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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第三章『戸隠峰の洋館忍者屋敷』
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三十二の巻『忍び寄る影』

   三十二の巻『忍び寄る影』



 保管庫が完成した当日の深夜二時過ぎ、戸隠峰屋敷の警戒網のギリギリ外側に三台の軍事用装甲車が停まっていた。そのまわりをテロリストのような黒い覆面で顔を隠しダークブルーの戦闘服に身を包んでいる集団がいた。


「西側二階の角部屋の明かりが二回点灯。工作成功です」


 双眼鏡で監視していた男が車の中で眠っていた男に報告をする。


「じゃあ、行こうか」


 寝ていたリクライニングが起き上がり戸井原が姿を現した。ダークブルーの者たちが装甲車から特殊部隊が使っていそうなごついアサルトライフルを取りだし装備していく。

 地面には大穴も掘られており、穴の中でも動き回る男たちがいた。


「やれ」


 穴の中には太い送電線が埋められており無理やり取り付けた形跡のある装置のスイッチを入れると、屋敷全ての明かりが一斉に消えた。

 星の明かり以外すべてが闇に包まれる。視界が塞がれ敏感になった聴覚がうるさく虫の鳴き音を運んで着る。それをBGMに聞きながら戸井原は暗視サイトを装着する。未だに屋敷に光が戻る気配なし、本来ならば外部の電源がシャットダウンしても内部電源に数十秒で遅くとも数分で切り替わるはずだが。


「うまく内部電源を壊せたらしい、鮫裏の奴にはボーナスをだしてやらんとな」


 戸井原が指を銃の形にして塀にむけると、戦闘服の男たちが塀に何かを仕掛けた。警備システムが正常ならこの段階で察知されているだろうが、全ての電源を落とされては察知は不可能になる。


「ボ~ン」


 戸井原特性消音爆弾、鈍い爆発音の後に塀が崩れ落ちた。


「みみっちい音だな、まあお忍び行動だからしょうがない、時代遅れの忍者どもに現代科学の恐ろしさを教えてやるか、授業料は当然いただくがな」


 大股でガレキをまたぎ敷地内へ侵入する戸井原に続き、近代兵器で武装した男たちが侵入を開始した。前回の侵入者が撃退された電流の流れる庭を素通りし難なく屋敷まで到着する。

 窓の中で懐中電灯をもった使用人たちがさぐりながら慎重に動いているのが見えるが、戸井原たちの存在に気がついた者はいなかった。


 事前に用意していたマスターキーのコピーキーで堂々と正面から屋敷へ入る。

 見張りを半数残し中に入ったのは戸井原を含め七人、七つの暗視サイトが真っ暗闇の邸内をはっきりと映し出す。

 小さな明かりを頼りに動く使用人をやり過ごし地下にある保管庫へ、隠されていた階段を下りると一本の長い廊下、目的の場所はその先にある。


「職務怠慢だぜ、お兄さんがた」


 保管庫を守るために配置されていた警備員たちが全員深い眠りに入っていた。武装した男たちがぞろぞろと地下に降りてきたというのに一切の反応を見せない。


「こうまで計画通りだと、物足りなさがアリアリだな」


 内部電源同様、事前に送り込まれていた工作員によって警備員の夜食に睡眠薬を混入させていた。ガレキと同じように廊下で眠り込んでいる警備員をまたぎ進む。


「居眠りしてる忍者が、天井から落っこちてこないか気をつけないとな」


 強盗の最中なのに、ゆるみ切った戸井原は笑い声をあげながらお宝の元へと向かっていた。






 最後尾の侵入者が眠っている警備員をまたいだ時、眠っていたはずの警備員の腕がゆっくりと動き出し、細い筒を口にくわえさせ『フッ』と一息、筒から発射され針が最後尾の男の首筋に刺さる。


 刺された男は全身の力が抜け崩れ落ちてくるのを受け止め、警備員は素早く暗視サイトを外すと今まで寝ていた位置に男を寝かせ自分は暗視サイトをかぶり入れ替わる形で最後尾につく、倒れていた警備員は全部で四人、侵入者たちが警備員の側を通過するたびに後ろから仕留められ入れ替わっていく。


