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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第五章『冒険者が行方不明、原因は家出だ』
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五十三の巻『開業魔法具店、目玉は魔獣の卵』

   五十三の巻『開業魔法具店、目玉は魔獣の卵』



 驚きの悲鳴をあげた杏樹。

 一般人の杏樹は免疫が無い分、驚きは緋桜以上だった。


「後、一時間もしないで迎えのバスが来るからな、帰る支度は済ませておいてくれよ」

「え、ええ、帰る支度はもうできてるは……」


 心ここに非ず。

 足元に大き目のキャリーバックと竹刀袋が置かれていた。昨日雷丸が目を通した彼女の資料には家が江戸時代から続く剣道道場をしていると記載されていた。緋桜の感じたなにがしかの武術とは剣道のことであったのだ。

 どことなくお堅いイメージを受ける言い回しをするのも家の影響を受けているからかもしれない。


「どうした、異世界ならギルドの裏山で慣れているだろ」

「いえ、これは決して慣れる類のモノではありません」

「私は慣れていますけど」

「亜雪様は例外です」


 だからこそ雷丸の相棒を名乗れるのだ。


「私も慣れた」

「清はもう少し忍としての自覚と誇りを持て!」


 緋桜と清、同じ立場なはずなのに、どうしてか雷丸の起こす現象に緋桜だけが被害にあっている。対応策は清のように開き直り雷丸の行動を全て容認すればこのストレスから解放されるかもしれないが、それは忍として雷丸に仕えると立てた自身の誓いを破ることになると、固い固いと分かっていても考え方を変えられない緋桜であった。


「今日も朝から緋桜さんのツッコミはキレがありますね」

「ええ、毎日鍛えられていますので」


 決して狙って鍛えたスキルではないが。


「ギルドカードにスキルツッコミって入れようか?」

「お願いします。全力でやめてください」


 日本語がとてもおかしかった。


「あなたも大変ね」

「ええ、理解していただき感謝します」


 杏樹も感性が緋桜に近い物を感じて慰める。


「それで、もしかしなくても、これは冒険者ギルド関係の施設なのよね」


 それぞれの建物には店を現した看板が掛けられているので、ファンタジー世界の話しやゲームを少しでも知っていれば予測は簡単だろう。

 杏樹が出てきた元喫茶店には止まり木の看板、金物屋には剣と槍がクロスした看板が掛けられている。そして杏樹が気になったのはとんがり帽子と魔法の杖が描かれた看板を飾る魔法具店であった。


「あそこって具体的には何が売ってるの?」

「おお、気になるか、本来はまだ営業時間前だが今日は開店日サービスとして今すぐに開けてあげよう」


 何を売っているかを聞かれただけなのに、開店の準備を始める雷丸。


「あの、私は商品の種類を聞きたかっただけなんだけど」

「気にしないでいいですよ、雷丸は新しく作った異世界に店を早く人に見せたいだけですから、ここは第一号のお客様になっていただけると嬉しいです」

「は、はぁ……」


 昨日の交渉を思い出したのか、杏樹は亜雪の申し出を断りきることができなかった。

 その間にも、雷丸は忍もかくやという速度で店を開きお客を招き入れる体制を整えていた。


「ようこそ、異世界魔法具第一号本店へ、ここには異世界を冒険する上で役立つ魔道具や魔法関係のアイテムを取り揃えている店だ」


 店の営業を任せる忍がまだ決まっていないので、雷丸自身が店長兼売り子を務める。一号と名付けているところからも雷丸は異世界のさらなる拡張をすでに狙っていた。


「魔法具とは具体的にどのような品があるの?」


 店に入った杏樹は陳列されている商品を品定めする。

 ここでも雷丸の細かいこだわりは発揮されていて、同種の商品であっても細部がわずかに違っていて手作り感がリアルに再現されている。おまけに匂いまでした。


「回復薬から付加魔法具まで手広くやってるぜ、だが開店セールの目玉はこれだ!」


 雷丸は底が広い籠を取りだした。中には鶏の卵よりの二回りほど大きい卵がびっしりと並べられてる。色合いが違うのが混じっていることから、数種類の卵があることはわかる。


「なんですかこれは」


 杏樹ではなく緋桜が訪ねる。

 本来なら店員側で仕事をするはずの緋桜も現状はまったく無知なため、杏樹と同じようにお客ポジションで店を見学、亜雪と清は店の外で送迎バスの到着を待ってもらっている。後か来る家出冒険者たちへの説明も必要だろう。


