフとなり案内役や整理役をこなしていた。


「ここには空想の中にしか存在しなかった魔法があり冒険がある異世界への入り口だ」


 間違いなく自分の演説に浸っている雷丸、集まった人々も温度の差こそあれ雷丸の演説にテンションをあげているのが見て取れた。


「初日からなんでこんなに人が」


 初日のギルドには三十人以上の若者が集まっていた。そんな中ただ一人、場の空気についていけない緋桜は引き気味になっている。


 一応、雷丸の護衛として演説をしている檀上のすぐわきに控えているが、服装は胸の谷間が見えるように加工されたベージュ色のエプロンドレス、今朝突然渡された制服であり、長命令で着させられていた。


 忍として目立ちたくない緋桜だが前列にいる男性たちからの視線を集めている。


 雷丸よりも自分の身の方に危険を感じる緋桜。


「裏に行って着替えたい、たいした宣伝もしてないはずなのに集まり過ぎです」

「ギルドカード開発チームの中に雷丸の同類がいて、同好の士にここの情報をリークしたみたいです。別に機密ではなかったので」


 緋桜の隣には冒険者ギルド『狼弧』のスポンサー兼副ギルドマスターの亜雪がネイビーカラーのパーティードレスに身を包み緋桜と共に会場の花になっていた。


「それでは、これより当ギルドの仕組みを受付嬢より説明がある。緋桜あとは頼んだぞ」

「はい、って何をですか!?」


 檀上でのギルドマスターの熱弁を聞き流していたら緋桜は唐突に話を振られた。


「このギルドの説明だよ、昨日マニュアルを渡しただろうが、読んだよな」

「はい、それは読めと言われましたので」

「その説明をしてくれればいい」

「私よりも雷丸様の方が詳しいではないですか!」

「冒険者にギルドの説明をするのは受付嬢ってお約束があるんだよ、さぁお待ちかね当ギルドナンバーワン美少女受付嬢がギルドについて説明してくれるぞ!!」


 おおおおぉ~~とホールに集まっていた男たちから地響きのような歓声がおきる。


「び、美少女!!」

「おう、俺がそう思ってるんだから間違いない」


 美少女といわれ顔を赤くする緋桜、パニックを起こしてる内に檀上に登らされてしまった。


「説明よろしく」


 入れ替わりで降りていく雷丸、一人残された緋桜は責任感の強い少女、雷丸に頼まれれば結局最後には従うはめになる。


「そ、それでは当冒険者ギルドの説明をさえてもらいます」


 暑すぎる視線を一身に集めながら、ひきつった顔で説明を始めた。


 緋桜に任せれば心配ないと雷丸は亜雪の隣に並んで腕を組み自信たっぷりなギルドマスターの演技に力を入れる。


「ナンバーワン美少女ですか、今はまだ受付嬢は緋桜さん一人だったと記憶していますが」

「ああ、そうだぞ、嘘じゃないだろ」

「ズルい人ですね、私も受付嬢をしてみましょうか」

「おう、亜雪なら大いに歓迎するぜ」


 日本的美少女の緋桜に西洋人形のような可憐さを持つ亜雪、二人がギルドの受付に並べばそれはさぞ絵になることだろう。


「その場合、どちらがナンバーワンの受付嬢になるのですか?」

「そいつは、ここに集まる冒険者が決めるさ」

「本当にズルい人ですね」


 ギルドマスターモードの雷丸は気取って話を受け流す。


 呑気なギルドマスターズに替り、緋桜は檀上で必死に説明を続けていた。


「クエストはA~Eの五段階のランク分けがされており、登録されたばかりであるEランクの皆様は、Dランク以上のクエストしかない異世界クエストはすぐに受けることはできません」


 派遣会社を立ち上げた以上は仕事をこなさなければならない。異世界冒険を目当てに集まった人材を、どう理由をつけて現実の派遣仕事をしてもらうか、ひねり出した答えは異世界のクエストをチケット制にしたのだ。


 そして異世界クエストチケットは現実の派遣仕事をしないと手に入らない仕組みである。異世界冒険に憧れを抱く者ならきっと頑張って現実クエストを頑張ってくれるだろう。だが――


「初回登録サービスとして異世界クエストチケットを一枚だけ皆様に配布します」


 取りだされたのは映画の前売り券と似たチケット。現実の仕事を頑張ってもらう前に異世界冒険を存分に体験してもらい、やる気を倍増させようと雷丸は狙っていた。


「こちらをギルドのカウンターにお持ちいただければ、たとえEランクであっても異世界クエストは受理されます」

「大盤振る舞いですね」

「最初に楽しさを知ってもらわないとな、もう一度やりたいと願うなら頑張ってギルドランクを上げてチケットを集めるしかない」


 忍達と作り上げた裏山異世界に絶対の自信を持っている雷丸、亜雪も異世界クエストの楽しさは否定しない。


「そして、ランクを上げるには普通の派遣仕事をこなさいといけない」

「その通り、よくできたシステムだろ」

「話に聞くだけでしたら、問題は現実の派遣と異世界クエストのバランスですよ。どちらかに偏っても冒険者ギルドは破たんします」


 若くても戸隠峰大財閥の娘、経営に失敗して破たんする人間を少なからず見てきている。


「わかっているつもりだ、一度経験したしな」


 亜雪の見てきた破たんの一つに雷丸の実家でもある元富豪、伊古代家も含まれていた。


「だけど、夢だった異世界冒険がそこにあるんだ、やらずにはいられないって」


 雷丸が手をかざすと、ホールスタッフに扮していた忍達が一斉にクエストボードにクエスト洋紙を張りだした。


 クエストの内容には現実の派遣仕事に混じって異世界クエストも張り出されている。初回サービスチケットを受け取った新規冒険者たちはクエストボードへと殺到した。


 お気楽に見える雷丸にも不安はあったが冒険者ギルド『狼狐』初日は順風満帆の出発を決めてみせた。

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