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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第四章『遁走して、幻想して、無双する』
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三十六の巻『走り出す脅威』

   三十六の巻『走り出す脅威』



「ここが出口だ」


 十年近く前に掘られた抜け穴を通り無事追っ手を振り切った雷丸たち。

 偽装された蓋を押し開け緋桜が周囲を警戒しながら先に出る。問題無いことを確認してから雷丸たちも穴から這い出した。


「車で脱出するのですか」


 二十台は余裕でおさまる戸隠峰屋敷の駐車場。高級リムジンから使用人の乗用車までさまざまな車種が停められていた。

 緋桜の進言通り駐車場にきたが、これからどうするのか車で逃げるにしても全員が無免許である。


「車の免許なんて持ってないぞ」

「例え運転できてもキーは屋敷の中ですよ」

「ご心配にはおよびません、こんなこともあろうかと取って置きを用意しています」


 緋桜が先ほどの亜雪のポーズのマネをした。


「やりますね緋桜さん」


 マネをされた亜雪がライバルを称えるように褒めた。


「こちらに用意してあります」

「俺はなんとなく嫌な予感がしてきたぞ」


 リムジンの影に有るという取って置き、雷丸がおそるおそる覗くと、そこには丸太と荒縄で組まれた籠が鎮座していた。


「……やっぱりコンスゥーかよ」

「コンスゥー?」


 三人の中で唯一この籠の正体をしらいない亜雪が首をかしげる。恐れ知らずの雷丸が引きつった表情で後ずさる。過去の恐怖体験が蘇ったのだろう。

 この籠こそ雷丸がもっとも恐れる乗り物。


「コンスゥーではありません、長専用早籠です」


 いつのまにか雷丸専用になっていた。


「長権限で却下だ、もっとちゃんとした乗り物を用意してくれ」

「狼弧の経済事情を考慮して、御側役筆頭の立場から却下を見送ります」

「お、おお?」


 問答無用で長の意見が取り下げられた。普段は従順な緋桜も経理が絡むと例え雷丸相手でも異議申し立てをするし引き下がらない。


「さっき恥ずかしい口上台詞を読ませたこと根に持ってるな」

「恥ずかしいとわかっていたのですか」


 緋桜が極上の笑みで聞き返す。


「あ、いや、そんなことはないぞ、とってもかっこいい台詞だった、効果あっただろ」

「そうですか。安心してください、籠は私が風を使って速度を上げて差し上げます」


 速度があがれば逃げ切れる可能性があがるが、同時に体感するであろう恐怖度も跳ね上がる。


「やっぱり根に持ってるな!! それに早籠は緋桜一人だと担げないだろ、亜雪を乗せて俺と緋桜で担ぐぐらいなら走った方が早い」

「大丈夫、ちゃんと雷丸様にも籠に乗ってもらいます。先に雷丸様が乗って亜雪様は膝の上に座らせてください」


 押し込まれる形で籠に乗る雷丸、その膝の上に亜雪が収まった。


「ちゃんと亜雪様を押さえていてください」

「あの緋桜さん、これは乗り物なのですか?」

「当然です。我がギルドが誇る最速の乗り物です」


 ここにきて亜雪も雷丸が何に恐れているのかが分かってきた。


「お前一人じゃ籠持てないだろ」

「こんなこともあろうかた第二弾です」


 緋桜が籠に結ばれている丸太の端に指をかざす。そこには五芒星が描かれており、神通力を流すと丸太の前と後ろ両端が伸びひょろりとした人型に変化して籠を担ぎ上げた。


「神通力で動くカラクリ人形です。直進しかできませんが初めに方向指定さえ間違えなければ問題ありません」

「大有りだろ、どうやって障害物を越えるんだ」


 いつもなら忍術でおきた現象にファンタジー風なネーミングを勝手につける雷丸だが、早籠に乗っている時だけは違うようだ。


「障害物があるときは私が風を使って高さを変えます」


