五の巻『最強のレベル1』
五の巻『最強のレベル1』
人が一人ギリギリで通れる獣道を雷丸たちは子狼の後を追いかけながら進んでいくこと十五分。
「ゲームで十五分、ただキャラクターが歩き続けるだけでは間違いなく飽きるな、しかし、このリアル冒険は本当に体が動いている。、健康にもいい、これは売りの一つにできそうだ」
「でも、動きが苦手な方にはマイナスのイメージになりそうですね」
慣れない山歩きで、亜雪は幻ではない汗を拭う。
「レベルが上がって体力も増えれば、全力疾走で頂上までたどり着けるようになるんだが、それまでが大変か、入り口近くに訓練場でも設けるか」
「移動を補助するアイテムや魔法も欲しいですね」
「あの、お二人とも」
いきなりギルド運営の話をはじめてしまった二人に緋桜がオズオズと声をかけた。いつの間にか足が完全に止まっていたのだ。
「どうしたんだ」
「前方から微かに気配を感じるのですが」
リトルウルフは身を屈め、すでに戦闘態勢に入っていた。
「いっけね、テストプレイだけど冒険を楽しもうって目的を忘れてたぜ」
緋桜が気配の場所を確認すると、五匹ほどの普通のゴブリンと一回り大きいゴブリンが狩りをしたであろう猪を囲み肉をむさぼっていた。
冒険者が魔物を倒せば消えて経験値になるが、魔物が魔物を倒しても、経験値には変換されず演出としてその場に残る設定になっていた。
「リアルですね」
「はい、血の臭いまで再現されています」
忍である緋桜だからこそ紛い物の臭いだとわかるが、一般人には本物と区別はつかないだろう。雷丸はこのリアルさに感動していた。
「だが、遭遇率に問題があるかもな。ここまで最初のゴブリン以外、一度も敵と遭遇しなかった、おかげでレベル1のままクエストボスまでたどり着いちまった」
予定ではレベルを三くらいまで上げる計画だった。歩いていれば襲われと思っていた雷丸だったが幸か不幸か、遭遇回数ゼロ。現実の狩猟は森や山に入ったからといって必ずしも獲物に出会えるとは限らないが、リアル過ぎてつまらないでは本末転倒かもしれない。
「引き返してレベル上げするのもしゃくだしな」
「戦いますか?」
雷丸の答えなどわかっているが、忠実な忍である緋桜はいつでも戦闘態勢に入れる状態でお伺いを立てる。
「当然だ」
「この場所でのお二人の戦力を把握しきれてはいないのですが、どのくらいまでできますか?」
「一般男性でゴブリンと一対一なら勝てるレベルだ」
雷丸とゴブリンがサシで殴りあえば雷丸がギリギリで勝つ。冒険者装備があるなら一体は余裕をもって勝てるだろう。本来なら忍の長に危ないことはしてほしくないが、これは遊びだと緋桜は割り切った。
「それならお二人に三匹まかせても」
安全ラインの少し上を要求。雷丸の御側役になって三年の緋桜、ファンタジー世界は理解できないが、雷丸がクリアできるかできないかギリギリのスリルを楽しむ傾向にあるのは理解していた。
「問題ない」
緋桜の配慮を理解した雷丸は貫禄あるギルドマスターキャラのなりきり演技をした。
「亜雪、先制攻撃だ」
「まかせて」
上下二連銃に火炎弾を装填、一番距離の近いゴブリンの照準を合わせる。緋桜が発砲と同時に飛びだせるようロングソードに手をかけ中腰姿勢に。
――バァン!!――
鳴り響く銃声音。銃口より発射された火炎弾。
緋桜は着弾より早く茂みから飛びだす。火炎弾と緋桜による二重先制攻撃だ。
形的には完璧な奇襲だった。
しかし、火炎弾は目標であるゴブリンからそれ、食材となっていた猪に命中、生肉だった物がコゲた焼肉へと姿を変えさらに霧となって消えていった。ゴブリンたちはご馳走を消されたことに怒りの声をあげ下手人を探しだすが、すでに背後まで足音一つさせずに緋桜が急接近していた。
鞘から抜き放ったロングソードで一閃、それだけで二匹の首が宙を舞う。さらに頭部を失った体が霧状になって消えるよりも早くザコゴブリン二匹の間を駆け抜け、緋桜はソルジャーゴブリンと対峙した。
食事を台無しにされ配下も殺されたソルジャーゴブリンは怒りの雄叫びをあげロングソードよりも肉厚のグレートソードで緋桜に叩き付ける。
一般人からしたら恐怖の斬撃なのだが、緋桜にとっては力任せの稚拙な剣にすぎなかった。せまるグレートソードを横にずらすように最小限の力で受け流す。力は緋桜よりありそうだが、それ以外はすべて下であった。
緋桜は表情一つ変えることなく、襲いくるクエストボスの剛剣を速さと技で華麗に翻弄していった。
「あれで、本当にレベル1ですか」
熟練した動きをしても、緋桜は正真正銘今日が初めての異世界冒険である。
レベルも当然、1。




