四十六の巻『~プロローグ』
四十六の巻『~プロローグ』
制服姿の清の証明写真と中等部のクラス、そして伊古代清という名前が記載されていた。
「ど、どう言うことだ!」
緋桜が、かざされた生徒手帳をひったくる。何度見直しても清の名字は雷丸と同性の伊古代であった。
「御頭様の妹として転入」
「い、妹だと、なんて、恐れ多いことを!」
「羨ましい?」
「そんなわけあるかッ!」
表情を変えることなく清は雰囲気だけで得意げだと伝えてくる。
「二学期開始後、中等部生が高等部に行く理由、妹が兄に会いに行く」
「頻繁に来るつもりなのか」
「当然、これ忍法『義兄妹』」
義理の妹に成りすまし兄のいる学校に転入、妹の立場を利用して兄の教室に頻繁に通い、義理の立場を利用して異性として意識させる戦法、これが忍法『義兄妹』である。
「そんな忍法はない!!」
「忍法と開発するモノ」
「やりますね清さん、行動が迅速です」
亜雪が昨晩に聞かされたライバル宣言、わずか数時間で特殊なオプションを付けて小柄な忍娘は同じ土俵に上がってきた。
「忍は速さ命、これで緋桜とも対等」
「下級生だろ、私はクラスメイトだぞ」
珍しくカタカナの言葉を使った緋桜が、自分の方が有利だとアピールする。
「御頭様、呼び方の希望を聞く」
「希望?」
「お兄ちゃん、兄上、ライにぃ、雷丸兄さん、など希望はある?」
「な、なななッ」
主人になつく飼い猫のように雷丸の腕に寄りかかり、呼び名の希望を聞く。
希望の意味を理解した雷丸は数秒考えた後に。
「ここは兄様で」
「了解、兄様」
「どうして兄様なのですか?」
「なんとなく忍っぽいから」
「あら、意外な理由ですね。雷丸が忍っぽさを選択するなんて」
「そうか?」
本人は気がついていないようだが、すべてにおいて異世界冒険を基準におく雷丸が和風の呼び方を選択したことなど今までに一度も無かったことだ。昨日の事件で聞かされた清の意思がなんらかの影響を雷丸に与えたのではないかと相棒である亜雪は推理した。
「どう変わっていくか楽しみですね」
『え~~みなさん、クラスごとに整列してください』
時間が経過し、大ホールにはかなりの生徒が登校してきていた。
壇上に登った教頭がマイクを使い生徒たちに整列を呼びかける。
「それではまた後ほど、私は自分のクラスに向かいますね」
ごきげんようが似合いすぎる優雅な会釈で亜雪が去ってく、動き出した生徒たちは上品なオーラを放つ亜雪に自然と道をあけていた。
「私も編入した組に」
「清、あとで話があるからな」
「望むところ」
緋桜と一瞬の火花を散らして清の生徒の間に紛れて消えた。
「雷丸様、私たちも自分の組に」
「ああ、そうだな」
全校朝礼などでクラスの定位置は決まっている。細かい指示を受けずとも生徒は各々のクラスで集まった。やはり緊急な呼び出しのため全員とはいかず、全体で四割ほどの生徒が登校していないようだ。
『え~~暑い中、え~~緊急な登校要請をした理由を説明、します』
校長や教頭の話は『え~~』が多いのは全国共通らしく。この学校の教頭も例にもれず多かった。
『昨日え~~学校へ一部の保護者から、え~~我が校の生徒が行方不明になったと、連絡がありました』
生徒たちの間からざわめきが起きた。
学生が消える。ぶっそうな事件などテレビのニュースだけだと考えていた者は多いだろう。身近で起きない限りは対岸の火事、それは人間の心理的に仕方のない事かもしれない。
「緋桜、情報はあるか?」
「いえ、この街にはかなりの情報網を引いていましたが、そのような事は、申し訳ありません」
緋桜が申し訳なさそうに謝罪をする。
「忍のネットワークにも情報が無いのかよ、旅行に行ってるだけじゃないのか」
『え~~もちろん、この場にきていない生徒全員が行方不明という分けではありません、旅行などに出かけている生徒もいるでしょう。ですが、え~~未確認ではありますが、二十人近くの生徒と連絡がとれません』
雷丸の意見を聞いたわけではないが、旅行ではないと教頭に否定されてしまった。行方不明だと決定付ける確証があるのだろうか。
『行方不明と思われる生徒の幾人かに、え~~書置きが残されており、え~~』
「書置きって、家出かよ」
事件から家出にイメージが切り替わりと、ホッとした雰囲気がホールに満ちていく、突然の失踪でなく本人の意思でいなくなったのなら事件に巻き込まれた可能性はかなり低くなる。
しかし、続く教頭の言葉は雷丸や緋桜を驚愕させるモノであった。
『書置きには「剣と魔法の異世界ファンタジーに冒険に行く」と書かれていたそうです』
「は?」
マヌケな声を出したのは雷丸、隣の緋桜は目を見開いていた。
周囲は書置きの内容を聞くとクスクスと笑う者もいたが、雷丸たちにとっては笑いごとではすまされない内容だった。
『書置きが見つかったのは、え~~ちょうど一週間ほど前です』
一週間前といえば、雷丸たちが亜雪の屋敷で泊まり込みの警備をはじめた日時と一致する。その間のギルド業務は清からの報告で問題無しと確認していたが、清は雷丸の名を語って嘘の任務をギルドに与えていた。
もらった報告がどこまでが真実で、どこからが嘘だったのか、まだ確認していない。
『え~~書置きがふざけたモノであっても、行方が分からなくなったのは事実です』
雷丸は中等部に視線を飛ばし清を探す。
運良く人と人との間から清を見つけることができた、清は首を大きく横に振り、身に覚えがないと伝えてくる。
『え~~いなくなった生徒たちの行方に心当たりがある者は、解散後に職員室にきてください』
心当たりがありまくりの雷丸だが、行方については見当もつかない。少なくとも裏山異世界の中にはいなかったはずだ。
今朝方、傭兵が山に残っていないか御側衆と狐乃衛が総出で山狩りをしている。
緊急登校要請は行方不明の生徒の件だけだったらしく、教頭の話が終わると解散となった。
生徒たちは自分たちの推理などを回りに披露し始めるが、雷丸はホールの出口向かってダッシュ、緋桜も遅れることなく続く。
中央大ホールを出て校門を飛びだす。炎天下の中をひた走る雷丸と緋桜、そんな二人を、高級車の乗ったお嬢様と妹になったばかりの小柄な忍娘が追いかけて行く。
目指すは冒険者ギルド『狼弧』
この現代で唯一の異世界ファンタジーが存在する忍屋敷。
次の話は書きたいネタが増えすぎたため一旦整理する時間を取りたいと思います。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