 あくまでも真っ直ぐにしか進まない、古いゲームによく見られた横スクロールと同じ、ジャンプなど縦の動きだけで障害を交わしていくつもりのようだ。


「大丈夫、停電のおかげで星がよく見えます。方角を間違えることはありません」


 船乗りなどが使うコンパスがなくとも星の位置で方角を知る方法。


「そ、そんなことを心配してるんじゃない」

「雷丸にしては男らしくありませんね、私を抱きかかえるのはそんなにも嫌ですか?」

「いや、そこは嫌なわけないだろ」

「そうですか、よかったです」


 早籠に恐怖が先行していて、狭いスペースで亜雪を抱きかかえていたことは意識していなかったが。いざ意識してしまうと、とても恥ずかしいかっこうをしていることに気がついた。亜雪は雷丸の返答に嬉しそうに腕を雷丸の首に回してより密着する。


「しっかりと乗れたようなので出発します」


 どこか冷たさを感じさせる拗ねた口調でカラクリ人形に指示をだす。


「まだ、心の準備が」

「食いしばってください、舌を噛みます」


 木製の細足とは思えない強靭な脚力で早籠はぐんぐん速度を上げていく。広い庭を数分で横切り屋敷を囲う塀が急速に近づいてくる。

 早籠と並走していた緋桜が体一つ分先行すると、風を操り二階から飛び降りた時を同じように風の滑り台を塀の前に作りだした。


「登ります」


 早籠の支柱でる丸太が軋みをあげ木屑を撒きながら急上昇して塀を飛び越えた。

 冒険命で好奇心の塊である雷丸も、お淑やかで優雅なお嬢様である亜雪も、腹の底から空気を吐きだし悲鳴という形で今感じている恐怖を全力で表現した。





 門を固めていた傭兵たちは高速で塀を飛び越えていく早籠に対処できなかった。あまりの常識外の出来事に脳がフリーズしてしまったのだ。


「舐めてんじゃね~!」


 思考をいち早く回復させた牛ドクロがクラッシャービークルを装甲車へと変形させ、後を追いかけていく。


「清さん、あなたも追いかけて亜雪お嬢様を捕まえてください、そういう契約ですよ」


 最後方からゆったりと現れた鮫裏がねっとりとした喋り方で清に指図する。


「約束、違えたら滅する」

「私は契約の上での取引は破ったことはありません」


 睨みつける清の視線を受け流し、鮫裏が古ぼけた一枚の地図を取りだす。


「清さん忍であるあなたなら、これが戦国時代に書かれたものだと分かるでしょ」


 戦で負けた武将が反攻の願い込めて埋めた軍資金。現代では埋蔵金といわれている。

 埋蔵金を隠したのは戦国時代の忍、清の狐賀とは流派が違ったが、使われている忍文字は解読することはできた。記載されている事が事実なら金の価値だけでなく歴史的価値も付随して数億などはした金に感じてしまうだろう。


「この埋蔵金さえ手に入れば、あなたとの約束は簡単に果たせますよ」


 鮫裏が清の肩に手を伸ばすが、触れることなく動きを止める。伸ばした手のひらの先にはクナイが突き付けられていた。


「気安い、忍にさわると怪我する」

「それは怖いですね」


 鮫裏は伸ばした手をひらひらと振りながら遠ざける。

 無線に牛ドクロから雷丸たちを見失ったと連絡が入った。


「おそらくは、あの潰れた旅館に逃げ込んだのでしょう。ですよね」

「そこ以外無い、対策済み」

「頼もしい、約束が果たされた暁には正式に私のパートナーとなりま――」

「却下、無理、完全お断り」


 言い切る前の絶対拒否。


「つれないですね」


 鮫裏は苦笑いを浮かべながら自身もクラッシャービークルに乗り込んだ。


「清さんも追いかけてくださいよ、それとも一緒に乗っていきますか?」

「ギルドには自力で戻る」


 利害が一致しているからこそ、鮫裏についた清たち弧乃衛忍軍。

 胸に抱くのはただ一つの望みのみ。

 鮫裏たちの車が見えなくなってから、清は早籠が消えていった方角を見て、呟くように一言もらす。


「二人乗りで、ギルドまでもつ?」


 清たち弧乃衛忍軍も静かになった戸隠峰屋敷から陰に溶けるように消えていった。

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