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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第五章『冒険者が行方不明、原因は家出だ』
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五十一の巻『亜雪の完全勝利』

   五十一の巻『亜雪の完全勝利』



「しかし、それでは不公平感は拭えないのも事実。そこであなた達だけの譲歩ではなく遠方の方々全員への救済処置を設けましょう」


 一旦言葉を区切り雷丸へ伺いを立てる。交渉事なら亜雪はギルド一である雷丸は全幅の信頼の元、亜雪に全ての判断を任せた。


「例の切り札だな、ギルドマスターとして承認しる」

「ありがとうございます」


 ライダースーツでも気品は失われない優雅なお辞儀をする。


「ギルマスよりの承認を得られましたので、明日から冒険者ギルド『狼弧』への送迎を行うシャトルバスを用意します」

「シャトルバス!?」


 思いもしなかった提案に杏樹は度肝を抜かれたようだ。


「例の物をお願い」


 亜雪が何もない空間に手を出せば御側衆の一人が現れ書類の入った封筒を渡して、また闇の中へと消えていく。


「雷丸様より、忍の扱いが様になっていますね」


 複雑な気持ちになる緋桜、許嫁である亜雪が雷丸と結ばれれば今よりもきっと忍としての活躍の場が増えると確信は持てるに違いないが、どこか悔しそうに表情を雷丸に向けてしまう行動を抑えきれないようだ。


「誰だ今のは……」

「人が現れて消えたぞ……」


 突然現れて消えた忍にざわめく家出少年たち、囲まれていると聞かされていても今の光景は驚かずにはいられない、唯一気がついていた杏樹だけが現れた封筒に意識を向けていた。


「送迎の料金はギルドカードを提示していただければ無料。どうでしょうか、これで交通費に関しての問題は解決できるはずですが」


 封筒から取りだされた書類には使用されるバスの車種や運航ルートが細かく記載されていた。運航ルートは流石に隣街までは含まれていないが、ここにいるメンバーの住まいから問題無く使用できる範囲は含まれている。

 そう収まっているのだ、それは家出集団がごねるであろう理由を予想してあらかじめ対策を用意されていたことになる。


「……まいったわ、降参」


 杏樹は両手を上げて侍のような気配を収める。

 この様子では別の口実でごねたとしても、対応されてしまうと理解したのだろう。


「ランクを落とすとか、登録抹消とか、強権を使った脅しを想定してたのに、こんな条件をだされたらどうしようもないわ、いいわよね」

「ああ、これなら俺たちも文句はない、どころかメチャクチャ助かる」


 一応の意味が強かったが杏樹一人ではなく男性陣の取りまとめのシーゲルにも確認をとった。シーゲルもこの条件ならごねる理由はないとすんなりと受け入れ、他のメンバーからも反対の声は一つも上がらなかった。


「明日はちゃんと家に帰ってくださいね」

「おう!」


 元気よく返事をするゲンキンな男たち、しかし喜ぶ心に冷や水をぶっかけるセリフが送られてきた。


「でもギルドに迷惑をかけた罰はちゃんと受けてもらいます。ギルマス」

「そうだな、緋桜リアルで急ぎの仕事はあるか?」


 リアルの仕事とは派遣の仕事のこと、冒険者ギルド『狼弧』は派遣アルバイトと言うのが現実での姿である。


「今週ですと、この商店街の裏の側溝掃除に人手が集まっていませんね」


 依頼元はここの商店街組合、重労働なわりに給料が安く人の集まりが悪かったことを雷丸は言われてから思い出した。ゴミが詰まって悪臭がしているらしくもっとも人気のないリアルクエストの一つだ。

