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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第三章『戸隠峰の洋館忍者屋敷』
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二十八の巻『出会い』

   二十八の巻『出会い』



 雷丸を休ませた後の緋桜の行動は警備のための情報収集、一通りの屋敷と周辺の確認をした緋桜が雷丸の寝る客室へと戻ってきた。廊下の窓から差しこむ光はオレンジ色、もうすぐ応援要請をした弧乃衛忍軍が到着する時間だ。

 警備の配置をどうするか考えていると客室の前でティーセットを持った亜雪と遭遇した。


「警護の下見」

「はい、屋根裏も軒下もない屋敷の警護ははじめてなので時間がかかりました」

「家には和風な部分は茶室くらしかありませんからね」


 それも部屋を改築して作られたもの、畳をめくっても軒下につながっているわけではない。


「雷丸は中に?」

「夜の警備に参加するつもりのようでしたので、今のうちに休んでもらっています」

「それでは後の方がよろしいですね」

「なにか用事でも」


 手荷物を見れば想像はつくが一応の確認。


「雷丸をお茶を誘いにきたのですけど、お休みならしかたありませんね」

「もうしわけありません」

「謝る必要はないのですよ、護衛を依頼したのはこちらですし」


 上品な仕草でクスクスと笑う亜雪お嬢様、雷丸と話している時は年相応の少女の顔をみせる彼女だが、それ以外では絵に書いたような完璧お嬢様、緋桜は忍の自分とはまったく身分や生まれが違うと再確認させられる。


「そうだわ、雷丸の代わりに緋桜さんが私とお茶にしませんか」

「私とですか?」

「なにか用事はあるかしら」

「いえ、増援が到着まででしたら問題ありませんが」

「よかった、それじゃ私の部屋へ行きましょう」


 引きずられる形で亜雪に部屋に訪れた緋桜、招き入れられた部屋は客間よりも上品で全体的にライトブルーに統一されていた。


「今お茶を入れますね」

「亜雪様自身が入れるのですか?」

「そうよ、メイドが入れてくれると思った?」

「いえ、そういうわけでは」

「雷丸を誘うつもりでいたから、人は呼んでなかったのよ」


 それは亜雪が二人きりで過ごすつもりであった事を意味している。ティーセットも二人分しか用意されていないところからも明らかだろう。何とも言えないモヤモヤした感覚に緋桜は襲われた。


「どうかしたの?」

「い、いえ、なんでもありません」


 お嬢様自ら入れた紅茶が緋桜の前に置かれる。


「それで、お話とは」

「前から少し、いいえ、かなり気になっていたのだけれど、ちょうど雷丸もいないし聞いてもいい?」

「忍の掟にさわらなければ」


 富豪のお嬢様が忍に聞きたいこと、主である雷丸に隠れて聞きたいこととは一体何か。たとえ主の許嫁であっても話せない機密は存在する。


「あのね――」


 意識が亜雪の唇に引き寄せられていく。


「雷丸との出会いってどんな感じだったの」

「――……はい? 出会い、ですか?」


 もうまったく忍とは関係がない質問であった。


「そう出会い、伊古代の家がなくなって雷丸と音信不通になってから、私もツテを頼って探したのだけれども見つかりませんでした」


 雷丸は家が没落後、忍の里で暮らしていたことがある。外界の関係を遮断している隠れ里、探してもそう簡単に見つかるものではない。亜雪はその頃、没落前後に雷丸と緋桜たちが出会ったのではないかと想像しているようだ。


「高校で再会した時には、忍の長になっていてとてもビックリしました」

「ですよね」


 許嫁の幼馴染が行方不明になって再会したら忍の頭領、予想すらできなかっただろう。


「私と雷丸様が出会ったのは今からおよそ八年前です」

「伊古代のお家がなくなる前ですね」


 没落後ではなく、没落のなかり前に雷丸と緋桜は出会っていた。亜雪の想像は的が外れていた。


「我ら狗賀と清たちの狐賀は古くから伊古代家に懇意にさせていただいていました」


 戦国時代から続いていた古い家柄の伊古代家は、忍への依頼方法も伝え残していた数少ない家系であった。だが戦の無い現代、忍の力を必要とする仕事は少なく、親族などの簡単な護衛くらいしか依頼はなかったのだ。


「私と清は雷丸様が山へと遊びにいらした際の遊び相手役兼護衛役を仰せつかりました」

「それが出会いなのですね」

「私が忍として受けたはじめての任務でした。正直、依頼の内容を聞いた時は簡単な依頼だと楽観視していました」

「普通の子どもならそうだったかもしれませんね」


 幼馴染の亜雪は知っている。小さい頃からの雷丸の爆発的行動力を、一〇才にもなる前に工場の壁に大穴をあけるなど大人が胃を抑えたくなる行動を繰り返していたのだ。


「忍としての訓練を受けていましたので体力的には問題なったのですが、雷丸様が考え付く遊びが、どれもすべて危険な物ばかりで」


 真新しい熊の足跡を追いかけるなど序の口、谷の対岸を指さし明らかに長さの足りない蔦を掴んでターザンのマネなど、血の気が引くという感覚を生れてはじめて味あわされたことを緋桜は今でも鮮明に思い出せる。


「そうとう苦労したようですね」

「わかってもらえますか」


 記憶を遡るだけで目元からキラリと光の粒がこぼれてしまう。


「それでも、雷丸様や伊古代家に受けた恩を想えば苦労のしがいがあります。そもそも伊古代家が傾く切欠は私たち忍にあるのですから」

「そのようですね、そのあたりは大まかには聞き及んでいます」


 戸井原も知っていた伊古代家の最後。

 狗賀と狐賀の隠れ里がある山が開発地区に指定されたのだ。山は切り崩される計画がほぼ決まりかけていた。しかし、その計画に待ったをかけたのが雷丸の父親である伊古代家の当主であった。伊古代家の持てる資金をすべてつぎ込み計画を白紙に戻したのだ。

 どうして伊古代家が財産をなげうってまで忍の里を守ったのか?

 それは幼き日の雷丸の存在であった。


「亜雪様は私たち忍が使う忍術も元となる力をしっていますか」

「たしか至高の獣より神通力を授かるとか」

「そうです、そして神通力を授かるためには忍集団の長が至高の獣に認めてもらわなければなりません。逆に長さえ認められたならば、その一族の者たちは神通力をさずかり忍術を使用できるようになるのです」

「今の狗賀と狐賀の長は」

「ご存知の通り伊古代雷丸様です」

「つまり、雷丸が至高の獣に認められたと」


 驚きはした亜雪だが疑うことはなかった。雷丸ならやりかねないと思えてしまうから。


「忍の仕事がほとんどない現代、至高の獣様はもはや神通力を忍に授ける必要はないと判断されかけていました。それを何とか思いとどまって貰おうと、次期長候補であった私と清が懇願にむかったのです。一族の未来がかかった懇願、私たちは緊張から、面白そうだとこっそりついてきていた雷丸様の存在にまったく気がつきませんでした」

「展開が見えてしまいました」


 話しを聞くだけのその場面のビジョンが明確にイメージできてしまう。

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