三十の巻『忍ってやっぱり時代遅れなんじゃ』
三十の巻『忍ってやっぱり時代遅れなんじゃ』
「さぁ今夜も気合入れていきますか!」
警備をはじめてからすでに三日がすでに経過している。昼寝夜起きの生活にも慣れてきた雷丸に眠気はなかった。だが、やる気は大幅に無くなっていた。
「気合入れていくぞ!! 本当に気合いれるぞ!!」
二度目の同じセリフ。初日から言い続けていたセリフだが最初のころのワクワクとした気合ではなく、なんとかこの場にとどまろうと踏ん張っているような気合である。
緋桜は悲壮な表情を浮かべ、清はどこかあきらめたようにすみでお茶をすすっていた。
その理由は――……。
「現状の報告を頼む」
「屋敷周辺に人影無し、問題ありません」
緋桜が雷丸に見張りに配置している忍からの報告をあげ。
「監視システムにも変わったモノは映っていません」
亜雪も警備システムの報告を雷丸に伝える。
雷丸たちがいる場所は戸隠峰屋敷の警備管理室。この管理室には屋敷中に張り巡らせた監視システムの情報が全て入ってくる仕組みになっている。
戸隠峰コンツェルンの傘下には警備会社もあり独自の警備システムの開発まで行われていた。夜でも昼と同じように視界が確保できる高感度監視カメラや虫も逃さない体感振動センサーなどハイテクの最先端をいっていた。
「すごいシステムだよな、三日たってもまだ慣れない」
「そうですね」
感情を押し殺しできるだけ平静をよそって緋桜は答える。
「なぁ緋桜」
「なんですか雷丸様」
「初日から思っていたんだが、俺たちっている意味あるの?」
「お願いですから忍の長がそんな事を言わないでください」
……――このとんでも警備システムをまじかで見せつけられると、雷丸たちはここに自分たちがいてよいのだろうかと、時代が自分たちの存在意義を問いかけてくる。
屋敷の隅々まで映し出す各種のモニターには穏行して隠れている忍たちがくっきりと浮かび上がっていた。『現代に忍は不要』の文句がいやおうなしに突き付けられる。
「侵入者アリ、西側柵を乗り越えた模様」
警報が鳴り侵入者を知らせる。
「西側担当弧乃衛に、すぐに取り押さえるよう伝えろ!」
「いいえ、この程度でしたら大丈夫ですよ」
ここが見せ場だと緋桜は渾身の指示を飛ばすが、亜雪のゆったりとした物言いに止められてしまった。それを証明するようにモニターにはくっきりと侵入者が映し出された。あたりを探るような動きから迷い込んだ迷子などではなく、悪意をもった賊であることを主張している。
「西側、Cの二四から二六まで電気ショック」
「Cの二四から二六まで電気ショック流します。流しました」
淡々とした対応をみせるシステム担当者たち、指示を復唱し動作を報告する。侵入者は気づかれていることも知らず足元に流された軽い電気ショックを受けその場でうずくまった。
「電流カット、警備員を向かわせろ」
「電流カットします。カットしました」
落ち着きはらった担当者は流れるよう操作で電気トラップを操り、警備員室に繋がるマイクに話しかける。
「警備員は侵入者の確保に向かってください。繰り返します、警備員は侵入者の確保に向かってください。以上」
無駄がない、完成されたマニュアル操作。
「ひ~ざ~く~ら~」
鼻水をすすりながら、緋桜の名をを呼ぶ雷丸。
「情けない声を出さないでください、いつか、きっと、必ず、出番があります。そのはずです、多分」
「ホントかよ」
「緋桜さんの言うとおりですよ雷丸」
意外にも、この驚異的な警備システムを見せつけてくれた亜雪お嬢様から緋桜に賛同するお言葉がいただけた。
「この程度の短絡的な侵入者なら当家の警備だけで大丈夫でしょうが、今回恐れているのは戸井原の襲撃です。実際の戦場を知る彼が本気で攻めてきた場合、私どもでは対処できない可能性が高いのです。そこからが忍の出番ですよ」
「亜雪様の期待に応えられよう全力を尽くさせていただきます」
お嬢様に頼りにしていると言われ、緋桜が気持ちを持ち直した。
「緋桜単純」
今まで我かんせずとお茶を楽しんでいた清が雷丸たちの元にくる。
「どうかしたか清」
「質問有る」
雷丸にではなく亜雪へ対しての質問のようだ。戸隠峰の屋敷にきてから三人娘距離が少しだが近くなっていた。
「警備、予想以上に厳重。この情報戸井原は?」
「細かくは教えていませんが、知っています」
「保管庫の場所は?」
「それは知らないはずです」
「漏れた可能性は?」
「カードの開発から保管庫製作もスタンドアローンで行っています。漏れた可能性はひくいですね」
「草がいる」
亜雪にいくつかの質問をして導き出された答え。
「草ですか?」
「確かにこの厳重警備、保管庫が完成まであと四日で動き無いとなると、草を使うのがもっとも妥当な考えだな」
一人頷く緋桜、清が何を言いたいのか理解をしたようだ。
「説明をお願いできますか」
「草、つまり間者のことです」
「かんじゃ? 草を食べて腹を壊した入院患者のことじゃないよな」
「どこの誰ですかそれは」
緋桜が説明しなおしても雷丸には通じていなかった。
「間者、スパイのこと」
「スパイ、なるほど戸井原ならやりそうですね」
戸隠峰屋敷の敷地面積は膨大、内部を知らない者が地図もなく目的地に行けるほど狭くはない。ましてや、隠し建築中の保管庫の場所など外部の者がわかるはずなどないのだ。
「この屋敷で働いている人の中に、あのおっさんを手引きするヤツがいるってことか」
雷丸が草の意味を理解して、亜雪が口に手をあて思考に入る。おそらく自分の周辺にいる者をリストアップしているのだろう。古くから戸隠峰に仕えている者を除外して、保管庫の位置を知っている者となると。
「一人心当たりがいます。確証はありませんが」
確証はないと言いながらも亜雪の表情からほぼ確信を得ていそうだ。