 保管庫まであと少し、一つの角を曲がれば到着する。


 曲がり角に差し掛かり、後ろの四人が先行する三人より気持ち半歩ほどの距離をあけると、天井から細い糸の輪が垂れさがってきて戸井原の後ろにいた二人の侵入者の首に巻きつく、後方組が半身で追い抜き戸井原の視界に首を絞められた男たちが入らないよう壁を作り、意識を刈り取った侵入者たちを廊下に寝かし天井から降りてきた二人が最後尾に合流する。


 こうして気づかれることなく戸井原以外の全員が入れ替わった。

 警備員の寝静まったことになっている重厚な保管庫の扉の前にたどり着くと、何も知らない戸井原が扉をあけろと指示をだすが誰も動くことはなかった。


「おい、さっさとしないか、開閉方法は鮫裏から聞いてるだろ!」


 反応の鈍い部下たちに怒気のはらんだ声で指示をだす。


「了解だぜ、おっさん」


 部下とは思えない遠慮のないタメ口。

 保管庫の扉ではなく、壁の非常用と書かれたスイッチを入れる。重低音のきいた警報がなり天井から鉄格子がおりてくる。


「チィ!」


 舌打ちをすると戸井原は前回り受け身で鉄格子に閉じ込められるのをギリギリで回避してのけた。


「おおすげ~さすが現役傭兵、悪人じゃなかったらスカウトしてるところだぜ」

「誰だテメェ」

「待ってたぜ、その言葉」


 口元を吊り上げニヤリと笑うと目を隠していた暗視サイトを舞台役者の一世一代の見せ場のような取り方で素顔を現す。


「冒険者ギルド『狼弧』のギルドマスター伊古代雷丸だ、一週間ぶりだなおっさん」


 雷丸の名乗りと共に幻術がとけ侵入者に成り代わっていた者たちの服装が戦闘服から忍装束へ変わった。暗視サイトだけは本物なのでそのまま残っている。

 いくら忍とはいえ銃器に真正面から挑むのは分が悪いので緋桜の発案指揮の元、侵入者を後ろから一人ずつ確実に倒していった。

 こちらの被害はゼロ、ここまでは完全に緋桜の作戦通りである。


「お前はもう包囲されている大人しく観念しな」

「雷丸様、大人しくしていてくださいとあれほど……」


 いろいろなモノが混じっている雷丸の言い回しに、隣に控えている長い黒髪の女性が暗視サイトの上から目頭を押さえた。


「この時代遅れどもが!!」


 アサルトライフルを雷丸に向けて放とうとするが、目頭を押さえていた女性が消えた。いや消えたように戸井原には見えただけだ。


「この距離ならあなたが引き鉄をひくより、私の踏込の方が早いです」


 歩数にして大股三歩分の間合いを一瞬でつめた緋桜が暗視サイトをはずし小刀を振り抜いた状態で静止していた。


「ふざけやがって」


 目標を雷丸から緋桜へ銃身を向けようとしたがアサルトライフルに亀裂が入りバラバラに崩れ落ちた。


「忍法『火縄銃三枚おろし』」

「火縄なんてどこにも付いてないだろうが!」


 忍法とは忍術と違い、神通力を使わず、長年の修練で会得した技や編み出した兵法の総称である。『火縄銃三枚おろし』この技が編み出された戦国時代には火縄銃が主流だった。

 グリップだけになったライフルを捨て、戸井原は後ろへ飛んだ、できる限り緋桜から距離をとり廊下の壁に背中をぶつけながら無線機にむかって怒鳴りつける。


「ありたっけの銃器をもってすぐに突入しろ、隠蔽などクソ食らえだ派手にやれ!!」


 屋敷の外に残してきた戦力の投入を命令、しかし無線機から聞こえるのはノイズばかりでなんの反応も返ってこなかった。


「あなたがのんびりと侵入していたので、先に外の戦力を殲滅させてもらった」


 今頃、弧乃衛忍軍が傭兵たちを縛り上げているだろう。


「残るはおっさん一人だけだぜ」


 歯を砕かんばかりに噛みしめた戸井原、無線機を緋桜に投げつけサブのハンドガンを抜こうとしたが、飛んでくる無線機を小刀で打ち返し倍の速度になって戸井原の鼻づらに命中した。


