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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第五章『冒険者が行方不明、原因は家出だ』
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四十七の巻『捜索、家出の冒険者』

   四十七の巻『捜索、家出の冒険者』



「ギルド幹部は二階、円卓の間に集合だ!!」


 ここは現代社会において唯一存在する異世界の冒険を楽しむための冒険者ギルド。

 学生服に身を包んだ少年がそのギルド本部へと飛び込んでくる。真夏の外を走ってきたため少年は大粒の汗をかいていた。勢いよく開かれた両開きの木製の扉が鈍い音を出し悲鳴をあげたが気にしている余裕はないようであった。


 何事かと振り返る冒険者たち、そこにいたのはひょんなことから忍一族の長となった少年伊古代雷丸(いこだいらいまる)。彼は忍術の一つである幻術を用いて、山一つを異世界へと作り変え冒険者ギルドを作り上げた張本人である。


 裏山の異世界は街近隣の若者の間で局地的ブームとなっており、ギルドマスターである雷丸の通う地元の高校でも夏休みということも拍車をかけ、それなりの数の学生が冒険者として登録してくれていた。


 だがその高校に通う生徒が『異世界ファンタジーに冒険へ行く』と書置きを残していなくなってしまったのだ。この街以外なら妄想が膨らんだ家出にしか思えない書置きだが、この街には異世界と呼ばれる場所がここに存在するのだ、この冒険者ギルド『狼弧(ろうこ)』とまったく関わりがないとは考えづらい。


 学校で生徒が行方不明になったと聞いた雷丸は全速ダッシュで帰ってきた。


緋桜(ひざくら)、登録者リストを持ってきてくれ」

「御意」


 雷丸に続いて駆け込んできた部下の忍娘で御側役筆頭(おそばやくひっとう)である狗賀野(いがの)緋桜に冒険者の登録名簿をもってくるように頼み、自身は円卓の間を目指す。


 元旅館であった木造の建物をそのまま利用しているギルド本部、築五〇年を超える古い階段をギシギシと軋ませながら駆け上がり、廊下の突き当たりの円卓の間の扉を開けると、そこには冒険者の登録名簿を持参し忍装束に着替えた緋桜がすでに待機していた。


 さきほどまで学校の制服を着て一緒におり、名簿を持ってくるように頼んでいたにも関わらず雷丸よりも早くに到着している。普通なら驚く所だが、緋桜の能力を熟知している雷丸は特に驚くこともなく円卓の定位置に腰をおろした。


「家出人は特定できたか?」

「ここに」


 これまたいつの間にか雷丸の隣に現れていた小柄な忍娘、狐賀山(こうがさん)きよが十人以上の家出学生の一覧表を差しだしてきた。


「言っておいてなんだけど、どうやって手に入れたんだ」


 その場の流れで言っただけの冗談であったのだが、忍たちの能力は雷丸の冗談を上回っていた。まかさ本当に行方不明者のリストが現れるとは。


「職員室で」

「盗ってきたのか?」

「それは犯罪、職員室の外から覗いて複写」


 小柄で幼くとも御頭直属の弧乃衛忍軍隊長を務める実力を持つ少女、校庭の木の枝から普通に職員室を見て教師が持っていたリストを書き写したのだ。当然誰にも気づかれずに、忍ですから。

 覗きも犯罪なのではとツッコミは誰もいれない。雷丸も被害を受けた人物もいないのだからとスルーする。


「で、家出人は冒険者として登録をしているのか?」

「そこはさすがに、これから調べなければならないでしょうね」


 最後にごく普通に足音を鳴らしながら円卓の間に現れたのは制服のままの戸隠峰(とがくしみね)亜雪あゆき、冒険者ギルドのスポンサーであり副ギルドマスターのお嬢様。

 必要なデータと幹部は揃ったので、あとは確認だけである。


 …………照合開始から二時間半。


 現在、冒険者ギルド『狼弧』に登録している冒険者は、狗賀狐賀の忍軍団や戸隠峰の関係者など身内を除いても二百七十二人もいた。

 開始から三週間、まだ一ヶ月にも満たないのに三百人近くの人間が集まっていた。


「ここまで増えていたとは、嬉しい限りだな」

「照合するには時間がかかってしまいましたけど、こんな時にパソコンが無いのはつらいですね」

「亜雪、その発言は副ギルマスとしては相応しくないぞ、このギルド本部も異世界なんだからな」


 数が多いのは繁盛している証拠、本来なら喜ばしいことだが、照合作業をする上では負担増である。つい愚痴をこぼしてしまった亜雪に異世界にパソコンなど無いと雷丸の注意がとんだ。


「そうでしたね、ごめんなさいギルマス」

「うむ」

 わかればいいと、照合の終えたリストを円卓に置く。

 結果は行方不明者の学生全員が冒険者として登録していた。

 そして行方不明になってからもギルドに訪れており、それも資料が正しければいなくなったと思われる日以降は毎日、ギルド開店から閉店までずっと入り浸っている。

 今日の緊急の登校連絡も知らないのだろう。


「ずっといるなら、今も裏山異世界かギルド本部にいるよな。今日のギルドスタッフ当番は弧乃衛か、緋桜、御側衆は」


 手が空いているならこのリストに載っている十二名の追跡調査を頼みたい雷丸。


「十二名でしたら、こちらに」


 言われずとも理解した緋桜はすぐに御側衆を呼び寄せる。

 緋桜が手を軽くかざすだけで、スーと影が浮かび上がるように十二人の忍が姿を現す。この気配りこそが緋桜の優秀さなのだろうが。


「……あ~」

「雷丸様? どうしました」


 現れた忍たちを見た雷丸が間抜けな声を漏らした。


「リストの照合から手伝ってもらえばよかった」

「……そうですね、呼べばすぐにきましたから」


 緋桜も気がつかなかったようだ、最初からこの人数でやっていたら一時間もかからなかっただろう。

 雷丸が集合を呼びかけたのはギルド幹部だけ、そして明確に幹部になっているのは、雷丸、緋桜、亜雪、清の四人だけ。


 最初の呼びかけを手の相手いるもの全員としておけば、もっと楽できたはずであった。

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