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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第四章『遁走して、幻想して、無双する』
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三十八の巻『却下の却下』

   三十八の巻『却下の却下』



 緋桜の懸念通り星明りしかない夜の山は足元さえも確認できない。

 冒険者になった時に補正でついた夜目とマップがなければ動きまわるのは不可能だった。


「緋桜さん、どこを目指しますか?」

「数で攻めることができない狭い地形に、月光熊を追跡した時に見つけた獣道の先がよろしいかと」


 巨木が多くクラッシャービークルの可動域がかなり制限されるだろう場所。


「あそこか」


 緋桜の意見を採用して進もうとしたのだが。


「止まってください」


 緋桜に静止された。


「どうしたんだ?」

「静かに」


 暗闇に覆われている茂みを睨みつける。


「囲まれたようです。申し訳ありません私たちの行動が読まれていました」


 裏山に逃げ込む雷丸の思いつき作戦を予測、それは鮫裏には無理な芸当である。雷丸にも自分たちを取り囲んでいるのが誰なのか見当がついた。

 清たち弧乃衛忍軍に先回りされた。

 緋桜が睨みつける茂みから清がゆっくりと立ち上がる。忍刀を逆手に構え完全なる戦闘態勢であった。


「なぜだ清、なぜ雷丸様を裏切った!」

「……――」


 答える気はないようだ。答える代わりに続々と弧乃衛忍軍が雷丸たちを囲むように姿を現す。


「なぜだ! なぜ大恩ある雷丸様を裏切る!!」


 一族は違えと、共に雷丸様の役に立つためのしのぎを削りあった者同士、緋桜は姉妹以上の絆を清に感じていた。一緒に同じ主に生涯の忠節を誓っていたはずなのに。


「うるさい」

「ここままだと忍の力を失うぞ」

「そんなの、関係ない……緋桜こそなぜ」


 清が動く。

 逆手に持った忍刀を緋桜に叩き付けた。金属同士が激しくぶつかる。緋桜は自身の刀で受け止め銀色に火花を散らす。


「緋桜こそなぜ、忍に関わって不幸になった御頭様を忍の世界に引きずり込もうとする!!」

「な、なんだと」


 清は小柄な体を回転させ上下左右様々な角度から連続して斬撃をくりだす。


「とぼけない、忍の負債を伊古代家に押し付け、忍に縛りつけている」


 普段ではめったに聞くことのできない、感情のこもった清の言葉。

 二人の忍娘の戦いは互角の勝負になっていた。刀の腕は緋桜の方が上、しかし清の気迫が実力差を埋めている。


「御頭様が忍の世界に興味がないこと一目瞭然」


 普段から異世界ファンタジーで冒険したいと公言している雷丸、和の塊である忍は相性が悪すぎる。


「忍の力なんて不要」


 清は紐の付いた筒、狼煙を取り出し空へと打ち上げ弾ける。赤色玉が尾のような煙を引き上空で弾け赤一色の花火を作り出した。それは亜雪を探し回っている鮫裏たちにここの位置を教える行為。


「貴様!!」


 サーチライトが頭上を横切る。

 清の上げた狼煙はしっかりと補足されたようだ。後方からクラッシャービークルが木々を薙ぎ倒す音が木霊してくる。


「雷丸様、亜雪様を連れて逃げてください」


 もはや我が身を犠牲に二人を逃がすことしか策はないと覚悟を決めた緋桜だったが、その覚悟を長はとんでもない発言をして却下した。


「いやここは俺が引き受ける」

「なっ、なにを言いだすのです!?」

「いいから亜雪を連れて逃げろ、清たちは俺が説得する」

「しかし!!」

「これは長命令だ!!」


 普段の余裕をもった表情だが、遊びの雰囲気は一切消えていた。長の命令ならばそれがどんな理不尽なものであっても遂行しなければならない。それがいつも緋桜が言い続けている忍の存在意義、その存在意義を初めて緋桜は苦々しく感じてしまった。


