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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第五章『冒険者が行方不明、原因は家出だ』
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六十一の巻『砦一階での出来事』

   六十一の巻『砦一階での出来事』



 緋桜を二階に残し階段を駆け下りる雷丸と杏樹、さすがに鈍いゴブリンたちでも二人の存在には気が付いた。上の階から壁を破壊する音と振動があれば当たり前であるが、雷丸の目算で三十匹近いゴブリンが砦の中へと入ってきていた。

 二人は出入り口に向かうことはできなかった、かといって上に戻ることもできない、仕方がなく階段から一階フロアへと飛び降りた。階段にいては追いつめられるだけだから。


 杏樹は剣を引き抜き、近づくゴブリンを片っ端から斬りつけていく。

 杏樹の冒険者レベルは七、やっと初心者を卒業したくらいの強さのはずなのだが。

 とてもレベル七の獣騎士とは思えない、重く鋭い斬撃は確実にゴブリンを屠る。レベルは低くともリアルで鍛えた剣道の腕は伊達ではなかった。

 この異世界においてのレベル一は現実世界の自分の身体能力がそのまま反映されている。過去、雷丸はレベル九十九まで上げるチートを使ったのに、レベル一の忍集団に抑え込まれたのは記憶に新しい。


「ギルマスはまったく戦闘力ないの?」

「すまん」


 獣騎士から従魔を引いても騎士としての力は残るが。

 召喚士から召喚獣を引いたら士、ただの人とかわらない。

 そしてリアルの琴房は、超が付くほどの平均的な日本の男子学生、戦闘力も一般人。素手の殴り合いでゴブリン一匹と同程度、杏樹にかかれば一撃でやられる力量だ。

 だがそれはレベルが一の時の話し、レベル十四まで鍛えた雷丸なら、杏樹の背中に回りこもうとするゴブリンを杖で殴って牽制くらいはできる。まあ、それしかできないが。


「召喚獣は呼び戻せないの」

「もう戻してる最中」


 力量は杏樹の方が断然上だが、数の暴力に押されて一階フロアの奥に追いやられていく。このままでは囲まれるのも時間の問題。

 ピンチを察して雷丸は囮に出していた三匹の召喚獣をこちらに戻るよう指示を飛ばしたが、距離が離れすぎたために到着まで時間が掛かってしまっている。送還してから再召喚という手もあるが、一度送還すると再召喚までにインターバルが発生するため、呼び戻すよりも時間が食われてしまう。


