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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第一章『異世界に召喚、いや、異世界を召喚した少年』
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四の巻『はじめての異世界』

   四の巻『はじめての異世界』



 元は旅館であり、今は冒険者ギルド『狼弧(ろうこ)』の本部。


 裏手にある標高五百メートルの小さな山は東京の高尾山よりもわずかに低いが、それでも面積は約四百ヘクタール。ドーム球場が八十個分以上入る大きさがある。


 その広大なスペースを忍一族の若き長雷丸は、幻術結界で囲い疑似異世界に作り替えたのだ。


「雷丸様、いったいどんな幻術を張ったのですか」


 先ほどの全裸事件は忘れることにした緋桜は白いシャツに茶色のミニのスカート、赤い皮の胸当てに腰にはロングソードといった傭兵風(女)の初期装備を纏っていた。


「どんなって、あんなのがうろつくRPG的、異世界」


 うながした茂みの先から、日本人の平均身長である雷丸の半分くらい体格の緑色の子鬼が現れた。数多くのRPGで最初のザコとして登場するゴブリンだ。


 ゴブリンも雷丸たちの姿を認めると、ギィギィとわめきながら短く刃がボロボロのダガーを振り回し襲ってきた。


「なッ危ない!」


 緋桜はロングソードを抜き雷丸と亜雪の二人を背中で守るように進み出るが、ロングソードがゴブリンを捉える前に、発砲音と共に緋桜の横をすり抜けていった火の玉がゴブリンに直撃して火だるまにする。


「え、え?」


 弾丸を放ったのは上下二連銃(ダブルバレル)を構えた、プラチナゴールドの髪をなびかせる亜雪お嬢様であった。群青色のヘソだしウエスタンガール衣装に身を包んでいる。


 緋桜の簡易な傭兵ルックと違い細部まで作りこまれたウエスタンガール衣装、カードの開発と同時に亜雪は自身の衣装もオーダーメイドで製作していた。防御力は初期装備と同じ値であるが、普通は選択できない一品物、開発と資産提供によるスポンサー特典で特別に制作されていた。


「すごいリアルですね」


 スカートの端をつまみクルリと一回転、遠心力で舞い上がるスカートは、幻で作りだしたとはとても思えないリアルがそこにあった。


「でも銃は反動が大きくて打ちにくいですね、ここまでリアルにしなくてもいいのでわなくてファンタジーなのだし」

「筋力パラメータが低いからだ、レベルが上がれば片手で振り回せるようになるぞ」

「なるほど、それは楽しみです」

「……あの、雷丸さま、いま銃から火遁忍術が飛びだしたような……」


 銃から炎の塊が発射されたことも驚きに値するが、緋桜にはそれよりも飛びだした炎が忍が使う忍術に瓜二つのことの方が衝撃を受けた。


「ああ、参考にさせてもらったからな、ここではファイヤーボールと呼んでくれ」

「ふぁ、ふぁいあぼーる」


 緋桜の顔が大きく引きつっていた。


 魔銃士専用スキル『魔弾』魔法が込められた弾丸を銃より発射する。従来の魔法使いと違いMPを消費しない代わりに弾薬を消費する設定。ちなみに初期での弾薬種類は、通常弾十二発と火炎弾が四発となっている。


「そして、倒したモンスターは消えてアイテムをドロップする」


 雷丸の言葉通り、焼かれたゴブリンの体は霧となって消えていきダガーだけが残された。


「これがゴブリンのドロップアイテム、ゴブリンダガーだ、緋桜ギルドカードにこれを写してみてくれ」

「こうですか」


 スマフォで写真を撮るようにダガーをフレームに収めると、ダガーは光の粒子となってカードに吸い込まれていった。画面が自動で切り替わりアイテム覧を映す。そこにはゴブリンダガー×1と表示された。


「おっし、仕様通りに動いてるな。幻術とギルドカードの連動が一番心配だったんだけど問題なさそうだ」

「ウチの開発チームが心血注いでいましたからね、他の開発もあれくらい集中してくれるとありがたいのですが」


 戸隠峰開発スタッフの中にも異世界ファンがいるようだ。肩をすくめ、やれやれみんなお子様なのですからといった仕草をするが、オーダーメイドのウエスタンスタイルの亜雪がやっても説得力はなかった。