「早く行け」

「無茶はしないでください」

「頑張って」


 緋桜は心配を亜雪は声援を残し包囲の薄いところへ走り出す。


「逃がすな」

「狐乃衛は動くな!!」


 緋桜に命令したときと以上の強い口調での命令に、清の指示はかき消され狐乃衛忍軍は動きを止め緋桜たちを素通りさせてしまった。

 清が悔しそうに唇を噛み締める。


「俺の命令をまだ聞いてくれるんだな」

「説得、無駄」


 狐乃衛は緋桜たちを追うことはなく包囲を狭め一人になった雷丸だけを完全に閉じ込める。


「やってみないとわからないだろ、俺は至高の獣すら説得した伊古代雷丸だぞ」


 握りこぶしを作ってから親指を立て自分の心臓を指し示す。

 数々の忍たちが挑んでは失敗に終わった至高の獣との対話、唯一成功させたからこそ忍たちは雷丸を長として仰いだ。


「それでも無駄」


 大質量のエンジン音を伴い雷丸たちをクラッシャービークルのヘッドライトが照らし出す。


『お力をお貸ししましょうか?』


 外部スピーカーから鮫裏の粘りつくような声が響く。


「無用、戸隠峰亜雪は向こう」


 緋桜と亜雪の逃げた方角を差す。


『情報ありがとうございます。時代遅れでも優秀な忍者はいるのですね』


 雷丸など眼中に無く、鮫裏は傭兵を率いて亜雪を追いかけていった。障害になる木々を雑草を払いのけるように簡単に払いのけまっすぐに進んでいく。

 人の足より数倍早そうだ、ここままでは朝まで時間を稼ぐのは難しい。


「緋桜たちが心配?」

「当然だろ」

「でも今は自分の心配が先」

「お前の望みはなんだよ」


 説得するための材料と突破口を探す。反射的に雷丸の命令を聞くことからも恨みなどから裏切ったわけではないさそうだ。その辺りが突破口になる。雷丸はそう考えたのだ。


「元の状態に戻すこと」

「元の状態?」

「本来、御頭様は戸隠峰亜雪と同じ世界の存在、忍と関わったから転落した」

「転落って、亜雪の立場も見る角度によってはめんどくさいぜ、鮫裏みたいな奴にも狙われるし、だいたいアイツが何を契約したか知らないけど、守るかどうか――」

「守らせる」


 かぶせるように言い切った。


「この山を狙ってるんだよな、木々の破壊を気にしないことから考えて、仮にお宝の類があったとしても独り占めの可能性だって」

「奪い取る」


「モーターゴーレムが守りについて奪えなかったり」

「破壊する」


「お宝持って逃げ出したりしたら」

「追いかける」


 地の果てだろうが、地獄の底だろうが本当に追いかけていきそうな気迫だ。


「御頭様、安心して元の裕福な生活に戻る」

「清」

「説得、無理」


 とりつく島もなかった。


「だからな、俺の話を……」

「無理、無駄」


 清は一枚の契約書を取りだし、雷丸へと突き出した。


「これにサインと判子、ギルドカードシステムの売約の書類」

「山とギルドカードは関係ないだろ」

「山が無くなれば不要な物、売ってお家再建資金」

「判子なんて持っているわけないだろ」

「問題無い」


 契約書の次は判子が取りだされた。ギルドの事務所に厳重に保管されていたはずだが、警備していた清が持ち出してしまえば固い金庫も意味をなさない。ましてや手先の器用な作業は清の得意分野である。鍵が無くとも開錠などわけなかっただろう。


「清が自分で押してないんだな」

「御頭様の判子はかってに使えない」


 裏切りはしても道理は通す。勝手に持ち出すことはできても、勝手に使うことはできないらしい。清なりの越えられない一線があるようだ。


「清って実はすごい不器用だろ」

「訂正要求、金庫二分で開錠」


 不器用の意味をはき違えたようだ。緋桜と正反対の性格をしているが、根っこでは似た者同士だと理解した雷丸。


「なるほどね、だったら緋桜と同じ対応でいいんだな」


 忍たちの間では堅物で通っている緋桜も、雷丸相手では形無しである。

 緋桜をいじるのは大得意、同じ要領でやれば探していた突破口が見えてくるかもしれない。


「お前をぜったい説得するぜ」

「無理、無駄、却下」

「却下の却下」


 ギルドカードを取りだすと人差し指と中指で挟み、カードの薄さを利用してカッターナイフのように契約書を切り裂いた。


「無理やりにでもサイン貰う」


 契約書はすぐに変わりが用意できる。口では無理だと理解した清は雷丸に強制的に書かせる選択を選んだようだ。弧乃衛忍軍が雷丸を取り押さえるために動き出す。

 一対一でも勝ち目がないのに集団で来られてはひとたまりもない、はずであった本来ならば、しかしここは雷丸が作りだした異世界である。

 この場所でなら対抗手段を生みだすことができる。


「この方法だけは取りたくなかったが仕方がない」


 ギルドカードの画面をスライドさせギルドマスター専用にページを呼び出す。

 イベントを盛り上げるために搭載されたシステムだが、最初の起動がまさかの実戦だとは盛り込んだ雷丸も思いもしなかった。


「掟破りの反則技だ!」

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