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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第三章『戸隠峰の洋館忍者屋敷』
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三十三の巻『兼業忍者チェリー推参!!』

   三十三の巻『兼業忍者チェリー推参!!』



 狐乃衛忍軍の裏切り、追っ手から雷丸を守るために緋桜は雷丸を担いで逃走。

 十分な距離を稼ぎ追っ手の気配がない事を確認してから雷丸はやっと降ろされた。同い年の異性に担がれて逃げるのはプライド的に認めたくないものがあったが、担がれいなかったら、恐らく逃げきれていなかったであろう。


「申し訳ありませんでした、長を荷物のように担ぐなど」

「途中で理由を気がついたから問題ない、コンスゥーに比べたらぜんぜん怖くなかったしな。それより、屋内でサンダー系の魔法は使わないんじゃなかったのか」

「あ、あれには非常事態でしたからしかたなく!」

「あんまり騒ぐと気づかれるぞ」


 ハっとなって口を押えてから小さくボソッと呟く。


「魔法ではなく忍術です」

「……緋桜はいつも通りだな」

「なんですかその言い方は」

「いや、いきなり弧乃衛に攻撃されたからな」


 弧乃衛忍軍の裏切りは自分が思っていた以上に雷丸にはかなり堪えていた。


「ショックだぜ、俺って人望なかったんだな~」

「そんなことはありません!! 私はどんなことがあろうとも雷丸様の――」


 男一人担いでも物音一つ立てずに逃げ切った緋桜が、足をつまずかせながら雷丸に詰め寄った。


「また声がでかくなってるぞ」


 雷丸が指を緋桜の口に当てる。雷丸が絡むと冷静さを失う本当にいつもの緋桜であった。


「ありがとな」

「と、とにかく、私が清を捕まえて状況を確認してまいります」

「やっぱり清なのか?」


 信じたくないという想いからの確認だが、雷丸自身も薄々は感づいている。


「弧乃衛の動きは統制がとれていました。彼女が指揮しているとしか思えません」


 忍専用の連絡方法で作戦開始との合図もあった。


「だったら俺がこのまま隠れているわけにもいかないな」

「どうするおつもりですか?」

「亜雪の様子を見に行く」

「自らいあkれるのですか」

「当然だろ」

「雷丸様、今回は戸井原たちのような余裕の持てる行動ではありません、最悪、清率いる弧乃衛忍軍が完全に敵対している可能性があります」

「だからこそだ亜雪が危ない。もしもの時は亜雪を見つけて屋敷を脱出するぞ」


 警備員と合流できれば問題ないかもしれないが、緋桜一人では雷丸と亜雪の二人を守りきるのはほぼ不可能だ。それでも行くと決めた雷丸。こうなった長が意見を曲げないことを承知している御側役筆頭は渋々だが雷丸の同行を認めた。


「私の指示には従ってください、絶対ですよ」

「わかった、約束するぜ」


 二人は亜雪がいると思われる警備室へと向かう。


 警備室は二階の奥、隠れていた部屋より静かにかつ迅速に移動した。

 幸いにも弧乃衛忍軍に遭遇することなく目的地にたどり着いた。だが警備室に詰めていた警備員は全員弧乃衛の吹き矢で気絶させられており、その中に亜雪の姿は見当たらなかった。


「クソッ! 狙いは保管庫か、亜雪を人質に開けるつもりかよ」

「いえ違います。狙いが保管庫なら清たちには中身を盗む機会はいくらでもありまいた。別の目的があるとしか」


 一週間、完成前の保管庫の側にいたのだ中身を収める前に奪ったほうが簡単のはず。


「とにかく亜雪様を探さないと」

「場所はわかるか?」


 広い屋敷、警備室以外にいそうな場所は見当もつかない。


「忍の誰かを捕まえて聞きだすか」

「喋ることはないでしょう、捕らえることさえ至難かと」


 捕らえるのは倒すよりも難しい、それに清たちは緋桜の実力を知っている。けっして緋桜に対して三人以下で姿を見せることはないだろう。






 暗闇の廊下をお嬢様は慣れ浸しんだ自分の屋敷で拘束されながら歩いていた。周囲は狐乃衛忍軍の囲まれており逃げ出す隙はない。


「ギルドカードが狙いではなかったのですね」


 警備室で戸井原の行動を監視していた亜雪は突如、清率いる近衛忍軍により拘束された。そして地下牢に閉じ込めていたはずの鮫裏が姿を現し、亜雪は自身の部屋へと連行される。


