二十六の巻『ギルドカード開発秘話』
二十六の巻『ギルドカード開発秘話』
マフィアにしか見えない男の威圧感に臨戦態勢を取ろうとする緋桜を雷丸がそっと手で制した。亜雪の家でいきなり騒ぎを起こすのはまずい。
何者かと聞かれたのだから、雷丸は素直に答えた。
「俺は伊古代雷丸この二人は警護の者で、戸隠峰亜雪様に仕事の相談がしたいと呼ばれてきた」
「仕事の相談だ? 貴様のような小僧に相談するよう安い案件などないだろうに」
あまりの見下した態度に緋桜のみならず清までもが臨戦態勢になってしまった。
「待てよ伊古代、聞き覚えがあるぞ、さびれた忍者の一族を助けるために破産したと言うバカの伊古代か、名前を覚えるのが苦手なオレ様が一発で記憶に残るほどの愚かな没落者」
清は自然な動作で懐に手を入れ何かを握る。雷丸には懐の中を見えはしないが先ほどしまったクナイを握ったに違いない。
「亜雪ちゃんに金の無心に来たのか、この恥知らずが」
「いきなり、ずいぶんな物言いですね」
ブチン、緋桜の血管が切れた音が聞こえた気がした。殺気だけで窓ガラスを全部砕けるのではと錯覚するほど、応接間の空気が戦場のように変わる。このままでは間違いなく刃傷ざたになる。
踏み出そうとした緋桜と清を雷丸が両手を広げて抑えた。
「雷丸様」
「二人とも少し落ち着け」
「その小娘たちが助けた忍者なのか。メイドの採用試験にきたお嬢ちゃんかと思ったぜ」
何も説明していないのに雷丸は金の無心、緋桜たちは職探しとかってに決めつけられた。
これにはさしもの雷丸も黙ってはいられなかった。
「彼女たちの侮辱はやめてくれ」
落ちぶれたのは事実、だから雷丸は伊古代のことを悪く言われても我慢できる。だがこんな自分に忠義を尽くしてくれる緋桜や清が馬鹿にされては引き下が訳にはいかない。
「すごむなよ、お嬢ちゃんに守られている元お坊ちゃん」
雷丸の斜め後ろからカチャリと時代劇で聞くような刀を抜く音がした。
緋桜が短刀の小口を切ったのだ。普段は衣擦れも立てずに行動するのに、はっきりと聞こえる音を出した。威嚇の意味を込めたモノである。これ以上は許さないと、小口の音で表現したのだ。
「へ~、なかなかいい眼力じゃないか」
中年マフィアも明確に威嚇だと理解したようだ。だがそれでも見下した態度を改めようとはしない。
「部屋の外に数名、鉄と油の臭い」
清がそっとつぶやく形で報告してくる。いつも通りの短い言葉だが現状ではそれがとてもマッチしっていた。
雷丸が緋桜たちを護衛として連れてきたように、中年マフィアが刃に手をかけている忍を前にしても動じないのは、銃で武装した護衛がすぐそばに待機しているからだ。
にらみ合いによって生まれた沈黙により、雷丸の耳にも銃の安全装置が解除される音がはっきりと聞こえた。
「刀なんて時代遅れだぞ」
扉が開かれ黒服の男たちがなだれ込んでくる。
「初対面でずいぶんと好戦的だな」
「それはお前らもだろ」
忠節を誓った主が一方的に侮辱され黙っていられるほど緋桜と清は温厚ではない、次は威嚇では済まないと、銃があろうが関係なく二人は闘志を静かにたぎらせていく。
一触即発の状況、何か一つ切欠があれば、即戦闘が開始される。
「何をしているのです!!」
緊迫した状況に聞き覚えのある少女の声が響いた。
普段のゆったいとした雰囲気を微塵も感じられない亜雪が、応接間へと現れたのだ。
「戸井原のおじ様、私の御客人に何をなさっているのですか」
亜雪の声にいつもの優しい音色はなく、冷たく突き刺すような鋭さを持っていた。
「本物の忍者をはじめて見たのでね、すこしチャンバラごっこをしてみたくなっただけさ、ほんのお遊びだよ」
はっきりと向けられる怒気も軽く流す戸井原と呼ばれた中年マフィアは、手を振り黒服たちを下がらせた。
「おじ様、今日お見えになるとの連絡は、いただいていないと記憶していますが」
「おう、驚かそうと思ってね。突然にやってきた。亜雪ちゃんと俺との仲だしな」
