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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第四章『遁走して、幻想して、無双する』
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四十三の巻『決着』

   四十三の巻『決着』



 まさか命をかけたやり取りの最中まで設定を持ちだすとは。


「雷丸様らしいです」


 以前の緋桜ならば頭痛かめまいを起こしていそうだが、さすがに耐性が付いてきたのか、設定と聞いても、ああそうですかと流せるだけの精神構造が出来上がりつつあった。


『クソが! クソが! クソが!』


 追いつめられた牛ドクロが残った火器を狙いもつけずに乱射をはじめた。まさにフルバースト、忍たちでさえ近づくのが困難なほどの弾丸のハリネズミ状態であった。

 待っていれば弾切れを起こすであろうが、とっさに隠れた樹木も撃ち抜く貫通力。運悪く流れ弾に当たる可能性は捨てきれない。


「ブラックフェンリルも行け、速攻だ!」


 正面の月光熊が弾丸に押され近づけないところを一足飛びで飛び越え、弾幕の薄い頂上から牛ドクロのいる操縦席を踏み潰す。

 銃撃がやむと月光熊が強烈なフルスイングかまし、車一台分以上の重量があるモーターゴーレムが宙を舞いきりもみしながら落下して大破した。


「生きてますよね、あれ」


 モーターゴーレムの構造に詳しい亜雪が控えめに聞いてくる。ブラックフェンリルの踏み潰しで勝負はついていた。月光熊の強振は完全なるオーバーキルである。

 レベル99の召喚士の実力は最先端技術でも相手にならなかった。


「幻術だから大丈夫だろ」

「でもクラッシャーではなく、モーターゴーレムは現実の物ですよね」

「幻術だから大丈夫、な設定だ」


 元は車両のドアだったらしき場所が、はずれるように開き中から焦げた牛ドクロが転がり出る、指がピクピクと動いていることから生きているのはわかった。


「な、大丈夫だっただろ」

「結果的にはですが」


 緋桜が嘆息した途端に、放たれた砲撃。

 砲弾はブラックフェンリルと月光熊に命中、致命傷判定がくだり強制的にギルドカード送還されてしまった。


『これで、あなた達の切り札はなくなりましたね』


 砲撃したのはさきほどブラックフェンリルに吹き飛ばされた鮫裏のモーターゴーレムであった。


「やられたふりしてたな、この卑怯者め」

『勝つための戦術です』

「卑怯には卑怯的反則で対抗してやる。緋桜、お前のレベルを最大にするぞ」

「はい?」

「キヨナ、時間を稼げ」

「御意」


 エルフ姿の清たち弧乃衛がモーターゴーレムに挑む、ジョブが斥候士であるエルフに扮する弧乃衛ではレベルをMaxにしても決定打が欠けていた。

 だがそれでかまわない、最後の一撃を放つ役は決まっている。


「魔剣士チェリークリムゾン『上限値到達』承認」

『これは冒険を盛り上げるための神の御業、慢心せずに万進しなさい』


 ギルドカードから聞こえる亜雪の声、禁断のスキル『上限値到達』を使用した時のみに流れる音声。黄色の光る帯が緋桜の周り飛び回り能力値だけでなく服装までも変化させる。

 肩の出た桜色の着物に半透明な羽衣を纏い、天女を思わせる可憐で高貴なオーラが内側から湧き上がるように解き放たれた。


「こ、これは――」


 緋桜のギルドカードに表示されているレベルが99まで跳ね上がり、MPも雷貫通が連発できるほどの量まで膨れ上がった。


「亜雪デザインの隠し衣装だ、取って置きだぞ」

「とってもお似合いですよ」


 衣装のことではない、さんざん苦労して稼いだ経験値が操作一つでそれ以上のことをやられてしまった。

 チートは嫌い、以前雷丸が言っていたことが痛いほど理解できてしまった。たしかに努力している横でお気楽気分でレベルを上げられたら腹立たしい以外のなにものでもない。異世界の認識でこれが緋桜にとって初めての雷丸との共通認識となった。


『清さん、裏切ったのですか!?』

「貴様が先の砲弾を撃ち込んだ」


 全職業で一番の速さを持つ斥候士が三〇人もクラッシャービークルの周囲を飛び回る。残像さえ残す鋭敏な動きに、鮫裏には三〇人どころか百人以上に見えているかもしれない。


「清、もういいぞ」


 時間稼ぎももう大丈夫。

 緋桜の用意はすべて整った。

 雷光を纏った天女がクラッシャービークルの前に舞い降りる。


『熊や狼のあとは天女ですか、いったいこの山はなんなんですか!!』


 クラッシャービークルが腕の機関砲を発射してくるが、緋桜は避けることもせず、片手でおこした旋毛風ですべてを吹き飛ばす。

 機関砲が効かないならばと、ブラックフェンリルたちを倒したランチャーを発射するが、その砲弾も緋桜の指先から放たれた雷で打ち抜かれる。


「ここは我が主の夢の世界」


 緋桜を中心に風が巻き起こり衣が放電をはじめた。

 強大な魔法が使われる。それを食い止めようと鮫裏は内臓されていた全ての火器を緋桜目掛け乱射するが、風を纏って舞い上がった緋桜はひらひらと舞う桜の花びらのように銃弾を交わして空を駆ける。


「ジャイロサンダー」


 詠唱カットで魔法を発動、雷でできた青い槍を作りだしモーターゴーレムへと投げつけた。


「これで終わりだ」


 槍はど真ん中の中枢ユニットを貫き活動を停止させる。

 あれだけ苦戦したのが嘘のように決着は簡単についてしまった。今の緋桜なら例えモーターゴーレムが三体を同時に相手しても楽勝であっただろう。


「最初からこうしとけばよかった」

「今さらいっても、あとの祭りですね」


 ギルドマスターズがしみじみとこぼした。


 清は活動をとめたモーターゴーレムに飛びつき呆然としていた鮫裏を引きずりおろすと、懐から古ぼけた地図を奪い取る。


「か、返しなさい!?」

「これが山を狙った理由」


 清は地図を雷丸に手渡した。


「随分と古いな」


 広げてみればこの山と思しき特徴がいくつも書き込まれており、その中央、頂上付近に記された×印が強い主張をしている。


「こ、これは、まさか」

「埋蔵金の地図」

「やっぱりか、ものすごい冒険の臭いじゃないか」


 埋蔵金と聞いても中身の財宝よりのそれにより得られるであろう冒険の方に興味を示す雷丸。

 新たな冒険の予感に小躍りをはじめる主の横から埋蔵金の地図を覗いた緋桜があることに気がついた。


「あ、それは」

「知っているのか緋桜、もしかして忍に伝わる埋蔵金伝説でもあるのか!?」

「え、いえ、その地図を少し見せてもらえますか?」


 天女モードが解け、元の忍装束に戻った緋桜は地図を受け取り中身を見ることなく裏返して隅の部分を確認すると、ため息を吐きながら折りたたんだ。


「これ偽物です」

「ありえません!!」


 弧乃衛に押さえつけられている鮫裏が叫んだ。


「その地図に使われている墨は戦国時代の物だと科学的に鑑別されています。さらにこの近辺に埋蔵金を隠したという信憑性の高い文献がいくつも、私が長年の研究でこの山にあると突き止めたのです、偽物はわけがない!!」

「緋桜、偽物だって根拠は」

「ここにあります」

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