「忍法『風車返し』本来は手裏剣を打ち返す技だが刃が無くてよかったな。投げ物は忍の得意分野だ」

「ッっ~!」


 ハンドガンを抜くどころではなくなり鼻を押さえて悶える戸井原、鼻から出た血が両手を赤く染める。


「取り押さえろ」


 緋桜が雷丸を守る四人に指示をだした。

 戸井原を取り押さえる忍達、あまりに騒ぐので他の侵入者と同様に意識を刈り取って縛り上げる。


「これで終わりだな」

「はい、これもすべて指揮を私に任せていただいた雷丸様の判断のおかげです」


 雷丸の信頼に答えられた喜びが緋桜を包む。やっと忍らしい働きで雷丸の役に立つことができたのだと嬉しさもひとしおのようだ。


「入れ替わりに参加すると言われた時にはどうしようかと思いましたが」


 長の絶対命令で無理やり押し通されてしまった。


「緋桜たちを信じてたからな、面白かったぜ」

「遊びではないのですよ」

「工場の時みたいなサンダー系の魔法とか使わなかったな」


 冒険に命をかける男、伊古代雷丸。忍術対銃の異種遠距離戦が始まると考えていた節がある。


「魔法ではなく忍術です。屋敷内で雷遁を使うなど危険すぎます」

「少し物足りなさもあったが、まぁみんなにケガがなくてよかったな」

「その通りです、亜雪様に依頼完了の報告を――」


 緋桜が言葉を止めた。遠くから微かに音が聞えたためである。


「笛の音?」


 雷丸にも聞こえていたが忍の修行をしていない者にはただの笛にしか聞こえない。だがこれは窓ガラスの振動と同じく忍同士が使う連絡方法の一つ。緋桜の立案した作戦にも不測の事態にはこの笛の音で連絡をとることが決まっていた。


 しかし依頼を終えた現状、笛の連絡など必要ないはずだ。緋桜の忍としての感が警鐘を鳴らす。伝えてきた暗号も意味が分からない……。


 ――『作戦開始』――


 作戦はすでに終わっている。なのに開始。

 速やかに状況を確認に走るか、この場にとどまり続報を待つか。大まかは二つの行動方針が浮かぶが、どちらかを緋桜が判断するよりも早く事態は動いてしまった。


「雷丸様ッ!」


 雷丸にそして緋桜自身に猟犬のような素早い影が襲いかかってきたのだ。


「御頭様、御免」

「お前たちは」


 緋桜は驚愕した、迫る影の正体が仲間であるはずの忍たちだったのだ。戸井原を抑えていたはずの四人の忍たち。


「何を考えている!?」


 迫る忍を蹴り上げ、雷丸をすばやく背中に庇い自らを盾とする。


「受けた恩も忘れこの方に刃向うなど、それでも義を重んじる忍か!!」


 眼力だけで射殺さんばかりの殺気を含んだ叱責に、忍たちはわずかなためらいの色を見せた、しかしそれも一瞬、忍たちは吹き矢を構え発射した。


「この愚か者が!!」


 緋桜と雷丸を中心に薄暗かった廊下に光る菊の花が咲いた。『雷遁・雷大菊(あいおおぎく)』緋桜が得意とする雷遁忍術、大菊の花を模した稲妻が全周囲に飛び散り四方から飛来する吹き矢を撃ち落としそのまま忍たちにも電撃を浴びせた。


 殺すほどの威力はない一時的に動きを止めるスタンガン程度、離脱にはこの威力十分。

 雷丸を担ぎ上げた緋桜は逃げることを選択した。四対一の不利な状況、護衛対象の雷丸の存在、裏切りのショックで混乱する頭で考えた最良の選択だ。


「俺は走れるぞ!」

「却下です」


 雷丸が走れば足音が出てしまう。そうなれば追跡を振り切れない可能性がある。男性一人担いでも緋桜は移動音を一切ださなかった。

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