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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第五章『冒険者が行方不明、原因は家出だ』
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五十五の巻『千羽崎杏樹』

   五十五の巻『千羽崎杏樹(せんばざきあんじゅ)



『ああ、これは夢だ』


 杏樹は自分が夢を見ていることを自覚した。

 これは自分の小さいころの夢。


 実家が剣道道場というちょっと変わった環境に育った杏樹は幼いころから兄と一緒に剣道漬けの毎日を過ごしていた。

 別に剣道なんか好きでもなかったのに、どうして毎日怒られながら練習をしなければならないのか、小さいころの杏樹はいつも泣いていた。


 今見ている夢の中の幼い自分も泣いている。


 子供は生まれる家を選べない。

 杏樹は家が嫌いだった、そんな杏樹を心を癒してくれたのは剣道場の屋根の影の巣を作ってくれた燕の親子であった。

 道場は家の隣に立てられており、燕の巣は丁度杏樹の部屋の窓から見ることができた。

 その燕の親子を見ている時だが杏樹の泣き止む時だった。


 杏樹が鳥好きになるのは自然な流れであった。家にあった図鑑は読みつくし、小学校の図書館の鳥関係の本も読みあさった。

 親からの毎日の課題として出されていた素振りのノルマも、道場裏の燕の巣の下で行うようになっていた。巣の中では生まれたばかりの雛がエサを求めてピヨピヨとさえずっている。

 幼い日の杏樹はここが一番のお気に入りであった、でも……。


『見たくないな』


 小さい頃の唯一と言ってもいい、杏樹の笑っている思い出。しかしこの後に起きてしまう出来事が杏樹の思い出を悲しみに染めてしまう。


『やめて!』


 叫び空しく、停止のボタンがない夢は再生され続ける。


 いつものように燕の巣の下で素振りをする幼い杏樹、上段にふりかぶり元気よく振り降ろす。この日はいつもにもまして嬉しそうであった。


『そう、この日は珍しく父親に褒められたんだ』


 それが嬉しかった。怒られなかったから。

 褒められた理由は、練習試合ではじめて兄に勝ったからだった。

 決め技は今素振りでやっている上段からの面。

 だからだろう、素振りはいつも以上に力が入っていた、しかし……。


 巣から体を乗り出した一羽の雛がバランスを崩して落ちてきたのだ。だが素振りに夢中になっている杏樹は気づかなかった。


 振りかぶった竹刀の先端で落下してきた雛を突いてしまったのだ。


「え……」


 茫然とする幼い杏樹。

 自分がしでかしてしまったことを理解して瞳に涙があふれ、すすり泣きがはじまり、程なくして大泣きへと変わった。


 偶然による事故だった。それでも杏樹は自分を攻めずにはいられなかった。

 それから道場の裏には近づけなる。

 幼き日のトラウマ。

 今でも燕はあの道場の裏に巣を作りに来てくれているが、杏樹の部屋の窓のカーテンは燕の巣が見えていた半分を覆い隠し、あれから一度として開かれていない。


 杏樹の部屋の窓はいつも半分だけ隠されている。

 その後は逃げるように剣道に打ち込み出したのだが、一つの決定的弱点ができてしまい、今まで勝てていた相手にも勝てなくなっていった。


 そして杏樹の読む本にも変化があった。燕などの実在する鳥の本からフェニックス、不死鳥といった幻想世界に登場する鳥の本に変わったのだ。

 夢の中の杏樹が成長して現実の自分に年齢が追いつく、手の中には一冊の本が収まっている。




 カーテンが半分開けられた窓から、朝日が差し込み杏樹は目を覚ました。

 一昨日、一週間ぶりに帰ってきた自分の部屋。

 眠り慣れた布団は、空き家で生活していた頃よりも確実に疲れを癒してくれていた。昨日の全力でやった側溝掃除の影響も一切残っていない。今日は冒険者ギルドのギルマスとシームルグを一緒に探しに行くと約束した日。


「よし!」


 薄らとついた涙の後を拭い気合を入れると、机の上に置かれていた一冊の古い本を手に取った、その本は日本語ではなくペルシャ語で書かれた物、タイトルは『シームルグ神話』日本語訳の本が出版されていなかったため、ネットでわざわざ取り寄せたのだ。

