四十九の巻『ギルマス対家出冒険者』
四十九の巻『ギルマス対家出冒険者』
雷丸が空き家に向かい一歩を踏み出すと、控えていた御側衆が緋桜を残し一斉に姿を消した。彼らはこの空き家に泊まっている冒険者が逃げないように、そして交渉中にこじれた場合の騒音対策に動いたのだ。
五歩ほど進んでシャッター前に到着するまでのわずかな時間に、緋桜がシャッターのカギを開錠して上へと押し上げてくれる。
喫茶店時代の名残で残っている、入り口を開けるとリンリンとドワベルが鳴るのを押さえる。
相手が一般人と分かっていても緋桜気配を殺して侵入、ドアベル程度の音では起きないだろうが用心に越したことはない。静かに慎重にことを運ぼうとしたのだが。
「たのも~~~!!」
中に入った雷丸が第一声で道場破りのようなセリフを叫んだ。この瞬間に緋桜の行動がまったく無意味なモノになる。
緋桜は店内にあった椅子に足を取られ、忍とは思えない大きな音を立てながら転んでしまった。
「たのも~~!!」
亜雪も雷丸に便乗して声をあげる。
「亜雪様まで!」
相手と向かいあう前から、すぐには立ち上がれないほどのダメージを体ではなく精神に受けてしまった緋桜。つまずいた椅子を杖に変わりにしてなんとか立ち上がる。
「雷丸様、なんのために忍びこんだと思ってるんですか!?」
忍的常識では考えられない騒々しさだ。
「なんのためって、外に騒ぎを知らせないためだろ、防音はもう施してあるし問題無い」
入ってきた入り口はもうすでにふさがれており、窓の外側には夜の闇よりも暗い布がいつのまにか掛けられていた。黒は音を吸収する色それに防音の術までも施されている、この喫茶店は御側衆の手によってすでに夜闇以上の闇で覆われている。
雷丸たちが喋るのをやめれば耳鳴りがするほどの静寂が広がっていく。
そして数秒後。その静寂を破るように、上の階から複数の足音が喫茶店の一階へと駆け下りてきた。
「なんだ、お前らは!」
Tシャツに短パンと夏の夜にすごすには最適であろうラフな格好をした男たちが懐中電灯や携帯の明かりを翳して現れた。
その中から一人の男が進みでる。日焼けした肌に引き締まった二の腕と短髪、甲子園をめざしている高校球児のような少年、歳は雷丸の一コ上ぐらいだろう。
ここのまとめ役なのか、彼が進み出たことで後ろにいる他の男子たちにかすかだが安堵した様子が見え隠れしている。
「こんな夜中に何なんだ」
まとめ役は雷丸たちの正体がつかめず、近くに置かれていた傘を持ち剣のように構えた。
「さすがトップレベルの冒険者、剣の持ち方も様になってるな」
「何者だ!!」
冒険者という言葉に、トップの少年の目つきが鋭くなる。
ここ数週間、冒険者としてしか活動していない彼らはどこか学生というより、本当に駆け出しの冒険者ように見えた。
感覚が異世界ファンタジーよりになっているのかもしれない。
傘の先が雷丸の喉元にむけられる。百均で売っていそうな安物だが、先で喉を突かれればただではすまないが、隣には緋桜がいる以上、雷丸はケガをすることなど一切の心配をしていなかった。
「あやしくはあるが曲者ではない、問題の起こした冒険者の元に訪れた、ただのギルドマスターとその一行だ」
「ギルドマスター?」
どうやら彼もギルドマスターの顔は覚えていないようだ。隠しているわけでもないが、暇さえあれば冒険をしてギルドホールにはたまにしか顔出していないため、認知度は高くない。
「お前は冒険者レベル9、超戦士のシーゲルだな」
「なんでそれを」
「ギルドマスターだからだ。それとあまり人に傘の先を向けるな、けっこう怖いぞ」
「不法侵入者には当然の対応だ」
自分たちの事は棚に上げ、傘を下げるどころか、さらに突き刺すように近づけてくる。
「ああ、あまり危ないマネすると――」
雷丸の後ろに控えていた緋桜の姿が一瞬で消え、雷丸とシーゲルの間に現れた。
「――ウチの護衛がって、遅かったか」
手刀を振り抜いた形で静止する緋桜に遅れて数秒、持っていた傘がボラボラになった。シーゲルの腕には付け根しか残っていない。
相手は一般学生、緋桜は光る物は抜かず手刀による風圧だけでビニール傘を解体したのだ。雷丸に迫る脅威は些細な事でも許しはしない、護衛としてはとても優秀な御側役筆頭。
「雷丸様にそのような物を向けるな」
「ああ、これ傘代にしてください」
亜雪がカウンターに硬貨の中で一番金額高い物を一枚置くと、シーゲルたちの方へと滑らした。西部劇などで酒のグラスを滑らすマネのつもりなのだろう。硬貨がちょうどシーゲルの横に止まったことに小さく拳を握って喜ぶ亜雪。
「楽しんでるな」
「いったい何なんだ」
「ここ毎日、開店から閉店までギルドを利用してもらってるのはありがたいんだが、家にも帰っていないって学校でも騒動になりはじめてな」
学校で騒動と聞いて幾人かの男子たちが顔色を青くする。
「お前らには関係ないだろ」
「大有り、ギルドを運営している側からしたら大迷惑なんだ、お前らの行動は」
ギルドマスターモードになった雷丸の口調は偉そうになる。
「もしかしたらもう警察に捜索願いが出されてる奴もいるかもな、家出の理由が我がギルドにあると知れ渡ったら最悪、ギルドを閉鎖しなきゃいけない可能性だって無きにしもだ」
雷丸から放たれる情報に男たちは動揺をはじめた。このままなら楽に説得ができる。そう思えていたのが、家出少年の後ろから家出少女が出てきたことでまた振り出しに戻されてしまった。
「随分と不確かな情報ね」
振り降ろされた日本刀のような張りがある声が現状を切り裂く。
「出されているかもであって、出されたわけではないでしょ」
セミロングで凛々しい系、どこか侍を連想させられる女子の登場。
彼女が情報にあった家出冒険者たちの紅一点、どうやら、このステージの最終ボスはこの侍娘のようであった。




