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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第五章『冒険者が行方不明、原因は家出だ』
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五十の巻『獣騎士アリージェこと杏樹』

   五十の巻『獣騎士アリージェこと杏樹』



「獣騎士アリージェだな」

千羽崎(せんばざき)杏樹(あんじゅ)よ、ギルドの外でその名前を呼ばないでよ恥ずかしい」

「おお!」


 まともな感性を持った意見に、交渉の相手側であったが思わず感動の声をもらす緋桜。


「お前のもう一つの名前だろ、恥ずかしいとはなんだ」


 冒険者ネームを大事にする雷丸が反論。


「登録の仕方がよく分からなかったから、友人に任せたらこうなったのよ。まさか名前変更ができないとは思わなかったわ、できたら絶対にしてるのに」

「まさしく」


 名前を本人とってすさまじく不本意なチェリークリムゾンで登録された緋桜が力強く同意する。

 緋桜は彼女にシンパシーのようなものを感じている。


「獣騎士アリージェ、俺はセンスがあっていい名前だと思うがな」

「聞いてて耳が痛い名前だわ、日本人にはあってないのよ」

「な、なんだと」


 意外な精神攻撃にギルドマスターはダメージを受けてしまった。

 異世界のギルドマスターとして話す雷丸と現代日本人として話す杏樹とではギャップがあり過ぎる。


「雷丸、話がずれてきてますよ」

「そ、そうだった」


 ここに来たのは登録名の話しでは無かった。

 この家出集団を家に帰すためにやってきたのだ。


「アリージェよ――」

「杏樹」


 速攻で名前をかぶせられた。

 キッリっとした鋭い眼光が雷丸を射ぬいていく、幻術結界の影響を受けていないリアルな殺気をぶつけられた。


「あなた、武術をたしなんでいますね」

「そちらこそ」


 殺気を遮るように雷丸の前に立つ緋桜。

 共感を得る相手であろうと、雷丸に対して殺気をぶつけてくる相手は緋桜にとって敵でしかない。互いに必殺の間合いを計りあうような睨み合い状態になった。


「おい、あいつはチェリーじゃないか」


 一人の家出冒険者が緋桜の正体? 冒険者ネームに気がついた。


「本当だ、チェリー・クリムゾンだ」

「ギルド最強といわれる魔法剣士チェリーか!」

「受付嬢のチェリーちゃんだよ」


 緋桜の知らないあだ名がまた増えていた。


「グハッ!」


 不整脈が襲う。

 ついにちゃん付けで呼ばれるまでになった若手最強の忍娘。

 一度も戦闘はしてりないのに、この空き家に突入してから緋桜の精神はゴリゴリと削られていた。精神のHPバーが表示できるなら間違いなくレッドゾーンに突入しているだろう。


 睨み合っているはずの杏樹の瞳にわずかだが同情の色が浮かんだ。同じ被害にあった者同士、共感する部分があったのだろう。

 出会いが違えば親友になれたかもしれないが、今の緋桜は雷丸の忍、主が望みを身を削りながらも全力で叶えるのが使命。


「わ、我々はあなた達に速やかに帰宅を望んでいる、それだけです。実力行使はできればしたくないので」

「俺たちを相手にたった三人で出来ると思うか」


 シーゲルが杏樹に並んで睨み役に参加してくる。

 彼らにとってこの拠点はとても便利であり、無条件ではそう簡単に手放せない。チェリー騒動で緋桜の凄みが弱まりシーゲル達にも冷静さが戻ってしまった。

 人数も見た目ではシーゲルたちの方が多いことが強気にさせる要因にもなっている。


「三人じゃないみたいよ」


 杏樹は窓の外に視線を送る。


「正確な数は分からないけど、この家囲まれてる。あちらがその気になったら数分で外に叩きだされるわよ」


 外で待機している御側衆に気がついているようだ。その事からも緋桜が言う、たしなんでいる武術が緋桜が警戒するほどの腕だと理解させられる。


「マジかよ」


 シーゲルが体ごと向き直り窓を睨むが何も見えない。


「誰もいないぞ」

「星一つ見えないし、遠くに見えていたはず街灯すらない、窓はすでにふさがれているのよ」

「理解が早くて助かる。お前たちは完全に包囲されている無駄な抵抗はやめろ」


 時代劇に続いて刑事ドラマ、徹底的に相も変わらず劇場型性格のギルドマスター。


「そうしたいけど、こっちにも事情があるのよ」

「事情?」

「ここにいるメンバーはギルドから離れた場所に家があるの、夏休みで定期も切れてるし交通費もバカにできない。家には問題にならないように話を付けるから見逃してもらえない」


 力では早々にかなわないと悟ったようで、言葉による交渉に切り替えてきた。相手の強さを見抜くのも強さの内であり、この侍風の娘は頭の回転も速い。


「それは無理だな、お前たちを認めたら便乗する者たちが出ないとも限らない」


 ギルドの人気が上がれば確実に出るであろう。そしてその者たちがトラブルを起こさない保障はどこにもないのだ。


「でも、それだと近隣に住んでいる登録者の方が有利じゃない、一応冒険者ギルドってうたってるけど、派遣のバイトでしょ、なのに交通費の支給は一切ないのよ」


 リアルの派遣仕事は戸隠峰から教わったシステムで運用されているので交通費は出していたが、異世界冒険にかんしては何も補助されていなかった。


「なるほど、あなたの意見も一理はありますね」


 黙って流れを見守っていた亜雪が会話に参加してきた。

 交渉が行える形になり、此処からは自分の出番だと雷丸とポジションを入れ替わる。


「あなたは」

「申し遅れました、私は冒険者ギルド『狼弧』副ギルドマスター亜雪ことスカーレット・スノーです」


 全身フィットのライダースーツを纏った亜雪は、会えて杏樹が嫌っている冒険者ネームまでも一緒に名乗った。


「確かに、ギルドまでの通う距離で不利益が出ているのは認めるしかありませんね」

「分かって貰えてうれしいわ、それならこの空き家を――」

「ですが!」


 亜雪は杏樹の言葉を強い口調で止めた。


「この空き家のとどまるのは違法行為なのでやめてもらわなければなりません」

「今日追い出されたとしても、また私はすぐに戻ってくるわ」


 さきほど雷丸に浴びせた眼力を今度は亜雪に向ける。しかし鮫裏が率いる傭兵集団にもひるむことが無かった亜雪お嬢様はその眼力を物ともせずに受け流した。


 杏樹は冒険者ギルドその物はあまり関心が感心が無いように見えるが、空き家に泊まり込み魔でして毎日開始から終了まで冒険して過ごしている。このギャップが杏樹を攻略する鍵となる。


 冒険の過程を楽しんでいる風ではないので、冒険で得られる何等かの結果を求めていると雷丸は推測した。雷丸に推測できるということは相棒である亜雪にも当然推測できているはず。そこに交渉の勝敗を左右する要因があるのなら、もはや侍娘は亜雪の手の平の上。


「それとも何かギルドの方で優遇処置をしてくれるの?」

「ありえません、違法した者を優遇するなどギルドの信頼が失墜します」


 突破の糸口が見えれば強気に出られる。

 譲歩の要求を胸の前で腕を組んだ亜雪お嬢様が問答無用で切り捨てた。交渉のイニシアティブは完全に握ったのだ。


 これから亜雪のガード不能の攻撃が開始される。

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