四十四の巻『異世界一周』
四十四の巻『異世界一周』
緋桜が偽物の証拠としてあげたのは地図の裏に書かれていた汚れにも見える小さな文字であった。
「この文字は忍の暗号です。この地図は陽動に使われた流言操作の小道具、敵軍を罠にハメるために埋蔵金があるとばら撒いた地図の一枚でしょう」
「でまかせだ、そんな汚れ証拠にはならない!」
「この文字以外にも証拠はある」
緋桜が懐からまったく同じ地図を取りだした。
「街の古本屋で七八〇円で売っていました。雷丸様覚えていますか、カーンズが持っていた地図の調査しろと命じたことを」
調査の結果は戸隠峰に行った後に判明したので報告が後回しになっていた。
「覚えてるぜ、まさかそれって」
「カーンズが持っていた物もこれと同じです」
「そ、そんなことが……」
大事な埋蔵金の地図が、複数も存在するはずがない。
作られた時代が古かろうと、緋桜の偽物説の方が説得力がある。
「忍法『大山の鼠』。この地図を描いたのは狗賀の忍、私の先祖です」
「なんですって!?」
オネェが混じったような悲鳴を上げる鮫裏。
ことわざにある大山鳴動して鼠一匹。山から不気味な鳴き声するので魔物がいるのでは騒ぎになったが、その正体はネズミが一匹だったという。
大山の鼠。忍が使う忍法であり、埋蔵金があると地図や噂を流し敵を混乱させたのだ。
「つまりあれか、時代遅れだってバカにしてたのに、鮫裏の奴、四百年以上前の忍法に引っかかっていたってことか」
「…………」
反論する気力も失ったのか、うな垂れ大人しくなる。
後は事後処理として、倒した傭兵たちを弧乃衛忍軍がまとめて縛り上げた。
「これで解決だな。緋桜、レベルは元に戻すからな、やっぱりチートはダメだよな」
「レベルかまいませんが、重要な案件がまだ残っています」
すべてが終わったとすっきりしていた雷丸に御傍衆筆頭の顔で迫った。まだ肝心なことが残っていると。
「雷丸様、弧乃衛の処分はどのように」
「処分? なんの話だ」
本当にわけがわからないといった顔をする。
「弧乃衛の雷丸様に対する裏切りの件です。まさか厳罰もなく放免したのですか!?」
「だからな何の話だよ、さっき説明しただろ、彼女はエルフのキヨナでエルフ族にモーターゴーレム破壊の協力をしてもらった設定だ」
「私はキヨナ」
挙手をして名前だけの自己紹介する。
「弧乃衛は雷丸様だけでなく亜雪様も襲っているのですよ、有耶無耶にできるわけありません」
「でも雷丸のすることですし」
当の襲われた本人がもう気にしていないと狐乃衛忍軍を擁護する。
「亜雪様、甘やかしてはいけません」
緋桜の唯一の味方になりえる存在が裏切りかけている。
「でも雷丸のことだから、このエルフの格好自体が罰なのでわ」
「はい?」
亜雪の推測、裏切りをした罰は弧乃衛忍軍をすべてエルフ族へと種族チェンジすることで、これから雷丸が生み出すであろう様々なイベントに強制で参加させられるだろう。
「さすが亜雪、よくわかってる」
「相棒ですから」
「むぐぐ~」
喉が絞られたような声をだす緋桜。
「ふくれるなよ、罰で思いついたんだが、緋桜に頼みがある」
「なんですか雷丸様、長の考えを一切理解のできない御側役筆頭にどのような願いが?」
「コンスゥーを今すぐに用意してくれ、骨組みは適当でいいから」
「早籠をですか、いったい何に?」
「鮫裏のヤツこの裏山を欲しがってただろ、コンスゥーにも興味がありそうだったし、警察に付きだす前に観光をさせてやろう、冒険者ギルド『狼弧』特性の自家用車で」
雷丸がニヤリといたずら小僧のような笑みを浮かべる。
「……ああ、なるほど。了解しました」
緋桜も雷丸の狙いに気がついた。
「清、手伝ってくれ」
「了解」
山の落ちている枝を拾い集め即席の四人持ち早籠が完成する。雷丸が乗った籠よりもさらに強度がないと断言できるほどの適当な作り、中央の丸太までもが細くてもろそうだ。
「完成しました」
「これは、安心安全がどこにもありませんね」
もう一人の経験者である亜雪が出来あがった早籠を見て後ずさりする。
「さて、記念すべき裏山異世界第一号の観光客は、鮫裏執事さんです」
改めての雷丸の紹介、弧乃衛忍軍が一斉に拍手で歓迎する。
「な、なにをするつもりですか!?」
「観光だよ観光」
雷丸が指をパチンと鳴らすと、弧乃衛が鮫裏を持ち上げ早籠に押し込み、落ちないように手足を縛って固定する。
「それでは冒険者ギルド『狼弧』名物。裏山異世界一周コンスゥー観光、行ってみよう!!」
四人の弧乃衛が乱雑に持ち上げギシギシと軋みをあげる早籠、浮いただけで崩壊が始まったようだ。
「こ、この、程度で罰をあたえたつもりですか、なんとも温い罰ですね」
鮫裏が最後の抵抗とばかりに雷丸にたして余裕の態度をとってみせた。それを受けた雷丸はだったら頑張ってもらいましょうと遠慮を一切切り捨てる。
「緋桜、最大速度でいいぞ」
「御意、横移動も付け足しておきます」
雷丸の送迎時には危険だからと封印された横移動を開放する。
「さすがだ御側役筆頭」
「お褒め頂き光栄です長」
とてもさわやかな笑顔で示し合わす二人。
「発進だ!!」
「お任せを」
進行方向を指さす雷丸、命を受けた緋桜の先導の元、出だしからトップスピードでぶっ飛ばす。
「緋桜さんも十分に雷丸の相棒を担っているように見えるのですが」
「隣の芝は青い」
「清さんは羨ましくないのですか」
「私も本格参戦、戦術は練った」
「あら、手加減はいたしませんよ」
早籠が発進してから程なく男の絶叫が裏山異世界に響き渡る。その絶叫をBGMにして新たなライバル関係が誕生していた。
「亜雪様にも、緋桜もの負けない」
清は小さな手を握りしめる。
「これにてモーターゴーレム討伐クエスト達成だぜ」
雷丸が高々と宣言する。亜雪の屋敷の護衛クエストがいつの間にか討伐クエストにすり替わっていた。
4章完結。ここまでで1~4章の起承転結を意識した話しは完結です。
次回は次につなぐ幕間。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。




