一の巻『こい、異世界ファンタジー!!』
一の巻『こい、異世界ファンタジー!!』
「雷丸様、どうか御考え直しください!」
よく晴れた夏の朝、学生たちにとって夏休み初日。
「とめるな緋桜、これも忍家業復活のためには必要なことなんだ」
二階建て木造建築の元旅館であった建物。
その一階奥の事務所で二人の男女が押し問答をしていた。
男の方はやる気全快の元気少年、伊古代雷丸。
女の方は忍装束を纏った少女で名前は、狗賀野緋桜。主たる雷丸の愚行を止めようと腰まで伸びた長く綺麗な黒髪をゆらし、衣服の上からでもわかるふくよかな胸が押し潰れていることにも気づかず、雷丸の腰にしがみついてた。
緋桜の身にまとう黒地に銀のラインが入った忍装束が着くずれ色白の肩がのぞいている。
「忍は忍んでこそ、雷丸様のやり方は忍の流儀に反しています!!」
「ええい、放せ!」
振りほどこうとする雷丸に負けじとしがみつく緋桜、髪と服はさらに乱れていく。
「清も見ていないで雷丸様を止めてくれ」
緋桜は事務所内にいるもう一人の忍装束の少女に助けを求めた。
だが長い後ろの黒髪を首の後ろで一括りにした小柄でスレンダーな忍娘は助けを求める声には応じなかった。
「緋桜、御頭様の意思を尊重、それが我々の誓い」
どこまでも忠誠を第一に雷丸を擁護する。
「そ、それはそうなのだが、そうなのだが、これはあまりにも忍として、忍として……」
「清、準備はできたんだな」
「御頭直属弧乃衛忍軍、全員配置終了」
年齢が中学生でも中身は弧乃衛忍軍隊長の地位を実力で勝ち取った少女、狐賀山清が窓の外を指さした。
事務所の窓から見える小高い山、その山の反対側から登る白い煙は、忍が使う合図の狼煙。
「問題無し、計画は実行可能」
「清、弧乃衛忍軍は雷丸様の愚行を止めようとは考えないのか!!」
「思考の余地無し、御頭様の意思尊重」
「そうだ『御側役筆頭・伊賀野緋桜』すぐにその手を放せ」
弧乃衛忍軍隊長という心強い援軍を得た雷丸はここぞとばかりに、精一杯の威厳が出るように畳み掛ける。
「それから衣服を整えろ」
「衣服?」
注意されはじめて気がつく着くずれ、慌てて手を放すと身だしなみを整えた。
「そのまましばらく大人しくしていろ」
「りょ了解しました」
「よし清、今のうちだ」
「御意」
清はソフトボールサイズの水晶玉を取りだし、窓際に置かれていた専用の代に設置する。
窓から差しこむ太陽の光で影ができ、水晶で屈折した光が影の中で輝く星を作り出す。その輝く星の影を清は指で摘みあげると、星の影は糸を引き星と水晶玉をつないでいた。
「幻術結界・虚を使用」
星の影を指に挟み腰を落とし大きく振りかぶって手裏剣を投げるように星の影を窓の外へ投げ放った。
空を切り裂き飛ぶ星型の手裏剣、木々の間を疾走し遮る枝を貫通して真っ直ぐに、その距離は有に五百メートルは超えていた。
そして手裏剣の向かう先の木の枝で一人の忍が待っていた。
迫る手裏剣に合わせて空中にその体を投げ出すと、手裏剣をワンハンドキャッチで掴み、勢いを殺すことなく全身を回転させ別方向に星影の手裏剣を放つ。
影の糸も切れることなく手裏剣の飛んだ軌跡をなぞっていく。
そしてまた別の忍がキャッチして方角を変えて投げる。繰り返されること三十回、影の糸が裏山の外周を一回りして事務所の清の元に戻ってきた。
星影の手裏剣を指二本でキャッチすると貯金箱の中にコインを落とすように水晶玉の中に星影を落とした。
「御頭様、準備完了」
影の糸は水晶を基点に山を囲む円になった。
「ご苦労、それと清ここではギルドマスターと呼んでくれ」
「了解、ギルドマスター」
「うんうん、いい響だ」
清にギルドマスターと呼ばれ、嬉しそうに顔をゆるませた雷丸は何度もうなずきテンションを高めていく。
「さあ、ここからは俺の仕事だな」
「御頭様の想像力が術の完成に影響大」
「ギルドマスターだ」
「失礼、ギルドマスター」
注意を受けて言いなおす清、表情を変えないため反省しているようには見えないがハイテンションの雷丸は気にしない、ギルドマスターと言われることの方が肝心のようだ。
「想像力は任せろ、この世に生を受けて十六年、物心ついた時からあこがれ続けていた空想だ」
雷丸は影の糸で繋がった水晶玉を額に押しあて全身に気合をめぐらせる。
「行くぜ!」
額にあてた水晶玉が銀色に輝きだす。
「俺の理想、俺の妄想、俺の夢想、すべてが形となって現れろ」
少年は誰しもが夢を持つ。
雷丸の例にもれず夢を持ち、憧れを持っていた。そして人一倍の行動力も持っていた。
その行動力が普通なら幼い少年の妄想で終わるはずだった幻想的な夢を強引に現実世界にひっぱりだすことになる。
銀色の輝きは強さを増し事務所内を銀一色に染め上げた。
「こい、異世界ファンタジー!!」
雷丸が夢想で終わるはずだった夢を創造する。
裏山を囲っていた影の糸は膨らみ、頂上をめざし広がっていく、すべてを覆いつくすまでにかかった時間はホンの数秒、覆った後は溶け込むように消えていった。