 当然、字が読めるわけもなく、辞書を片手に翻訳しながら読んでいる。一年かけてやっと半分まで読むことができていた。一週間の家出中もこの本と辞書だけは持参していた。


 どうして杏樹がここまでシームルグにこだわるようになったのか、それは雷丸が異世界冒険に憧れるのと似ているのかもしれない。不死鳥とも例えられるシームルグ。死なない鳥、そして山に捨てられた子供を拾い、その子供が後に勇者、英雄となる。

 自分もシームルグに育てられたのなら、今とは違う生活が遅れたのではないかと、当時は何でもいいから逃げる場所が欲しかった、シームルグの住まう山に捨てられた生活、杏樹が妄想した設定であった。


 高校生になり、そんな妄想はくだらないモノだとは理解している。しかし、幼い頃に抱いたシームルグへの憧れだけは今でも強く心の奥底に残っている。


 夢の影響で過去の自分を思い出していると、携帯がメールの受信を知らせてきた。

 メールの内容は同じ剣道部の屋名木茂(やなぎしげる)、冒険者名シーゲルからの冒険のお誘いであった。そもそも杏樹が冒険者ギルド『狼弧』のことを知ったのも剣道部の練習中にシーゲルから聞いたからだ。


『みんな、異世界で冒険ができるバイトがあるぞ!』


 最初は異世界が実在するなど信じていなかったが、剣道部の皆が乗り気になり部員全員で参加しようという流れで行ってしまっただけだった。

 登録もよく分からなかったので、ゲームが得意なヤツに任せたらアリージェと言う恥ずかしい名前になっていた。


『杏樹はどんな職業がいい?』

『よく分からないけど、幻獣が仲間にできるヤツが良い』

『だったら召喚士かな』

『でも俺たち剣道部だけ』

『じゃあこれは、獣騎士、テイムもできる前衛職みたい』

『お、いいじゃん、俺も超戦士と悩むな』


 超戦士と獣騎士の違い、獣騎士は魔獣をテイムできるほか騎乗スキルなどが始めから付加されている。逆に超戦士は剣に特化した職業であり、細かい技を覚ええない代わりに専用の強力な剣技を操ることができる上に全職業の中で一番固い。


『異世界にきてまで剣にする必要なくね、俺は魔法使ってみたい』

『それも分かるけどよ、リアルでのスキルが影響されるみたいだから、せっかく練習した剣の腕を生かしたいじゃん』

『そうだね、だから杏樹は獣騎士で決まりだね』


 別に召喚士でもよかったのにと冷めた心でつぶやいていた。

 盛り上がる部員たちから一人取り残された杏樹はいつの間にか獣騎士アリージェとなっていた。名前だけでも自分で考えればよかったと後悔もした。しかし、初回登録特典でもらった異世界チケットを使い、一度異世界を冒険したら、冷めていた心が一気に吹き飛ばされた。


 そこはまさしく異世界であったのだ。

 幻獣、魔獣たちが歩き回る異世界、ここにならいるかもしれない、あのシームルグが。

 冒険者ギルドの策略にまんまとハマった杏樹は、その日の内にリアルクエストを受注、同じくハマったシーゲルたちと共にわずか三日で冒険者ランクをEからDにあげ異世界冒険への正式な資格を手に入れた。


 それからは開店から閉店までギルドに入り浸りシームルグを探す毎日。

 異世界に慣れるまでの数日はシーゲルたちと共に行動していたが、目的がはっきりとしていた杏樹はシーゲルたちと離れてソロでの活動が中心になった。


 だが目的の霊鳥は手掛かりすら一向に見当たらなかった、時間がたりない、ギルドまでの交通費を稼ぐためにリアルクエストも受けていたが、その時間さえ勿体なく思えてしょうがない杏樹。そんな時、シーゲルたちがギルド近くの商店街にある潰れた喫茶店に泊まりこもうと計画していることを聞き、女子一人と分かっていても頼み込んで参加した。


 親には泊りがけのアルバイトとだけ説明して、了承を貰う前に家を飛び出していた。まさか学校で騒ぎになっているとは思ってもいなかった。あのまま家出を続けていたらホントに警察騒ぎになっていたかもしれない。


 だがその家出のおかげで、杏樹は一人の少年と出会う。

 シームルグの名前を調べるとなく当たり前のように知っていた少年。ファンタジー好きのシーゲルたちでさえ知らなかったのに、そんな人物とあったのは初めてだった。


 今日はこれからその少年とシームルグを探す冒険をする。


「ごめんね」


 杏樹はシーゲルに断りの返事を送ると、一度ど半分だけ閉められたカーテンを見て部屋をあとにした。

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