「それじゃ、メインイベント、ファンタジークエスト略してFクエスト、通称Fクエをやってみるか。Fクエとは異世界ファンタジーでおなじみの冒険者ギルドで受けられる討伐や採取クエストなどのことである!」


 雷丸がカード画面をスライドさせるとクエスト画面に切り替わり、表示されている項目をタッチすると、ドロップアイテムを収納した時とは逆にギルドカードより一枚の紙、クエストの書かれた洋紙が出現した。


 クエスト洋紙は風にヒラヒラとゆられ緋桜の手に収まる。


「『それじゃーゴブリンの討伐依頼・ゴブリンよりも一回り大きな体をもち、ゴブリンを率いて旅人を襲っている。報酬は1200raiyen』このライエンっというのは通貨ですか」


 緋桜が書かれていた文言を読み上げる。それに違和感がした雷丸がクエスト洋紙を覗きこむと。


「あ、誤字だ、あぶねー気づいてよかったぜ、亜雪直せるか」

「これくらいならすぐに」


 亜雪は自分のギルドカードを取りだすと、クエスト洋紙の項目を呼び出しいじりはじめる。雷丸と亜雪、正副ギルドマスターだけに与えられたスキル「書き換え」を実行。


「お、直った『ソルジャーゴブリンの討伐依頼』これが正しいクエスト名だ」


 ほんの数秒で洋紙の文字が変化した。


「それじゃ改めました、初クエストに出発だ!」


 子供がはじめて遊園地に来た時のようなはしゃぎようだ。


「そのソルジャーゴブリンはどうやって探すんですか、私が偵察に行きますか?」

「それではいつもと変わらないだろ緋桜くん。今の君は正副ギルドマスターズに雇われた傭兵という設定なのだよ」

「そ、そうだったんですか」

「ここはファンタジーだけどリアルに行こうじゃないか、探索はこの俺にまかせてもらおう」


 自信あり気に雷丸は木の杖を高々と掲げた。


「俺は召喚士、召喚士とは契約した魔物や聖獣を召喚することができる設定だ。こい、我が呼び声に答えよリトルウルフ」


 掲げた杖を地面に振りおろすと、フラフープサイズの小さな魔法陣が出現、淡い光を放ちながら小さな黒い狼が現れた。


「黒い狼、これって――」

「あと、銀色の小さい狐、リトルフォックスも呼び出される」

「銀色!!」

「まさか、あのお方たちを」

「ああ、あいつらをモデルにしたぞ、モデルをやってくれって頼んだら、ノリノリでいろんなポーズや仕草をしてくれた」

「獣様になんてことを……」


 緋桜は登場いた黒い狼や銀色の言葉に過剰な反応をするが、亜雪はつぶらな瞳の狼がたいへんお気に召したようだ。


「かわいい、私も召喚士にすればよかった」


 背中をなでまわすと子狼は今度は腹をなでてと仰向けに寝転ぶ、お腹の温もりや毛並の手触りなども忠実に再現されている。腹をさすられたリトルウルフはクゥ~と嬉しそうに鳴いた。


「ホントにかわいい、緋桜さんもどうですか?」

「い、いえ、私には恐れ多くてとても」


 一緒にお腹をなでないかと亜雪が誘うが一歩下がりながら断る緋桜。子狼に怯えているようにも見えた。


「そう、こんなにかわいいのに犬嫌いなのかしら。雷丸、この子で探索するの?」

「ああその通りだ」


 ゴブリンが出てきた茂みをかき分けると、小さくだが足跡が確認できた。依頼書にソルジャーゴブリンはゴブリンを従えていると書かれている。つまり、この痕跡を追っていけばターゲットのソルジャーゴブリンと遭遇するかもしれない。


「この足跡の臭いをたどれるか」


 リトルウルフは任せろと小さな尻尾をふりながら一鳴きした。一本道の攻略法がないリアルを追求した異世界冒険。冒険者たちの創意工夫が最大の攻略法になる仕様。


「前衛は緋桜にまかせる。俺と亜雪は後ろからついて行くぞ」

「かしこまりました」


 いろいろと頭の痛くなる問題を横に置き、緋桜は長の指示を聞くことだけに専念することにしたようだ。

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