 御側衆筆頭にして受付嬢主任も務める緋桜は何の資料も見ることなく罰に相応しい仕事を割り出した。


「よしお前ら、今週中にそのクエストを受けろよ、それで今回のことは納めてやる」


 家出集団に断ることはできなかった。せっかくタダで家から通える手段を手に入れたのだ、きっと喜びの涙を流しながらドブ掃除をしてくれるだろう。




 家出集団に明日は必ず家に帰るとの約束をもらい、元喫茶店を出る雷丸たち。


「あの亜雪様」

「どうかしましたか?」

「その、無料の送迎バスは予算がかかり過ぎるのでは」


 説得の材料にあがった送迎バス、緋桜は運航にかかる料金のことが気になっているようだ。きっと脳内では高速でソロバンが弾かれているだろう。

 バスの手配を戸隠峰にしてもらい、身内料金で格安にしてもらってもわりにあわないと顔には書かれている。


「料金のことは気にしないでいいですよ、これは先日の鮫裏から守ってもらったお礼ですから、すべて戸隠峰の方で負担します」

「それは、貰いすぎのような、いえ貰いすぎです」


 正直に言えばありがたい申し出である。しかしそれはいいことなのかと内面では天使と悪魔が壮絶な忍術が合戦をしている様子。


「いいえ正当な報酬です。護衛を依頼しておきながら、当家の内部から裏切りものを出すなど送迎バスだけでは足りないくらいです」

「ですが、依頼料は最初に決めていました、それ以上もらうのは」

「必要経費です」


 必要経費、たぶん言葉の使いどころが間違っている。


 間違っているが、こうまではっきり断言されると言い返し辛くなってしまう。

 ひょっとしたらこの瞬間に辞書が書き変わっていそうな錯覚さえした。


「緋桜さん、ここはラッキーだったと思って喜んでおきましょう」


 それは払う側ではなく、貰う側の心境のはずだが。

 金銭感覚がお嬢様の亜雪と庶民の緋桜ではまったく別の次元、身内で裏切者を出したというなら清率いる弧乃衛も同罪なのだが。


「これ以上は疲れるだけだぞ緋桜、口では俺もお前も亜雪には勝てない」

「そうですね」

「わかって貰えてうれしいです」


 お礼ができて嬉しいのか、亜雪はとてもさわやかな表情になっていた。


「このまま、残りのお礼も受け取ってもらえますかね」

「まだあるのですか!?」


 すでに貰いすぎていると感じている緋桜が悲鳴をあげる。


「ええ、送迎バスは鮫裏の裏切り行為の謝罪分です。まだ、清さんたちを騙してかどわかした分は返せていません」

「それこそ、こちら側が謝罪する事では」

「いいえ、雷丸の大切な仲間をかどわかしたのです、キッチリと謝罪させてもらわないと、雷丸の相棒として示しがつきません」


 口では勝てないと悟ったばかりなのに、緋桜は展開される超亜雪理論に結局は反論してしまう。そして刃通らず跳ね返される。


「らいまるさま~」

「情けない声出すな、お前は御側衆筆頭だろうが」

「……う~そうではあるのですが」


 筆頭の情けない姿を部下の御側衆たちはやさしくゆっくりと背中を向け夜の闇へと消えていく、それは優しさなのか巻き込まれることを恐れた逃避なのかは分からない、願わくば前者であって欲しいと願う雷丸であった。


「納得していただけでなりよりです」


 優雅に微笑むお嬢様の完全勝利。


「それで雷丸、なにか希望はありますか?」

「希望ね……」


 顎に指をあてながら何かないかと思考する。このままでは謝罪させろと亜雪が納得するまで言われ続けるのは長い付き合いで分かっていることだ。

 どうせもらうことになるなら、ギルドに役立つことがいい。


「あ」


 そこで思いつく今回の騒動の抜本的解決策、今回は杏樹たちが素直に従ってくれたからよかったが、空き家がある以上、いずれは入り浸る連中が出てこないとも限らない。そうであるならば空き家事態を無くしてしまうのはどうだろうか。


「亜雪、頼みたいことがある」


 戸隠峰の力を借りればできるはず。


「いいアイディアが浮かんだようですね」

「ああ、空き家問題の解決策、俺たち冒険者ギルド『狼弧』にしかできない異世界風の問題解決だぜ」

「それは名案ですね」


 内容も聞いていないのに賛同する亜雪、彼女は雷丸が思いついた内容よりも謝罪を受け入れてくれたことを喜んでいる。


「ああ、胃がいたい、頭痛もする」


 きっとまた緋桜の心臓に悪いアイディアであることは間違いない。

 今の精神状態でアイディアを聞く勇気がわいてこなかった御側衆筆頭の忍娘は暗い影を引きずりながら、敬愛する主の後を足を引きずるように付いていった。


 この判断が翌日にはさらに大きなダメージ(精神)になって返ってくることを予想しながら。

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