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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第四章『遁走して、幻想して、無双する』
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三十九の巻『清き覚悟』

   三十九の巻『清き覚悟』



「いくぜ、ギルマス専用スキル『上限値到達(カンスト)』」


 ギルドカード上に浮かび上がる『承認』の文字をタップする。


『これは冒険を盛り上げるための神の御業、慢心せずに万進しなさい』


 電子的ではあるが間違いなく亜雪の声でアナウンスが流れる。このスキルを使用した時に流れる音声であり、開発段階で録音されていた。

 レベル表示が99へと切り替わりステータスゲージもすべてが振りきりMaxに、雷丸の放つ存在感が膨れあがり武芸を極めた達人のごとく、ふれた者を切り裂くような気配を纏う。


 包囲していた弧乃衛忍軍が一斉に雷丸から距離を取った。修練で体に染み込んだ危険を察知する本能が勝手に安全な間合いまで下がらせたのだ。


「今の俺はギルドマスターであると同時にゲームマスターでもある。ここは俺の妄想が生んだ異世界、つまり俺の妄想が及ぶ限りはなんでもありだ!」

「目標、戦力評価を上昇修正」


 雷丸の気配を瞬時に分析した清が淡々と指示をだす。


「三人一組にて要撃」


 雷丸に左側、利き手とは逆の位置のいた忍たちが三人同時に襲いかかる。一人目が囮となり意識を誘導、二人目が足を狙って動きを封じ込め、最後の三人目が取り押さえるべく腕を締め上げる。

 いや締め上げようとした。


 武術の心得などない雷丸は囮に意識を取られ足払いをダイレクトに食らってしまったが、掴まれた腕を強引に振りほどき、掴み返すとテレビで見た柔道の技を何となくこんな感じだったかなで再現した。


「セイヤっと!」


 実に初心者っぽい力任せな背負い投げで忍を投げ飛ばす。


「どうだ」

「確かに、かなりの力」

「力だけじゃないぜ」


 雷丸は残像が残るほどの素早い動きで清の前に移動すると、反応されるよりも早く握られたままになっていた判子を奪い取った。


「速さも相当」

「だろ、これで力尽くはできなくなったぜ」


 判子を奪われた手を見る清、わずかにだが目を見開いている、奪われるまで気づけなかったようだ。


「確かに強くて早い。でも、基本は素人」

「へ?」

「やりようは、ある」


 今度は雷丸が清の姿を見失った。見失ったかと思えば両脚が鋭い何かに払い飛ばされ体が空中に浮かび上がる。回転する視界に清を中心に地面にコンパスで描いたような半円ができていた。

 男性一人を跳ねあげる。遠心力を利用した旋風脚といってもよい強烈な足払い、パワーもスピードも雷丸が上であったが、技術と経験は清の方がはるか高見。


 受け身のとれずに落下。

 そして人数も圧倒的に負けている。起き上がるよりも早く詰め寄る弧乃衛たちに押さえつけられた。


「申し訳ありません長」


 謝りながらも万力のごとく地面に押し付ける弧乃衛たち、手足の動きは完全に抑え込まれてしまった。なんとか動くのはギルドカードを握った手だけである。

 落とされたときカードを手放していなかったことが、雷丸に取っての幸運であった。反則技はまだ残っているのだ。


「反則技、第二弾だ」


 どこか躊躇いがあったのだろう、動けはしないが痛みを感じるほどの強い拘束ではなかった。ギルドカードの操作に必要な指は自由なまま。

 ギルドマスター専用スキル『上限値到達』の次に載っている二つ目の専用スキル。このスキルは雷丸自身にではなく周囲者たちに影響を及ぼす能力である。


「『能力初期化(フォーマット)』」


 ギルドで働いていた忍たちは全員、裏山異世界での冒険を経験していた。それはクエストの数合わせであったり調査であったり、休み時間に個人的での参加などさまざまであったが、それにより冒険者レベルもおのずと獲得していた。


 ギルドカードを持つ者たちが裏山異世界に踏み込めはその恩恵を自動的に受けることになる。それは裏切った弧乃衛忍軍も例外ではない、雷丸はギルドマスター専用をスキルでそれを初期の状態、つまりレベル1の状態に無理やり戻したのだ。


 拘束が弱くなった瞬間、雷丸は歯を食いしばり全力で起き上がる。掴まれた肩が外そうなほどの痛みを感じるが今を逃せばこの拘束から抜け出すチャンスはない。

 着ているローブが破れボロボロになったが脱出には成功した。


「ど、どうよ」


 息を切らせて疲労困憊ながらも強がって見せた。


「驚き、でも状況は変わってない」

「わかってるよ、そんなことは」


 レベル99の一般人VSレベル1の忍軍団三十人では忍軍団の方が強かった。時代劇のように主役一人が華麗な立ち回りで制圧することはできるわけがない。


「このリアルチートども」

「ズルしてない、訓練の成果」


 清が睨んできたので雷丸は思わず謝ってしまった。


「チートって言ってごめんなさい」


 雷丸の『上限値到達』などではなく、ずっと積み上げてきた力である。誇りをもった力である。清たち忍にとって生きてきた証そのものである。

 そして弧乃衛忍軍はそれをすべて捨てて雷丸に元の生活に戻るよう要求してきているのだ。


「許すから、サイン」

「もう一枚あったのかよ」


 先ほどの契約書と同じ内容の物を取りだし、じわじわと迫ってくる。


「降参、要求」

「まだ俺はあきらめてないぜ、反則技が利かなくたってまだ切り札が残ってるからな」


 ギルドカードを再び操作する。


「そもそも召喚士の俺が格闘戦をやること自体が間違っていた。だから召喚士らしくおまえらの弱点を呼び寄せてやる。俺は召喚士、レベルMaxの最強の召喚士様だぜ!」


 雷丸の周りを視認できるほどの高密度の魔力が渦巻く、魔力が高くなると体から溢れるのは当然雷丸が設定した事象である。


「行くぜ、掟破りで反則技で最強最終の切り札、白銀を纏いし至高の月よ、汝は月より使われし女神の化身なり、来いいでよ至高獣(しこうじゅう)シルバークイーン!!」


 魔力が集まりリトルフォックスが呼び出されると、月の光を吸収するよに体を巨大化させていき、その姿を狐賀忍軍に神通力を分け与えた至高の獣『銀の狐』へと変化した。

 月光を反射させる銀色の毛、獣でありながら理性が宿った金色の瞳が弧乃衛忍軍を映し出す。


 雷丸の対話により狐賀に神通力をもたらした至高の獣、幻術だろうと関係ない、この存在は狐賀の忍にとって神そのものである。

 平身低頭、額を地面にこすり付けひれ伏した。


 そんな中、ただ一人清だけが至高の獣を前にしても頭をたれることはなかった。


「清、こいつは精神だけをとばしてここにいるぞ」

「わかってる」


 体はかりそめの幻術でも中身は本物。そうなるように術を使ったのは他ならむ清本人なのだ。誰よりも理解している。

 この存在に逆らえば、神通力を失い狐賀は二度と忍術を使えなくなる。それは忍として死と同義であった。


「それで……」


 握られた契約書に皺ができる。

 しゃべるのが苦手な清が、胸の内に仕舞い込んだ本音を少ない言葉で絞り出す。


「それでも、私は、忍術無くしても、御頭様、元の生活に……」


 清の頬を涙が伝う。

 雷丸はこの時初めて清の涙を見た。


「忍術、命、すべてを捨ててでも……」


 清は頭を下げることなく、神に等しい存在に対して己の刃を差し向けた。

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