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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第四章『遁走して、幻想して、無双する』
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四十の巻『柱』

   四十の巻『柱』



 狐賀のを代表として雷丸の護衛を任された弧乃衛忍軍隊長『狐賀山清』、緋桜と同じく至高の獣との対話に失敗し、一族の命運が尽きかけた時に雷丸に救いあげられた少女。

 対話を成功させた雷丸は一族に神通力をこれまで同様使用することを許可してくれた。しかし、一族の負債は忍術を取り戻しても意味はなかった。


 また隠れ里のある山が切り崩され、道路ができる計画が持ち上がった時、救済してくれたのが雷丸の両親であった。


『息子が長になったのなら親が責任を持つ』


 戸隠峰の豪邸に負けないほどの屋敷さえも売り払い全財産をつぎ込んで道路計画を強引に捻じ曲げてくれた。

 この一生かかっても返せない恩を、清も緋桜と同様に雷丸に仕え返していくつもりでいた。だが現実は甘くはなかった。冒険ギルドという画期的なアイデアも忍組織を維持していこうとすればギリギリの運営。


「これ以上、迷惑かけられない」


 このままでは雷丸に将来がない、清が下した決断は忍の終焉による伊古代家の復興。


 至高の獣『銀狐』。


 かつて恐怖しか感じなかった相手、言葉も交わすことができず震えることしかできなかった。成長した今でも格の違いは歴然、そもそも清の力の源は自分を見下ろしている至高の獣から分け与えられたモノだ。

 逆らっても力を失うだけ、勝つなど夢の中でも不可能。


 それでも――。


「受けた恩、必ず返す」


 心に一本の柱を打ち立てた。

 振りかざしたのは小さき刀、培ってきたすべてを掛けて至高の存在に挑みかかる。


 一振りの刃を心で支えると書いて『忍』。


 己が宿願を果たさんがために。

 だが挑んだ相手との力量の差は無慈悲であった。レベルが初期化されたのも少なからず影響されていただろうが、振るった刀は銀狐の前足の一凪で砕かれた。


「もうやめろ清」


 刀を砕かれた衝撃が肩まで響き、全身の骨を震わせ並行感覚を狂わされた。

 それでも倒れない、刃をくだかれようと心の柱はまだ砕けてはいないから。


「恩を返すまで、やめない」


 柄だけになった刀が落ちる、痺れて腕が一時的に握力を失っていた。

 それでもあきらめない、腕が動かないなら噛み付いてでも意地を通す。そんな清の気迫にあてられ雷丸は逆にあがったテンションがクールダウンしていた。

 ぽりぽりと頭をかきながら清に語りかける。


「恩ならもう十分返してもらってるんだけどな」


 シルバークイーンを下がらせ清の元へ歩み寄ると真っ直ぐに清の瞳を覗きこんだ。


「俺はこの歳になっても俺の夢に全力で付き合ってくれてる、お前らが好きだぜ」

「な、なんと……」


 まったく予想もしていなかった角度から強大なハンマーが振りおろされ、銀狐を前にしても折れることの無かった意思の柱に大きなヒビを刻み付けられた。


「山の幻術も弧乃衛(お前たち)なら解除できただろ、事務所にある水晶を破壊すればいいんだから、それをしなかったってことは俺の夢を理解してくれていたんだろ」

「御頭様……」

「サンキューな」

「でも、私は裏切った」

「仲間の裏切りは冒険譚なら一回はつきものだぜ、まあ、けっこうショックだったから今回限りにしてくれると嬉しい」

「御頭様」


 すべてを捨てる覚悟で打ち建てた裏切りの柱は、もはや自らの重みに絶えかねて自壊していった。


「さて、緋桜と亜雪を助けに行くか、手伝ってくれるだろ」

「完全完敗、御頭様の従う……御頭様!!」


 清が敗北を認め雷丸に従おうとした時、控えていたシルバーフォックスが空を仰いだ。

 夜空の闇よりさらにドス黒い鉄の塊が風を切り裂き飛来してきたのだ。着弾と同時に激しい炸裂音に巻き上がる土砂、吹き荒れる爆風は炎を飛散させ、あたりの草木を燃やし尽くす。





「なんてことを、あそこには雷丸様たちが」


 隠れている茂みで緋桜と亜雪は炎上する麓をながめていた。


「緋桜さん落ち着いて、あのくらいでどうにかなる雷丸ではないわ」


 雷丸と別れさらに山の奥へと逃げ込んだ二人は、クラッシャービークルの音で鮫裏たちの接近に気づき茂みの中へ身を隠していた。

 高性能追跡システムを要するクラッシャービークルだがこの裏山異世界では様々なモンスターが蠢いており捜索を盛大に妨害していた。それに業を煮やした牛ドクロが装備していたロケットランチャーを雷丸たちにいた辺りに向けロケット弾を撃ち込んだのだ。


『いまのを見ていただけましたか亜雪お嬢様、今回は外しましたが次はあの少年に当てますよ』

「卑怯な」

「ハッタリです。いかに最新式の照準装置でも、観測もなく適当に撃った砲弾が当たるわけありません」


 亜雪は工場で緋桜に破壊されたクラッシャービークルの性能調査がされたレポートを読んでいた。まさに最新の技術がところ狭しと詰め込まれている物であった。

 まさか亜雪自身が追い掛け回されるなど読んだ時点では想像もしていなかったが、その知識が木々の生茂った斜面で目標物も持たない小さな人間に当てられるわけがないと教えてくれている。


「分散するようですね」


 脅し文句を並べても反応が無いので、この付近にはいないと判断したようだ。


「これは好機かもしれません、一体ずつなら私一人でも破壊が可能です」


 最初に狙うのは雷丸を砲撃をした牛ドクロのロケットランチャーを装備した機体。周囲に散らばっていく傭兵たちをやり過ごし牛ドクロの後ろへと回り込む。


「亜雪様はここに隠れていてください、一撃で仕留めます」


 緋桜は物音を立てずに茂みから出て槍投げの構えを取る。以前に一度クラッシャービークルを破壊したことのある忍術、習得している中で最大級の威力を誇っている必殺の忍術『雷貫通』。

 神通力で作りだした雷を槍状に形成して相手を穿つ術。


「雷貫通!」


 雷丸を砲撃した相手だ遠慮など一切ない全力の忍術を放つ……はずであったのだが。


「どうして――」


 緋桜が思わず間の抜けた声を出してしまった。槍どころか静電気すら発生しなかったのだ。

 投げ終えた状態の姿勢で硬直してしまった。


『ん?』


 牛ドクロが物音を察知して機体を反転させる。


「緋桜さん、隠れて」


 亜雪の呼びかけで我を取りもどした緋桜は見つかる寸前で幹の影に飛び込む。


『気のせいか?』


 サーチライトが亜雪の隠れている茂みを、緋桜のいる幹を順に照らしていく。

 身動き一つできない、御側役筆頭である緋桜でも忍術が原因不明でつかえない状況、恐怖を感じずにはいられない。


『くっそ、いったい何なんだこの山は、センサーが掛けた資金分の働きをしねぇ、戸井原のヤロー欠陥品を掴ませやがったな』


 苛立ちを募らせながら牛ドクロは移動していった。

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