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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第四章『遁走して、幻想して、無双する』
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四十一の巻『レベリング』

   四十一の巻『レベリング』



「緋桜さん、大丈夫でしたか?」


 緋桜は幹を離れ亜雪が隠れている茂みに戻る。


「はい、体は問題ありませんが、忍術が使えませんでした」


 過酷な修練の末に体得した忍術、緋桜の誇りであり自信、雷丸の側にいるために掴み取った力であり緋桜の支えそのものであった。それが突如失われてしまった。


「風遁・鎌雀(かますずめ)

 雷貫通よりも難易度が低い風をおこそうとしたが、それもダメであった。

 吐き気がするほどの喪失感が胸に広がっていく。


「雷貫通でしたね、クラッシャービークルに使おうとしたのは」


 何かを思い出したようにギルドカードを取りだした亜雪は慣れた指捌きで画面をきりかえていく、機械操作の苦手な緋桜とっては亜雪の指の動きの方が魔法に見えた。


「やっぱり、睨んだ通りですね」


 納得した表情でギルドカード画面を緋桜に見せる。フォルダのタグに魔法と書かれたページにはカタカナで数多くの魔法が掲載されていた。


「雷遁・雷貫通。魔法名『ジャイロサンダー』として登録されています。習得レベル35」

「すみません、意味がわからないのですが」

「魔法として登録しれている忍術は、習得するまで使用ができない設定になっています。補足しますと緋桜さんの現在のレベルは12ですね」


 レベル不足だから使えなかった。

 この裏山異世界内だけの特別ルールなので、一歩でも外に出ればまた使えるようになる。だがクラッシャービークルや傭兵が警戒する中を忍術無しで抜けられるわけがない。


「雷丸様~」


 喪失感が広がることはなくなったが、その空いたスペースに主へ対する文句がマッハの速さで詰め込まれていく。口寄せを利用した死に戻りポイントも弧乃衛は把握している。待ち伏せされているのは間違いない。

 雷丸のこだわり設定によりピンチに立たされてしまった。


「大丈夫です緋桜さん。私に策があります」


 自信に満ち溢れた顔、緋桜はこの表情を知っている。雷丸とコンビを組んではじける時のはっちゃけお嬢様の表情だ。

 頼もしくもあり怖くもある緋桜であった。





「前方に三人のグループ。物陰を二人が捜索、一人が見張りに残りましたチャンスです」


 ギルドカードから聞こえてくる亜雪の合図で、木の上で待機していた緋桜が飛び降り見張りの首筋に一撃を当て意識を刈り取り、探索の二人に覚られる前に離脱。

 見張りが倒れていると気がついた二人が戻ってきた所を、亜雪が両者の足を銃撃、暴徒鎮圧用のゴム弾は致命傷は与えないが衝撃は強い、狙撃補佐スキル『サイレンス』のおかげで音漏れもない完璧なアサシン狙撃。

 痛みで蹲った傭兵たちを再度強襲した緋桜が反撃を許さず叩き伏せる。


「さすがは緋桜さん、今ので一気に5レベルもあがりました」

「そうですか」


 緋桜のギルドカードに表示されているレベルが更新されレベルが17となった。

 これが亜雪の思いついた秘策。雷丸のギルドマスター専用スキルよりは劣るが亜雪もサブギルドマスターとしてのスキルをいくつか持っていた、その中で『魔物調整(モンスターカスタム)』と『経験値四倍(EXPブースト4)』を使用したのだ。


『魔物調整』で傭兵を魔物と認定させ倒すと経験値が入るようにし『経験値四倍』で入ってくる経験値を四倍にする。

 傭兵一人から入ってくる経験値を最大にできれば楽だったのだが、雷丸のこだわりが色濃いので月光熊の五分の一ぐらいまでしか設定ができなかった。しかたがなく、クラッシュビークルの目を盗んでは散らばった傭兵相手にレべリングをしかけた。

