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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第五章『冒険者が行方不明、原因は家出だ』
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六十の巻『緋桜VSオーガ、勝てなくとも』

久しぶりにバトルを書きました。

   六十の巻『緋桜VSオーガ、勝てなくとも』



 強大な斧が飛び出してきた穴から、部屋の中が覗いて見えた。


「お~、こいつは予想外だわ」


 中に鎮座していたこの砦のボス。雷丸はゴブリンがうろついていたので当然、ボスはゴブリンの上位種だと予想していたのだが。


「オーガかよ」


 そこにいたのはゴブリンなどとは比べ物にならない上位の魔物であった。ゴブリンとは同じ人型の魔物という以外に共通点はない。オーガは強靭な体持つ大鬼だ。雷丸版異世界解説書のオーガ紹介ページにはその強さは一個騎士団に相当するとされ、討伐に成功した冒険者にはオーガスレイヤーの称号が与えられるほどの強敵である。

 それがゴブリンを統率して砦を築いているとは、これは間違いなく雷丸が設定した人型魔獣語を共通にしたからこそ起きた事態だ。相も変わらずこの裏山異世界は創造主の予想を超えて進化している。雷丸にしては大満足の結果であるのだが。


「逃げましょう」


 緋桜が即座に撤退を進言。

 たった三人で勝てるわけがない。オーガは月光熊と同様に集団戦を想定した魔物、間違っても一パーティーで挑む相手ではない。


「おう、撤退だ」

「異議なし」


 賛同すると同時に登ってきた階段を引き返す。

 殿を自然に務めた緋桜が階段に体を沈めた瞬間、穴の開いた扉が吹き飛んだ。そして響く砦が崩壊してしまうと感じてしまうほどの強烈な雄叫び。


 転がるように二階へたどり着く。地鳴りのような足音から追いかけてきているのは確認しなくてもわかる。足を止めることなくそのまま一階へと階段を降りるが、そこでは外の大猪を平らげたゴブリンたちが戻ってきていた。


「あの大きさをもう食い尽くしたのかよ!」


 腹をさするゴブリンたちに入ってきた出口は完全に塞がれてしまった。

 上からはオーガ、下からはゴブリンの集団、完全に挟まれる形だ。


「二人は何とか下を突破してくだい、時間を稼ぎます」


 オーガとゴブリンならまだゴブリンの方が勝ち目がある。大猪を平らげて油断しまくっているならなおさら。


「緋桜はどうするのよ」

「私一人なら窓からでも脱出できます。急いで」


 緋桜は階段を下りずに二階に留まった。


「悩んでる時間はない、アリージェ行くぞ」


 雷丸は一瞬だけ緋桜に信じてるぞとアイコンタクトを送り頷くの見届けると、階段を駆け下りる。


「ああッもう!」


 杏樹も雷丸の後を追いかけた。





 一人二階に留まった緋桜が近づいてくる足音を迎え撃つために出迎えた。

 勝てないのは瞬時に把握できている。

 緋桜の目的はあくまでも雷丸たちが逃げ出すまでも時間稼ぎ、しかし、御側衆筆頭として主に武器を向けた相手に何もせずに逃げるほど優しい性格はしていない。

 倒せないまでも一矢を返す。


 ほどなく石作りの階段すらも踏み壊しかねない巨体を持つオーガが二階のフロアに姿を現した。腕には先ほど壁を破壊した大斧が握られている。

 緋桜は腰から剣をゆっくりと抜いて、オーガへと突き付けた。


 ここは幻術が生み出した異世界、命を落としても死ぬことはなくギルド本部へと口寄せの術で送り返される仕組み。だが、だからといってみすみす主を死なせるなど御側衆筆頭として許すわけにはいいかない。


「今出せる全力で参る」


 鋭い踏み込みからの渾身の突きをオーガの心臓目掛けて繰り出した、が刃は薄皮一枚傷つけただけで固い皮膚に阻まれてしまった。これは月光熊以上に固い。

 制限の無い現実世界なら、オーガが相手であろうと苦戦する気はしないが、ここは雷丸が想い描いた異世界で緋桜は忍ではなく低レベル魔剣士、力が相当に抑えられている。


 オーガは緋桜の攻撃など気にすることもなく大斧を振りあげた。

 緋桜はすぐさま剣を引くと、身を丸めて後転でさがり距離をとる。

 遅れて振り降ろされた大斧が床を割った。


「自分の砦を簡単に破壊するのですね」


 オーガは砦の破壊などかまうことなく、緋桜に向けて大斧を振り続ける。その度に破壊される砦。

 豪快な斧は、威力はあるが動きは単調で読みやすい、ましてや狭い室内では小回りが利く緋桜に地の利は味方をした。単調なオーガの動きを読み、大斧を振り抜いた姿勢で硬直した所に飛び込み、今度は心臓ではなく、目を狙って剣を突きだす。


