二の巻『ギルドカード』
二の巻『ギルドカード』
「本当にやってしまった。至高の獣様よりさずかった力をこんなことに……」
光が収まった事務所で悲壮感を漂わせた緋桜が崩れ落ちて項垂れる。
そこに一人の人物が事務所に入ってきた。緋桜たちと違い忍装束ではなく、高級そうな青いフレアドレスを着こなしているプラチナゴールドの髪の大人びた少女。
「大一番の戦に負けたような落ち込み片ですね緋桜さん」
「ある意味ではその通りです亜雪様」
「遅かったな副ギルドマスター戸隠峰亜雪」
「遅参申し訳ありませんギルドマスター伊古代雷丸殿」
スカート裾をつまんで一礼。
挨拶一つとっても洗礼された雰囲気を醸し出す高貴なオーラ。
手荷物を机に置く動作もどこか優雅さがある。まさに絵に書いたようなお嬢様。古びた事務所には似合わない存在であった。
「外で事務所内が光っているのが見えましたが、この緋桜さんの反応を見る限り成功したみたいですね」
「おう、百二〇パーセント成功したぜ」
親指を立て白い歯がキラリときらめく、やり遂げた男のドヤ顔であった。
「副ギルドマスターそっちの準備はどうなんだ」
「こちらも文句なしの仕上がりですよ。鮫裏」
亜雪に呼ばれ事務所の外で待機していた三〇代の執事鮫裏がジュラルミンケースを抱えて入ってくる。
「ありがとう」
「いえ、それでは亜雪お嬢様。夕方のお迎えに参ります」
「ご苦労様です」
まさに執事といった敬礼の三〇度お辞儀をして退出していった。
「ごついケースだな亜雪、でもなんか異世界っぽくないぞ」
めったにお目にかかれない執事の存在にも気にすることなく、置いていったケース方に注目する雷丸、現代を連想させる入れ物があまりお気に召さなかったようだ。
「ごめんなさい、でも、中身は百パーセントあなた好みですよ」
ジュラルミンケースを開き中を雷丸に見せる。敷きつめられた衝撃吸収材に収まっていたのは一般的なスマフォよりも薄いカード型タブレット端末であった。
赤茶のボディにタッチパネルと、普通に見ればこれこそ現代のアイテムのようだが、雷丸には別の物としてとらえられた。
「おお、まさしくイメージ通り、冒険者ギルドのギルドカードだ!」
RPGゲームでよく出てくる冒険者ギルドに登録すると配布される冒険者認定カード。
「雷丸の要請をできる限り取り入れましたから」
「さすがは相棒だぜ!!」
雷丸のはしゃぐ様子に亜雪は満足そうにうなずいた。
「よしよし、あとはもう冒険しかないな」
「冒険しかありませんね」
雷丸が手を掲げ、亜雪がそれにハイタッチで答える。
「イェ~イ!」
お嬢様も雷丸に負けず劣らずハイテンションだった。
「清、幻術結界ご苦労だったな、弧乃衛忍軍は一週間の休暇を与える。大忍術で疲れた体をゆっくり休めてくれ」
「御意、狐賀山清以下弧乃衛忍軍三〇名、休息を取ります」
表には出していなかったが、幻術結界・虚はそうとうに体力を消耗していたようで、休みをありがたく頂戴した清は静かな足取りで普通に事務所のドアから出ていった。
「普通にドアからの退場でしたね」
少し残念そうに亜雪が呟く。清の退室に何かを期待していたようだ。
「何を期待してたんだ」
「ここは忍者屋敷なのでしょ、飛び上がって天井裏に消えるのかと思ったのですが」
「映画じゃあるまいし、そんなことないぞ、第一ここは冒険者ギルドの本部で忍者屋敷ではないからな」
「そうです、天井裏を使うのは緊急時のみで普段は一般人と同じ行動をします」
「では緊急時には天井裏を使うのでうすか?」
「もちろん、ちゃんと飛び込みやすいように天井の改築もしてあります」
「流石は忍者ですね」
事務所のすみで落ち込んでいた緋桜がようやく立ち直り、思い込みからくる偏見に修正をかける。が天井裏については否定せずに肯定していた。
「おい、改装なんて話し俺は初耳なんだけど」
「私も、裏山を疑似異世界に作りかえるなんて、さっき聞いたばかりですけど」
「ま、まあ、伝え忘れは誰にでもあるよな」
無断で改装するなと雷丸は緋桜を睨んだが、忍術を大ピラに使った件の恨みを込められ、迫力が倍にして睨み返された。
「私はちゃんと報告書にまとめて雷丸様に渡しましたが、許可印ももらっています」
判子だけ押して中を確認していなかった雷丸、もし緋桜が不正を働こうとすれば好き放題できたであろう、もっとも真面目な性格の緋桜がするはずもないが。
「ア、ハハハ~~、よし冒険を始めよう」
笑ってごまかして、ギルドカードをさっそく操作する。
「冒険ですか?」
「せっかく異世界を作ったんだから、今からテストプレイをするのさ三人で」
「三人って私も含まれているのですか」
「当然だ、お前は俺の御側役筆頭なんだろ」
御側役。忍軍団の中にはいくつかの役割にあわせた隊があり、御側役もその一つである。主な役目は長となった雷丸の身辺警護から仕事の補佐など文字通り長の側で様々な助力をする隊である。忍にとって御側役とは忍術を極めた者の選抜部隊であり所属できることは忍社会において、たいへん名誉なことであった。
「こんな時だけその肩書きを使わないでください」
もはや諦めたのか反論にもどこか力がない。
「亜雪、緋桜にギルドカードの使い方を教えて冒険者登録してくれ、衣装の方もついでに見てやってくれ」
「まかせてください、完璧なコーディネートをしてみせます」
ギルドカードを緋桜に手渡す。
「これを胸にあてて、ちょっとビリってしますよ」
「こうですか」
言われたままにギルドカードを胸にあて電源を入れると、軽い静電気のような刺激がした。刺激は全身にわたり、反射されるようにまたギルドカードへと戻っていった。
「はい、後は名前を入力して登録完了、職業はどうします」
「私は忍ですが」
「ごめんなさい、選べる職種に忍はないの、この中から好きなモノを選んでもらっていいかしら」
亜雪はギルドカードを操作し職種覧を表示した。




