六十三の巻『見つけた』
六十三の巻『見つけた』
まだ不機嫌な表情で雷丸に疑惑の視線を向ける杏樹を連れてギルド本部に戻る、緋桜は雷丸の決定が絶対なので逆らうそぶりは見せないが、何を考えているかは理解できていないだろう。だがきっと何かがあると信頼して、しきりに杏樹に話しかけて疑惑を解消しようと説得していた。
「雷丸様は異世界のことには本当に真剣に考えています。ただ、発想が自由過ぎるので、結果が出るまでは振り回せれる事が、たまに、いえ、結構ある気がしますが、信頼はできると信じています」
「緋桜は本当に健気ね、大丈夫きっといつか報われるわ」
説得していたはずの緋桜が何故か杏樹に慰められていた。
疑惑はまだ少し残っているよだが、不機嫌さは薄れたので、説得も半分は成功したと言えるかもしれない。
ギルド本部に到着すると時間は日が沈みかけた夕方になっていた。裏山異世界で冒険を終えた者たちが少しずつ帰ってきている。
雷丸はカウンターに向かい今日は一日受付嬢をしていた清に話しかける。
「亜雪はいるか」
「今日はきてない」
「そうなのか」
夏休みに入ってからは護衛依頼の時以外毎日きていた亜雪が来ていないなんて珍しい。
「予定があってこられないそう」
「あいつもあれでお嬢様だからな」
家で何か緊急の用事でもできたのだろう。
これは計算外である。雷丸は亜雪に協力して欲しいことがあったのだ。
「もしかして、この前の副ギルマスがいないとギルマスの考えは成立しないの」
杏樹の声が確実に低くなって凄みを増している。確かに亜雪の協力があった方がよかったが、雷丸だけでもできないわけではなかった。
「亜雪がいれば効率がよかったけど、俺だけでも実現かのだ」
「そう、壮大な期待をさせてもらうわ」
「まかせろ、親友の期待を裏切ったりはしないぜ」
「誰だ親友よ、誰だ」
いやみ混じりの声援であったが雷丸は素直に受け取った。
「親友? 緋桜、後で説明要求」
「ああ、後で説明する」
清は新たなライバルの登場かと杏樹のことを警戒したようだ。緋桜の見立てでは、まだそんな様子はないが、そちら方面にはうといと理解しているので自信はなかった。
「とりあえず席に座ろうぜ」
雷丸はその疑いの目を驚きの目に変えてやると、カウンターから離れてギルドホールにあるテーブルにつく、元は旅館の食堂だけあって十分に広く二〇個もテーブルが置かれていた。
ここでは軽食も取ることができ、冒険者たちは出発前の打ち合わせや仲間の募集、帰ってきてからは冒険成功の打ち上げや戦利品の分配までと重宝されている。
雷丸に促されて席につく緋桜と杏樹。
「こんな所でどうするのよ」
「いいから、少し黙っててくれな」
雷丸は人差し指を立てて、静かにしてくれとジェスチャーする。
騒がしいギルドホールの中でポツンと一つだけ静かなテーブルができあがった。雷丸は目を閉じて耳をすまし周囲の冒険者たちの会話を拾い集める。
それが五分、十分、十五分と続き。
「…………見つけたぞ」
やっと雷丸が目を開いた。
「何を見つけたのよ」
「霊鳥の手掛かりだよ」
雷丸は立ち上がり一つのテーブルを目指す。
「よう、カーンズ久しぶりだな」
片手を上げてフレンドリーに話しかけた相手は、月光熊討伐クエストの時にリーダーを務めていた冒険者だった。
「サンダーか久しぶりだな、最近姿を見せなかったじゃないか」
「ちょっと長期のリアルクエストを受けてたのさ」
「なるほど、リアルマネーを稼いでいたのか」
「がっぽりいったぜ」
カーンズの座るテーブルには彼を含めて六人の男性冒険者がいた。皆月光熊討伐にいたメンバーである。共に強敵と力を合わせて戦った者同士、彼らも嫌な顔一つせず雷丸にフォレンドリーに言葉をかけてきてくれる。
「カーンズたちもトップパーティーの一つとして稼いでいるみたいだな」
カーンズのパーティーの平均レベルは十八もある。規模は六人と少数だが間違えなくトップレベルだ。
「トップと言われるのは嬉しいが、稼いでいるかといえば微妙だな、下の商店街に武器屋と魔道具屋ができたのは知ってるだろ」
「ああ」
作ったのは雷丸なのだから当然知っている。だがギルドマスターが雷丸だとは知られていない、相変わらずの知名度は低さだった。
「そこで皆、装備を買い換えたんがだ、所持金をほぼ使い果たしてしまったんだ」
「新装備ってその弓もか」
雷丸はカーンズの座る椅子に立てかけてある弓を差す。
「そうだ、装備出来る中で最も強いヤツを選んだ」
カーンズの他にも皆が真新しい装備をしている。その中に弓を持つ者がカーンズも含めて三人もいた。これは当たりだと雷丸は確信する。
「なるほどなるほど、装備を一新して金欠状態と」
わざとらしく含みのある言い方をする。
「どうだろう、そんな君たちにお金になりそうで、しかも名声も手に入りそうな話しがあるんだが聞く気はあるか?」
雷丸は身を屈めてカーンズたちにだけ聞こえるように囁いた。
「それは本当かい?」
「ああ、俺だけじゃない、後ろにいるチェリーも一緒に今日確認したばかりの情報だ」
雷丸は後ろに立っていた緋桜の事を親指で差す。
「しかもチェリー一人では倒す事のできなかった相手だぞ」
ガタガタガタとカーンズたちが椅子を倒して立ち上がった。全員あのチェリーが倒せなかっただとと、驚愕の表情をする。
カーンズたちの突然の行動に周囲の冒険者たちの注目を集めた。
「どうだ、間違えなく名声をゲットできそうだろ」
「……確かに」
カーンズがゴクリと喉を鳴らした。
チェリーの名前を出すだけで雷丸の話しに一気に信憑性ができたのだろう。月光熊討伐に参加した者たちの中では緋桜はある意味神聖化されていた。
話の成り行きを見守っていた緋桜はとても微妙な表情になる。
杏樹が肩に手を置いて慰めている。今日だけで彼女は何度緋桜を慰めたであろうか。
「詳しく聞いてもいいか」
「もちろんかまわないぞ、ただここだと場所が悪いから移動しようぜ、部屋代は俺が持つ」
「わかった俺たちにも依存はない」
カーンズは仲間と顔を見合わせて頷き合う。
「OK、場所を変えよう」
雷丸はカウンターに向かってパチンと指を鳴らした。
「清、上の小室を一つ貸してくれ」
ギルドの二階には使われていない部屋がいくつもあり、そこを時間制で冒険者へ貸出している。聞かれたくない作戦会議や情報交換、詠唱の練習など多目的に使用されていた。
「承認、松の間」
小室『松の間』の部屋の鍵が清の抜群のコントロールにより雷丸の手に吸い付くように投げ割らされた。