「魔獣の卵だ、テイムや調教系のスキルを一つでも持っている冒険者は購入でき、羽化した魔獣を使役できる夢の卵だ」


 職業で魔獣をテイムできるのは雷丸の召喚士や杏樹の獣騎士などだが、別のテイムを持たない職業でも後からの追加スキル調教を取れば魔獣を育てることは可能となる。今までは魔獣を手に入れる方法は召喚士などがテイムした魔獣を譲って貰うくらいしか方法は無かったが卵が購入可能になったことでその枷が外された。


 戦士系なら馬型が似合いそうだし、魔法系なら狼型などのアタッカー役などもいいだろう。

 もっとも専門職でない冒険者が育てられるのは基本一人一体までと雷丸が異世界設定で定めていた。


「魔獣を使役」


 杏樹が魔獣を使役できると言うセリフに食いついた。籠の中に納められている卵をまじまじと凝視する。


「今度は卵ですか、雷丸様の思いつきは本当に止まりませんね、私などは店に並べられた商品の殆どが理解不能です」

「そうか? 異世界ファンタジー好きなら説明なんてしなくても理解できる物ばかりだと思うけどな、どれが分からないんだ」

「たとえばあの袋です」


 緋桜が壁に掛けられている茶色い布袋を指さした。


「防具袋にしては小さすぎます、なのに売られている値段はそちらにある薬草の五十倍もするなんて信じられません」


 摩訶不思議な道具群の中でも数少ない緋桜が理解できる薬草を基準に見て、ただの小さい袋が高額で売られているなど詐欺以外には感じられないのだろう。


「あれは魔法の袋だ、見た目よりも大量の物が入れられる。もっともこれは初心者用だからな入れられる総量は六畳一間分くらいだな」

「あんな袋で六畳!?」


 雷丸の緋桜でもわかりやすいように畳の広さで教えたおかげで、魔法の袋の仕組みは理解できたようだが、そのアイテムの存在自体に衝撃を受けているようす。


「上級者用の魔法のカバンもあるけどな、まだ上級者と呼ばれるほどの冒険者は育ってないから店には並べていない、ちなみに値段は薬草の二百五十倍だ」

「……二百五十、その分類にどんな意味が」

「魔法のカバンに使われる素材が希少だからな高額になるのはしかたがない、数が少ないから当然のこと初心者全員に配る余裕はないっと言う設定だ」


 でました雷丸の本日一回目の設定である。


「設定、そうでね、雷丸様の設定にかかれば作れない物はありませんもんね」

「最近はファンタジー系の架空辞典などがあるからな、想像のネタには困らない、つまり、架空辞典に記載されている全ての武器や魔道具を生み出すことがでるのだよ、幻想異世界理論的には」

「……幻想異世界理論って理論じゃないですよね」

「細かいことは使用で流すのが業界だ」


 どこの業界ですかとツッコムのを必死で堪えた。ツッコんでも異世界業界と返されるのが分かっていたから。


「ねえギルマス」


 雷丸と緋桜が会話している間、ずっと卵を見ていた杏樹が雷丸に質問をする。


「はじめてギルマスと呼んでくれたな、なんだ獣騎士アリージェ」

「この卵の中には鳥系はいないの」


 昨日と違いアリージェと呼ばれても否定することなく杏樹は会話を続ける。


「鳥系統はいないな、ここにいるのはあくまでも初期にもらえる魔獣と同種の卵だけだ」


 初期にもらえるのは馬型、狼型、狐型、猫型、鼠型、蜂型の六種類と決められている。


「そう」


 わずかにだが悲しそうな瞳をして卵から視線をはずした。


「さっき、架空辞典がネタになっているって言っていたわよね。あなたならシームルグも知っているでしょ」

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