三の巻『職業と着替え』
三の巻『職業と着替え』
ギルドカードに表示される職業一覧。
『超戦士』『魔剣士』『獣騎士』『斥候士』『召喚士』『魔銃士』『魔法士』……など、十二個ほどの職業名が縦一列に記載されていた。
「ほとんど意味がわからないのですが」
これは控えめな表現であろう、緋桜はゲームと名の付くものにほとんど触れたことがないのだから。
「雷丸の希望で、職業は全て漢字三文字で表しているの」
「統一感があっていいだろ、見ろこのキレイな配列を、最後を士で終わらせるのがポイントだ」
緋桜にとって複雑怪奇な暗号にしか見えなかった。
「参考までに私は魔銃士にしました。銃で魔法を打ち出す職業です」
「俺は召喚士だ、異世界といったら誰もが一度は夢見るだろ、契約した魔獣を召喚できる」
「……すみません、参考も難易度が高いです」
盛り上がる二人に置いてけぼりにされる緋桜、魔銃士? 召喚士? なにそれ状態になっている。
「だったら自分の長所を参考にすればいい、緋桜は魔法も使えて剣も使えるからな、魔剣士でいいじゃないか」
「忍術と刀です。私が使えるのは」
「ファンタジー風に言い直しただけだ、気にしなくていいぞ」
「じゃあ緋桜さんは魔剣士と、名前はテストですし、そのままでいいですね」
緋桜はものすごく気にしますと視線で訴えるが、華麗にスルーするギルドマスターズ。
「……わからないのでお任せします」
すでに一つの冒険を終了させてきたような疲労をみせる若手最強の忍と言われた緋桜。
「服はどれにしましょう初期ですからそんなに種類はありませんが」
「服ですか?」
「このギルドカードには初期装備が付録として付いている。ちなみに俺はスタンダートな選択をしたぞ、見てろ『全身装備』」
ギルドカードを掲げ呪文を唱えると、銀色の光が雷丸の全身を包み着衣を黒いローブへと変化させ、何も持っていなかった手には木製の杖が出現する。
「どうだ、これが召喚士を含む魔法系(男)の初期装備、色は12色から選べる」
「変化の術の応用、ですか」
「おうよ、幻術結界内で幻術を操作してイメージを具現化するのがギルドカードの役目の一つだ、戸隠峰の技術開発スタッフとの共同開発した最先端テクノロジーで作られた優れ物だぞ」
あらかじめ決められたキーワードを唱えると幻術結界に働きかけられるように細工して、ギルドカードで設定した装備に切り替える、こだわりの仕様になっている。
「なるほど、このカードは幻術の方向性に働きかける物なのですね、……技術の無駄遣いのような気もしますが」
緋桜も雷丸と同じようにギルドカードを掲げ呪文を唱える。
「待って、まだ――」
「全身装備」
亜雪が止めようとしたが間に合わず緋桜が装備変更の呪文を唱えてしまった。
緋桜の体が先ほどの雷丸と同じように銀色の光に包まれるが……纏っていた忍装束が消え去るだけで、新しい服は出現しなかった。
「え?」
光が収まると一糸まとわない緋桜の美しい裸体が雷丸の眼前に登場する。鍛えられ無駄な肉は一切ないのに出るところは出ている日本人離れした体型。
「緋桜、お前は本当にいい御側役だな」
「はう~~」
緋桜は顔を真っ赤にさせ、両手で体を隠しながら事務デスクの下にもぐり込む。
「全身装備・解除」
亜雪が副ギルドマスターの権限を施行、緋桜のギルドカードを使い呪文を解除すると元の忍装束に戻った。基本設定では他者のカードを操作できないようになっている。亜雪が使えたのはサブギルドマスター権限を用いたからだ。
「まだ着る服を選んでないのですから、ごめんなさい止めるのが間に合いませんでした」
服の設定をしていない、緋桜は着衣無しの設定で着替えてしまったのだ。
「いえ、私がすべての元凶です――雷丸様」
「なんだ」
「詰腹をする許可をいただけないでしょうか」
手にはすでに抜き身の短刀が握られていた。
「何をバカなことを、俺はお前を生涯の御側役筆頭にしようかと本気で考えていた所だぞ」
「ありがとうございます。その言葉だけで私は喜んで冥土へ旅立てます」
「緋桜さん、ここは一発ぶん殴ってもいい所ですよ」
丁寧な口調で過激な発言をする亜雪お嬢様。
「雷丸様を殴るなんて私にできるわけありません」
たとえ暴走癖があるとしても忠義を誓った主、スケベ丸出しで裸を見られたからと言って手をあげるなど忍として生きる緋桜には絶対にできるわけがなかった。