 亜雪の部屋も停電の影響で明かりは点かず、弧乃衛たちが灯したロウソクの揺らぐ明かりで照らされる。


「あのようなオモチャなどモノのついでです。戸井原たちを乗せるのにちょうどよい餌だったので使わせていただきました」


 数億円の代物をオモチャと言い切る。


「鮫裏、あなたは戸井原が送り込んだスパイではなかったのですね」

「はい、私があの傭兵集団を迎え入れたのです。まったく戸井原の言動から私が疑われるなど思いもしなかったですよ。彼女たちを引きこんでおいて正解でした」


 鮫裏の後ろに控える清たち弧乃衛忍軍。雷丸の側に控えていた時の家族のような暖かさはなく、まさに忍といった冷たさと鋭さを全身に服のよいに着込んでいた。


「驚きました清さん、雷丸になにか不満でもあったのですか?」

「…………」


 反応がまったくない、亜雪の問いに眉一つすら動かすことはなかった。


「利害の一致でしてねお嬢様。ある対価を払う変わりに一時的に弧乃衛の皆さんと契約を結ばせていただきました」


 あくまでも丁寧な説明とは裏腹に、鮫裏の顔は悪人面になっていく。


「さてお嬢様、あなたには一つお願いがあります」

「お願い、ですか?」

「ええ、冒険ゴッコをして遊んでいる山を譲ってほしいのです。お嬢様名義の土地ですよね」


 冒険ゴッコの山とは雷丸が異世界に作り替えたあの山しかない。亜雪が所有するいくつもの山の中で価値はそれほど高くない場所だ。どうしてあの山をこんな手の込んだことまでして鮫裏は欲しがるのだろうか。


「どうしてあの山を、あの場所はたいして価値のないはずですが」

「山自体には興味はありません、理由は説明する必要を感じませんね。ただ、あなたの許嫁もこちらの手の内なのですよ。素直に譲っていただけますよね」


 警備室では雷丸が弧乃衛に襲われている所まで見せられた。でも、緋桜だけが雷丸を守るために動いていたことも同時に確認している。


「お断りします」


 緋桜なら絶対に雷丸を守り抜いている。確かなる信頼が亜雪の中にはあった。


「聡明なお嬢様とは思えない返答ですね」


 じわじわと亜雪にせまり寄る鮫裏、亜雪は壁際まで追い詰められたとき、ラックにぶつかった手が写真立てにふれる。それは緋桜に見せた幼いころの雷丸と亜雪が笑顔で写っている写真であった。

 亜雪はその写真を見て小さくうなずく。まるで幼い雷丸に勇気をもらうように。


「あの山は雷丸の小さいころからの夢の結晶、誰かに譲るなど考えられません」

「強情ですね。自分も仰ったではありませんか、たいした価値はないと」

「それはあくまでも一般的視点からの価値です。雷丸にとってお金に変えられない夢の結晶なら、相棒である私にとっても大切なモノ、絶対に譲りません」

「いいえ譲ってもらいますよ」


 控えていた清が静かに亜雪に近づいてくる。手には一枚の契約書。それは山の権利を鮫裏に譲渡する内容のものであった。


「それにサインをお願いします。細かい手続きはこちらでおこないますから心配無用です」

「失礼」


 清は亜雪の背後に回りこみ、ペンを無理やりに握らせた。小柄な清は決して力強くはないがうまい、忍術ではなく純粋な知識と技術、どこを押さえれば抵抗できないか人体を知り尽くし、亜雪の体を糸がついた操り人形のように支配する。


「清さん、あなたは――」

「説得、無駄」


 亜雪の意思に逆らいペンを握った手が契約書に近づいていく、ここにサインをすれば雷丸の夢は崩れ去ってしまう。清も十分に理解しているはずだ。あの山に幻術をかけたのはほかならぬ清たち狐乃衛忍軍なのだから。

 ペン先が契約書に触れたとき、いつも表情を崩さない清が微かに唇を噛み締めたことに亜雪は気がついた。


「本当に雷丸のことが好きなのですね」


 戸隠峰とよどみなくつづり、あとは亜雪と書くだけでの所で文字がぶれた。


「な、にを」


 鉄の仮面をかぶっていた清の表情にはっきりと現れる変化。


「やはり、そうでしたか」


 すべてを理解していますといった優しい笑顔を浮かべる亜雪、その表情が清の心奥に秘めた想いに響くものがあったのだろう、今度ははっきりと怒りと読み取れる表情になった。


「あなたに何がわかる!」

「だって、私は雷丸の相棒ですから」


 理由になっていない。


 なっていないのに、清の動きを止めるほどの効力をもっていた。


「それに緋桜さんが雷丸を守りきるはずです」


 揺るぎのない信頼、亜雪にとって雷丸が相棒であるように、緋桜は亜雪にとっての盟友のような存在になっていた。

 亜雪はただ盟友の誇りを信じたのだ。


「そこまでだ!!」


 図ったようなタイミングで部屋に煙玉が投げこまれ、亜雪の盟友の声が響き渡る。


「月夜の闇こそ我が領域、現代だろうが異世界だろうが依頼があらばどこえでも、聞け狼弧の咆哮を、我は雷風となりて、いかなる障害も打ち砕く者なり」

「何者ですか!?」


 鮫裏だけがこの声に聴き覚えがなかった。

 たちこめる煙のなか雷の後光を纏った一人の忍が浮かびあがる。


「狗賀忍軍長御側役筆頭、兼、異世界魔剣士、兼、ギルド受付嬢主任、兼、ギルド専属傭兵、兼、魔法剣士チェリークリムゾンこと狗賀野緋桜推参!!」


 忍とは光の当たらない闇に忍んでこそ忍。


 普段からそう言い続け有言実行をしてきた緋桜が、光の中で本人が否定し続けていた役職や不名誉なあだ名を口上にして登場するなど、普段の彼女を知っている者たちにはそれこそ雷に撃ち抜くような衝撃を与えた。

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