五十四の巻『ギルドマスターをなめるなよ』
五十四の巻『ギルドマスターをなめるなよ』
「驚いたな、まさかアリージェからそんなコアな名まえを聞くことになるとは」
セリフは芝居がかっているが雷丸は本当に驚いていた。シームルグとは日本ではマイナー名前だと思っていたから、それがまさか幻獣や魔獣にあまり興味のなさそうな女子から出てくるとは。
「あの雷丸様、シームルグとは?」
「古代ペルシャで英雄を育てたと言われる霊鳥だ」
七色の尾を持つ巨鳥という伝承もある、古代ペルシャではフェニックスとも同種という説もあり不死鳥の意も持っていたと雷丸の記憶にはある。
「やっぱり知っているのね」
「おう、当たり前だ」
雷丸の脳内には幻想系の辞典ならば十数冊と叩きこんである。
出版社や参考文献が変われば、起源や伝承など多少の違いは出てくるがそこは雷丸独自の異世界設定で補完されている。
雷丸に聞けば簡単な伝承(ファンタジー限定)なら辞典要らずで答えてくれる。
「それでそのシームルグがどうかしたのか?」
「えっと、その」
杏樹は言いにくそうに視線を泳がせる。
「あの異世界のシステムや魔物はあなたが企画して製作してるのよね」
「おう、その解釈で間違いないぜ」
「そうですね、解釈は間違っていませんね解釈は」
きっと杏樹は異世界を作り出す特殊なシステムを開発した会社や団体などに依頼していると思っているのだろう。まあ、忍の幻術を使って自身の妄想を具現化したなど誰も考えつかないであろうし当然の勘違いだ。
「新しく異世界に登場させたりとかは、しない?」
「シームルグをか」
「ええ、できれば、無理なら他の鳥系でもいいわ」
どうやら彼女は鳥類が好きなようだ。
自分の恥ずかしい部分をさらすように、顔を赤く染めながら、それでもお願いをしてくる杏樹、昨日亜雪が察した杏樹が何か異世界でしたいことでもあるのではという予想は当たっていたようだ。
きっとそのシームルグが関係するのだろう。
昨日の殺気を飛ばした少女と同一人物とは思えないほど繊細で華奢に見えてしまう、杏樹は心細そうに雷丸の返事を待つ。
「それは無理だな」
「ッ! そう、やっぱり無理よね」
杏樹は悔しそうに唇を噛みしめた。
「雷丸様、どうして?」
緋桜は少し怪訝そうな表情で主の顔を見る。緋桜の予想ではこのような異世界が絡む依頼や願いは率先して叶えていくのが普段の雷丸だと知っているから。
異世界や幻想好きの仲間が現れた。それなら一緒に冒険しようぜ、となるのがいつのもパターンだ。
それがどうして今回だけダメなのか。
「どうしても何も、すでに裏山異世界にいるからなその霊鳥シームルグは、新しく生み出す必要なんてないだろ」
「……え」
杏樹と緋桜は二人外って間の抜けた声をもらしてしまった。
「もう、いるの?」
「ああいるぜ、世界初の異世界ギルドマスターをなめるなよ。最初に異世界を作り出した時に同時に生み出してたからな」
「どこ、どこに行けばあるの!?」
雷丸へと掴みかかる杏樹、今回にこれは危害を加える目的ではないと判断した緋桜は止めには入らずスルーした。
雷丸も襟首を掴まれ上下へとゆらされるが落ち着き払っていた。
「おいおい、会いたい魔獣がいるならそれを探すのも冒険者の冒険の内だぜ、人を攻略本みたいに使うなよ」
「…………確かにそうね、あなたのいう通りだわ」
杏樹は掴んでいた襟首を放した。
「ただ、俺も召喚士でそろそろ新しい魔獣と契約したいと思っている。そしてできれば鳥系が欲しいとは前から考えていたことだ」
「それって」
「教えるのは無理だが、シームルグを探して一緒に冒険するってなら大歓迎だぜ」
おどけて見せるギルドマスター。実の所、雷丸は異世界冒険を心底楽しみたいがために、裏山異世界の入り口付近に低レベルのゴブリンなどを配置した以外はすべてランダムで行っていて、どの幻獣がどこにいるのか全くしらなかったのだ。
まあ一つの設定として強い魔物ほど山の上の方を縄張りにするという習性は入れてはいるが、あくまでも目安くらいにしかならないだろう。
「やっぱりこのパターンですか」
結局は一緒に冒険しようにいきついた。分かっていましたともと緋桜は小さくため息をついた。
「一緒に冒険ねわかったは、了解よ、早速今から」
「これから家に帰る所です」
緋桜が早速ギルドに向かおうとする杏樹に待ったをかけた。きっと迷惑をかけた家族に叱られるなどをして今日一日は身動きはとれなくなるだろう。
「そうだったわね、だった明日の朝一番で」
「明日は商店街裏の側溝の掃除です」
無断で空き家を使用した罰で行うリアルクエスト、これをクリアしない限り異世界冒険はできない約束になっている。どこか普段よりも冷たいトーンで鋭いツッコミを入れる緋桜、鍛えられただけでない強い感情が見え隠れしている。
「最速で明後日からだな、もっとも明日一日で側溝の掃除が終わればだが」
「終わらせてみせるわ」
以前にこのリアルクエストと似たような内容のクエストは六人掛りで完了までに三日はかかっていた、今回はその時よりも人数は多いが、一日で終わらすとなると相当にハードだ。
杏樹が宣言をすると、迎えのバスがちょうど到着した。
「次からはあの空き家は有料になるからな」
「ギルドを活用して稼ぐから大丈夫」
「それはありがたいことだ」
「明後日の約束、忘れないでよ!」
店の外へと出て、バスに乗り込み帰っていく家出冒険者たちを見送った。
「一週間も家出していて、明日から外出禁止とかにならないかな」
「そうですね、その心配はありますね」
もしも外出禁止になったら、明日の側溝掃除が出来なくなってしまう。
「そうなればギルド登録抹消ですね」
「少しは余裕を見るぞ、何か緋桜、さっきから態度が冷たくないか」
「いえ、私はいつもこんな感じです」
確かに緋桜は機嫌が悪くなっていた、いつからかといえば雷丸が杏樹を異世界冒険に誘ったあたりから、新たな冒険に胸踊らす雷丸は気がつきはしなかった。パターンだからと分かっていても雷丸が出会って間もない女子を誘う現場を見せられては情緒不安定になってしまうようだ。
「雷丸様、鳥の魔獣捜索は私も同行しますので」
「おう、よろしく頼むぜ」
少年のような笑顔で雷丸は緋桜の申し出を了承した。
これだけで、緋桜の機嫌が直ってしまうのだから、きっと自分自身でもゲンキンな性格だと思っているだろう。
翌日、商店街の裏では大がかりな側溝の掃除が行われていた。悪臭にいやいや掃除をする少年たちの中でただ一人いる少女が少年の三倍の活躍をしてたった一日で懲罰掃除クエストを完遂させていた。
「どうよ、ギルマスこれで文句ないでしょ!!」
全身を泥で汚しながら、きれいになった側溝の前で仁王立ち。
ツナギ姿の杏樹は他に掃除に参加したどの家出少年冒険者よりも全身を泥で汚していた。
「よほど、シームルグでしかた、その鳥に思い入れがあるようですね」
懲罰クエストのため監督役として雷丸と緋桜も参加していた。
「明日の約束、忘れてないでしょうね」
「わかってる、明日は霊鳥探しだ、緋桜も準備しておいてくれよ」
「御意」