 クラッシュビークル(ラスボス)との戦闘前に傭兵(ザコ)でレベル上げ、まさしくRPGのようであった。


「次のグループは――」


 またサブギルドマスター権限で魔物もマップに映るように切り替えたので相手の位置が完璧に把握でき、敵戦力はクラッシャービークルが三体に歩兵装備の傭兵が二十八人と確認、内三人は目の前で倒れている。

 このレベリングを雷貫通が使えるレベルになるまで繰り返すのが亜雪の立てた作戦。

 要領を得た緋桜は分散した敵を無音殺で経験値をガンガン稼いでいった。





『散らばったのは失敗でしたね、集合した方がよろしいでしょう』


 緋桜の各個撃破を察知した鮫裏は牛ドクロに集合の合図である照明弾をあげさせた。


『亜雪お嬢様たちはこちらの位置を明確に捕らえているようです』


 集合の照明弾で集まった傭兵は九人だけ、半分以上を緋桜はすでに経験値へと変えていた。


『どうするんだ、このままだと逃げられるぞ』


 金蔓に逃げられてしまうとわめく牛ドクロを余裕を崩さない鮫裏がたしなめる。


『大丈夫ですよ、お嬢様たちが反撃に転じたのは麓が封鎖され逃げ道がないと理解しているからです。あちらにしたら反撃しか手がないから反撃した、ただそれだけです』

『なら、まだ近くにいるんだな』

『案外近くの茂みでこちらの様子をうかがっているかもしれません』


 クラッシャービークル三体のサーチライトが大蛇のように周囲を這いまわる。

 緋桜と亜雪が潜んでいる茂みも照らされたが、緋桜の施した偽装で発見されることはなかった。


「各個撃破がバレました」

「レベルは34、あと一人でも倒せていたら到達でしたのに」


 集結した傭兵たちに隙がない。一人を倒せば必ず発見させるだろう。


『くっそ、こっちも無限に時間があるわけじゃないんだ、もう一度小僧がいた辺りに打ち込んでみるか』

『と、彼はおっしゃっていますか、どうですかお嬢様がた』


 牛ドクロがロケットランチャーの装備は砲身を麓へと向けさせる。

 緋桜たちの体がこわばった。そう簡単にあたらないと分かっていても、もしかしたらとマイナス方向への思考が働いてしまう。


「一か八かで仕掛けます」

「それしかありませんね、援護は任せてください」

「いえ亜雪様はこのまま」

「緋桜さんが見つかれば早かれ遅かれ発見されます」


 引く気はないと、いつでも狙撃ができるようにダブルバレットを構えようとして茂みの枝を揺らしてしまった。微かに揺れる音が漏れる。

 カサカサと、大きな音ではなかったが傭兵たちにもしっかりと聞き取られてしまった。


「十一時の茂み」


 十二時を前方正面とした時計の文字盤配置で指し示す。それは緋桜と亜雪が潜んでいる茂み。

 仕掛けるタイミングを逃してしまった。

 不意打ちなら一人か二人なら倒せるかもしれなかった。そうすればレベルがアップして雷貫通が使用できたのだが、今は完全に警戒をされている。


 次に物音を立てたが最後、間違えなく捕捉されてしまう。呼吸さえできない、体が冷え全身の体温が山の土に吸い取られていくようだった。

 緋桜たちが潜んでいる茂みまで傭兵たちがあと五歩ほどの距離、緋桜は覚悟を決めた、最接近された瞬間に一人を片付け、鮫裏の乗るクラッシュビークルを倒すと、成功の確率は極めて低い、だが指示をだしている人間を失えば組織は乱れる。


 乱れた混乱に紛れて逃走、運が良ければ亜雪は逃げられるかもしれない、しかしそれをするには緋桜はどのような幸運を並べても銃弾の雨を浴びることになる。


「雷丸様、最後のお力を……」


 長より授かったギルドカードを決して落とさぬようにと緋桜は大切に胸元に仕舞い込んだ。

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