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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第一章『異世界に召喚、いや、異世界を召喚した少年』
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八の巻『リアルクエスト』

   八の巻『リアルクエスト』



 冒険者ギルド『狼弧』が始まってから一週間が経過した。


 チケットの影響か、初回サービスチケットで異世界クエストにはまった人の多くはランクをEからDに上げ、異世界クエストを楽しんでいる。


 中にはゲームと違いリアルで体を動かすのが辛いと最初の一回以来訪れない者もいるが、逆に早く異世界に行きたいと三日でDランクになった猛者もいた。ちなみにDランクが上がる条件はEランクのクエスト(派遣仕事)を十回受けることである。


 現代での仕事は普通の派遣バイトと変わりはない、倉庫整理などの軽作業やパソコンのデータ入力にイベント会場スタッフ、もっとも簡単なモノになるとお年寄りの買い物代行などもある。これらの仕事は亜雪の親が会長を務める戸隠峰コンツェルンの傘下の派遣会社から回してもらった。


「こ、こちらの依頼ですね、ギルドカードの提示をお願いします」


 一週間たっても慣れない受付嬢の緋桜、笑顔になりきれていない営業スマイルで危なっかしく依頼の受理をおこなっていく。


「依頼達成を確認、問題無い。今回でDランクに昇進、おめでとう」


 それに対して営業スマイル一つしないのに、なぜか板についている今日が初日の受付嬢、狐賀山清、一週間の休暇を終えて現場復帰していた。


「才能を感じる、次も期待」

「お、おう、ありがとう、頑張るぜ!」


 顔を赤くさせギルドボードへと向かっていく若い現代の冒険者、あのようすならすぐに新しいクエストを選びカウンターに戻ってくるだろう。


 清の言葉は棒読みに近く感情があまり感じられないのに、異性にやる気を起こさせる不思議な魅力のスレンダー少女、緋桜と同じエプロンドレスを纏っているのに谷間は存在しなかった。


「清、本当にはじめてなのか?」

「当然、潜入任務と一緒、その場の空気を読み溶け込む」

「これを忍の仕事とは思いたくない」

「不思議な事を、御頭様からの指名任務、名誉」

「そうなのだが、本来なら名誉のはずなのだが、私の中の忍の心が拒絶反応を起こすのだ!」


 忍ぶどころか、ギルド内で一番目立っている受付嬢。


 幻術結界を張った裏山を公開するだけでも胃が痛くなっていたのに、緋桜はわずか一週間でいろいろな意味でピークにきていた。カウンター後ろの事務所から重たい影を背負う様子を見ていた雷丸と亜雪は。


「そろそろ忍っぽい依頼をうけないと、緋桜のストレスメーターが振り切れそうだな」

「でしたら、これなんてどうでしょか?」


 今日は緋桜や清とお揃いのエプロンドレス姿の亜雪が、一つのファイルを雷丸に差しだした。


「おいおい、ここでの依頼はクエスト洋紙って決めてあるだろ、バインダーの付いたファイルなんてイメージに合わないじゃないか」

「ごめんなさい、さっき持ってきたモノだから、それにクエストボードに張れるような内容でもありませんし」


 張れない内容という所に興味を引かれた雷丸は、文句を取り下げファイルを開いた。


「戸隠峰としましては、なるべく早くに解決してほしいのですけど」

「なるほど、確かにまだクエストボードに張るには冒険者たちのレベルもランクも低いな、これはBランク相当の依頼かもしれない」


 ギルドカードのスキャナでファイルの内容を読み取ると、素早くスライドさせ空中にクエスト洋紙が出現する。これが雷丸流の形式美。


「緋桜」


 たとえ慣れない受付嬢の仕事で精神が削られていようと、長のお呼びとあれば脊髄反射、音もなく席を立ち、歩く姿すら見せずに雷丸の目前に推参する。緋桜の抜けたカウンターには、別の忍兼ギルドスタッフ(男性)が座り、並んでいた冒険者たちを落胆させた。


「お呼びですか」

「これを見てくれ」


 クエスト洋紙を渡され、開くと一瞬で読み終えた。


「車の連続窃盗ですか」

「もう読んだのか?」

「速読は習得していますので」

「本当に雷丸の無茶振り以外は優秀ですね」


 亜雪の微妙な褒め言葉にわずかに眉を動かすが、それ以外は動かない。


「窃盗犯の確保、どうだできるか」

「それは警察の仕事では」

「もちろん警察も調べてくれています、しかし警察とっては数ある事件の一つ、この件だけを専門に追ってくれるわけではありません」

「固いことをいうな、洋紙にも書いてあるが、この窃盗犯はいまだ姿も手口も不明、そして狙われ戸隠峰コンツェルンが先月発売を開始した超電導式エンジンを積んだ車ばかり」

「戸隠峰としましても、窃盗のターゲットになりやすい、などのイメージがつく前に解決してほしいのです」

「つまり、窃盗団を捕まえたことすら世間には知らせず影に潜んで速やかに、が依頼人に希望だ、どうだ忍の仕事としてはもってこいだろう」

「た、確かにそうですね」


 さっきまで背中に背負っていた暗い影が無くなり、緋桜の顔に赤みを帯び生気が戻ってきた。


「緋桜、異世界ファンタジーじゃないリアルでのBランククエストだ、すぐに動かせる忍はどのくらいいる」

「清たち弧乃衛忍軍の休暇が終わりましたので、我々、御傍衆十五名はすぐに動けます」

「よし御側衆でこのクエストを受けるぞ、その間のギルド運営は弧乃衛忍軍に任せる」

「御意、御頭様」


 清もいつの間にかにカウンターを別の忍(男性)に入れ替わり、雷丸後ろに控えていた。これでカウンターには男しかいなくなる。


「清、ここでは御頭ではなくギルドマスターと呼んでくれ」

「失礼、ギルドマスター」

「それじゃ、冒険者ギルド『狼弧』はじめての高難易度クエストだ!」

「全力を尽くします」


 振り上げられる雷丸の拳に、珍しく緋桜が賛同した。

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