「どのような仲かは存じませんが、今日は別の案件にて手が離せません、日取りを変えていただけませんか」
丁寧に話してはいるが、その意味は『早く帰れ』の一語につきる。
「わったったよ、日を改めるとしよう。例の件、よろしく頼むよ」
「何度こられても私の返答はかわりませんよ」
「変えてみせるさ」
絶対的な余裕を見せる戸井原。
「外までお送りします」
「よろしく頼むぜ鮫裏さんよ」
鮫裏に促されるままに応接間を出ていった。
「まさか、戸井原がきているとは思いませんでした。不快な思いをさせてしまいました。本当にごめんなさい」
「亜雪が謝ることじゃねぇだろ」
亜雪にとっても戸井原の訪問は予想外であったのだから。
「あのおっさんは何者なんだ、緋桜たちの殺気を受けてビビりもしなかったし」
「戸井原重人。一応親戚筋なのですが、戸井原家は海外で傭兵派遣企業を経営しており、戸井原重人本人も傭兵を引いて戦闘に参加するなど、趣味が銃撃と豪語する変人です」
「射撃じゃなくて銃撃が趣味って、ホントに物騒なおっさんだな」
「物騒な人物なのはわかりましたが、雷丸様にたいして初対面でかなり好戦的でした、なにか理由でもあるのでしょうか」
「昔に親父か爺さんとでも揉めたのかな」
「いえ、戸井原が狙っているのは冒険者ギルド『狼弧』です」
銃撃が趣味のおっさんと全く接点のない狼狐が狙いと聞いて雷丸は目を見開いた。
「どうして赤字経営直前の狼弧が狙われるのですか」
「赤字経営直前じゃない、ギリギリ黒字経営だ」
「正確にはギルド狼弧そのものではなくシステムです」
詰め寄る緋桜を落ち着かせ、亜雪は丁寧に答えてくれた。
「システム?」
「ギルドカードに使われている端末の事です」
「ギルドカード? 冒険者ギルドとっては貴重品だけど、射撃好きのおっさんが欲しがる物じゃないぞ」
雷丸が自分のギルドカードを取りだす。名刺大のカード、現行のスマフォよりだいぶ薄い、表にすれば雷丸のキャラクター名や職業、レベルが表示されている。
「これがなんで狙われるんだ」
雷丸発案のもと亜雪の協力により戸隠峰に所属する開発チームがロマンを満載に資金を膨大に使い生まれたアイテム、繁盛している狼弧が経営で黒字ギリギリなのも、このカードを開発費上限なしで開発したのが一つの理由であった。
お金は掛けたが機能はすべて冒険のためにあり、異世界冒険以外に使い道はない。
「雷丸には話していませんでしたが、ギルドカード開発の噂を聞きつけた発明家たちが続々と開発に参加をしまして、カードが完成したころにはプロジェクト立ち上げ当初の三倍以上の人員になっていました」
「そりゃ、すげーな」
「なに呑気なことを言っているのです。開発費の上限無しなんて私は聞かされていません」
「だって言ったら反対したろ」
「当たり前です!!」
掴みかかりそうになる腕を必死に抑える緋桜、何があっても主には手をあげない忠義の忍。その様子に清は無言で拍手を送っていた。
「もしかしたらギルドカードの開発だけで全財産が無くなっていたかもしれないんですよ!!」
「ああ、その心配はありませんよ、雷丸からは上限なしでと頼まれましたが、私の方でギリギリ赤字、失礼、なんとか黒字のままでいられるように調整していましたから」
「道理で低予算だと思った」
「亜雪様、あなたが女神に見えます」
すがるように感謝をのべる緋桜。開発の領収書を見て雷丸の予想した見積もりよりゼロが一桁少なかったことを緋桜が聞けば絶叫をあげていただろう。
「女神かいいなそれ、今度のイベントで女神役やってみるか、女神からの依頼とか人気ありそうだし」
「面白そうですね」
「雷丸様、すこしは反省してください!!」
主に手は上げなくても盛大な雷は落とす御側役筆頭であった。
裏設定、ギルドに登録した冒険者が一年以上冒険をせず、冒険者ライセンスが無効になると忍がこっそりとカード回収に伺います。