「もう後が無いか」


 召喚獣が駆けつけるよりも早くに二人は壁際まで追い詰められてしまった。

 雷丸の感覚ではあと少しで召喚獣たちが来てくれそうだが、それまで持ちそうにない。


 ゴブリンは減るどころか杏樹の倒す速度よりも多く出入り口から入ってきている。もう数えている暇はなく総数不明。

 壁まで追い詰められた二人は肩を寄り添わせて背中を壁に付けた。


 もはやここまでと諦め掛けた時。石造りの天井の一部が砕け、岩となって落下してきた。壁に張り付いていた雷丸と杏樹は無事だったがゴブリンたちの何匹かは下敷きとなる。

 運がよかったのか、いや、少し考えれば当然かもしれない、この一階上では御側衆筆頭と大鬼がサシで戦闘をしているのだ、天井くらい崩れるのが当たり前。


「これって」

「緋桜がオーガしかない」


 絶体絶命のピンチを崩落に助けられた。

 雷丸たちを囲んでいたゴブリンたちは崩落を恐れて混乱している。


「アリージェ」

「何よ」

「ここは俺がツッコンで突破口を開くからそこから逃げろ」


 混乱している今なら一人は脱出できるかもしれない、琴房が真顔で自身が囮になると告げたのだが。


「……何それ」


 杏樹の反応は冷たかった。


「ラノベの読み過ぎじゃない、そんなことで私があなたに惚れると思ったわけ」

「違うわ!」


 霊鳥を求めて本を読み漁った杏樹、きっと鳥出る本ならば見境無しに読み漁ったのだろう。


「じゃあただのカッコつけ」

「いいじゃん、現状ピンチなんだから、一度は言ってみた異世界台詞を口にしたって」


 ただのカッコつけであった。

 相手が緋桜であったなら、こんなセリフを言った雷丸に取り乱しながら訂正を要求してきたであろうが、杏樹にはドライに対応されてしまった。


「やれやれね、こんな状況で冗談を言うなんて」

「悪かったよ、でもここから早く逃げないと別の意味やばいぞ」

「どうして?」


 ゴブリン以外にもピンチがあることに雷丸だけが気づいていた。

 また一つ天井から岩が落下してくる。崩落が止まらない。


「上」


 雷丸は天井を指さした。

 杏樹はゴブリンたちから視線を外さないようにしながら、指差された天井を伺うと、崩落する天井に規則性があることがわかった。

 崩落は円を描くように移動しているのだ。


「緋桜は床を抜いてオーガを落とすつもりだ。俺たちも早く脱出しないと巻き込まれる」


 長い付き合いで緋桜の作戦を読めた雷丸だったが一つだけ勘違いをしている。主一番の緋桜はどんな危機的状況に追い込まれようとも雷丸が巻き込まれる可能性のある内は全体崩落などさせない。円状に動いているのも落石前に雷丸に次ぎの落石位置を知らせるためだ。

 崩落だけを狙うなら円を描くような面倒な作業はしない。


「緋桜って何者」

「ギルド最強の魔法剣士チェリー・クリムゾンさ」


 本人がいたなら自分は忍だと全力で否定していたであろう。

 なおも落石が続きゴブリンどもは完全に離れてこちらの様子を伺いながら落石を警戒している。これでしばらくは襲われないかもしれないが、出口回りにはゴブリンが増え、抜け出すのも余計に困難になってしまった。


「私もこれからはチェリーって呼ぼうかしら」

「それはやめてやれ、せっかく普通の友ができたんだ、お前までチェリーって呼んだら悲しみ泣くぜ」

「それはギルマスも同じでしょ」


 普段は緋桜と呼んでいるが、ここぞという場面、冒険が盛り上がりそうな場面では雷丸は効果的に緋桜のことをチェリーと呼んでいる。


「俺はいいんだよ、あいつは優秀だけど固すぎるからな」


 緋桜が感情をあらわにするのは雷丸にからかわれた時がもっとも多い。


「理由なってないけど」

「冒険者ギルド『狼弧』では俺がルールだからOK」

「トップの俺様ルールは嫌われるわよ」


 人はそれを独裁と呼ぶ。


「だからアリージェには普通の友人になってくれと頼んでいる」

「何よそれ」

「今さら、性格は代えられない、緋桜との関係も小さいことからの付き合いで完全に固定されちまったからな」

「不器用な優しさね」

「器用な俺は俺じゃない」


 つい杏樹は笑ってしまった。どうにも彼女は真面目な顔でカッコつける雷丸はコントにしか映らないらしい。


「笑ってないで、一歩こっちにこいよ」


 雷丸は杏樹の肩を抱くと力強く自分の方へ抱き寄せた。


「ちょっと――」


 雷丸の胸に頬をぶつけてしまった杏樹、文句を口にしようとしたら、今まで杏樹がいた位置に岩が降ってきた。


「すまん、説明してる時間がなかった」

「そ、そう、ありがとう」


 一応と言った感じでお礼を述べる杏樹。

 ぶつけた頬が、腫れたわけでもないのに少しだけ赤くなっていた。


「そろそろ本格的にやばいな、あいつらもきたし脱出するぞ」

「あいつら?」


 召喚士である雷丸だからわかる、自身が召喚した召喚魔獣たちがすぐそこまで来ていることを。ゴブリンたちを蹴散らしてきているので無傷では無かったが、三匹とも無事のようだ。


「リトルウルフはサンダー、リトルホックスはファイアだ!」


 出入り口に固まっていたゴブリンたちが外から飛来した火球と雷撃で吹き飛ばされた。


「今だ、こっちから行くぞ」


 杏樹の手を掴んだ雷丸が次に落石のある地点を読み、出口までの被害の合わないルート割り出すと最短距離を走り抜ける。飛来した魔法で混乱が大混乱になったゴブリンたちには阻むことすら困難だろう。


 二人は手を繋いだまま無事に砦の外へと脱出した。

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