 だが、オーガは緋桜の剣を避けることなく頭突きで弾いてきた。

 額の皮膚も固く、また弾かれる剣。

 予期せぬ防御手段に姿勢を崩してしまった。

 オーガは引き戻した大斧を横凪に払ってくる。

 姿勢を崩しながらも片足だけでの跳躍でギリギリに斧の刃を交わしたが、その風圧だけで剣は折られ鎧の胸当てが弾き飛ばされた。


「当たりもせずにこの威力か、本当に戦闘力に差が有り過ぎる」


 オーガは勝ち誇ったかのような醜い笑みを浮かべた。

 緋桜は小石ほどまでに砕かれた床の破片を拾い上げる。

 やはり魔剣士として戦いかたでは勝負にならないと悟らされる。


「醜い笑みです。人語を理解するとは思えないが、一応言っておこう。私は騎士ではなく忍だ、これからの戦い片は汚くなるが流してくれ、卑怯と罵ってもらって構わない」


 意識も魔剣士から忍へと切り替わる。

 忍は主の望みを叶えるため、主の身を守るためならば、どのような泥でも喜んでかぶるのが一流としての誇り。

 ナイフ程までに短くなった剣を逆手に持ち替えオーガへと挑みかかる。


 剣が短くなった分、リートが無くなってしまったが、代わりに素早さは増している。

 乱暴に振るわれる大斧をスレスレで交わす。防具や服が破れていくが、そんな事を気にできるほど優しい相手ではない。


 床を叩いて止まった大斧の柄の上に着地をした緋桜は、柄の上を走りまたオーガの目を狙って折れた剣を突きたてる。長さは変わっても先ほどと同じ攻撃、オーガも同じように頭突きで防ごうとした瞬間、緋桜は剣を自ら手放した。

 剣は額に当たりあさっての方向に飛んでいくが、手放した緋桜は剣を弾かれても態勢を崩すことなくオーガの目前にとどまっている。そして、先ほど拾っていた小石を二つに割りオーガの鼻の穴へと指弾で撃ち込んだ。


 二つの小石は見事にホールインワン、予想外過ぎる痛みにオーガは斧を手放し悶えた。

 魔物と言っても人型、鼻から呼吸ができなくなったので大口が開くと。


「水遁水球、ウォーターボール」


 追撃で水の魔法を口の中に打ち込んだ。鼻で息ができない今、口で大きく息を吸いこもうとした瞬間に流し込まれた水。喉を塞ぎ肺の機能を混乱させる。

 鼻は石で口は水で塞がれたオーガは仰向けに倒れて苦しみもがく。


「本当なら、ここでトドメを刺したいのですが、今の力で無理なので、そろそろ私も逃げさせてもらいます」


 砦の窓穴から門へと向かい走っていく雷丸と杏樹の姿が見えた、どうやらうまく一階のゴブリン集団を突破できたようだ。それならもうオーガを相手にする理由はない。

 時間稼ぎは成功だ。


 激痛を耐え抜いたオーガがゆらゆらと大斧を掴み立ち上がる。

 目は血管が浮かぶほどに充血しており、怒りのすさまじさを物語っていた。眼力だけで殺さんばかりに殺気を撒き散らし、先ほどまでとは比べ物にならない数倍の速さで大斧を叩きつけてくる。


「ああ、一つお教えしましょう」


 緋桜はオーガに向かって人差し指を立てて見せる。


「怒りは力を生みますが、冷静さを失って罠にかかりやすくなりますよ」


 そして挑発まで追加する。

 言葉は通じていなかったが、バカにしているとニュアンスは通じたようだ。

 喉が破けんばかりの咆哮をあげ、オーガは大斧を振り降ろす。

 それをひらりと交わした緋桜は、優雅にバク宙を決め雷丸たちの姿が見える窓枠に着地した。


「せっかく罠にかかると忠告したのですが、無意味でしたね」


 今の渾身の一撃で二階フロア全体に亀裂が走った。

 これまでの大斧によるダメージが床の耐久度を超えたのだ。

 ただでさえ巨大なオーガ、崩れる床に逆らうことなどできはしない。


「それでは、私も退散させてもらいます」


 雷丸に敵対し、あまつさえ武器を投げつけた相手には一切の容赦もない主一途な緋桜であった。

 オーガの雄叫びは悲鳴に変わり、崩れる床と共に下のフロアへと落下していった。

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