二十四の巻『新たな依頼』
二十四の巻『新たな依頼』
記念写真が撮り終わり、召喚獣を消すとようやく緋桜は一息をついた。
「最初は調査と聞いて、ただ冒険したいだけだと思いましたが」
間違っていないと緋桜は頷く、声に出さなくても心の中で共感しているのであろう。
「あんなかわいい子をゲットできるなら参加する価値はありましたね」
「だろ、何が起きるか分からないのが冒険の醍醐味だぜ」
「そうですね、ですが。やはりこのままのペースで攻略されていきますと、裏山異世界は半年もたたずに完全攻略されてしまうかもしれません」
今回の討伐は緋桜の戦力が大きかったため成功したようなものだが、何度も挑戦すれば緋桜抜きでも二週間後には討伐されていただろう。
「半年は行けると思ったんだけどな、このままだと年内には攻略されるな」
ギルドマスターとして調査結果を受けて、テコ入れをするたもの指示を出す。全ては異世界を長く楽しむために。
「緋桜、カーンズが持っている地図を調べてくれるか、できれば入手経路まで」
「御意」
やっとの忍らしい指示に元気を取り戻す緋桜。
「清は冒険者たちが山の情報をどこまで掴んでいるか調べてくれ」
「御意に御頭様」
「ギルドマスターだ」
「失礼、ギルドマスター」
「ひょっとして清って俺のこと嫌いだったりする」
「まさか、心の底よりお慕いしています」
恒例のやり取り、ほぼ部読みの言葉はどこまでが本心なのか雷丸には読み切れなかった。
「隣の山も貸しましょうか、戸隠峰が所有する土地ですから」
「ありがたい話だが、金が無いな、今の山の土地レンタル代だけでやっとだ」
裏山異世界が好評で、リアルの派遣も順調、帳簿も黒字にはなっているが裏山のレンタル代を引くとギリギリで黒と赤の字が間を行き来したいる。
いつか山もこの本部も正式に買取りたい雷丸だが、それは当分先の話しだ。
「お金はいつでもいいですよ、私と雷丸の仲ではありませんか」
「金と友情は別もんだ、友達を無くす一番の要因は金の貸し借りだって親父がよく言っていた。『友情を頼って金を借りるな、どうしても貸す時はヤルつもりで貸せ決して取り立てるな』ってな」
雷丸が小学校低学年の頃に伊古代家が傾いた。それを境にいつもニコニコ笑顔で接してくれていた大人たちの態度が一八〇度変わった、あまりの豹変ぶりにショックよりも驚きの方が大きかった記憶がある。
「わかりました。雷丸はそういう性格でしたね」
「もちろん、となりの山を借りること自体を拒否したわけじゃないぞ、すぐにでも資金を貯めて借りにいくからな」
雷丸はコピー用紙を一枚取ると筆ペンで来月の目標『隣の山を異世界にする』と書き上げた。
「たった一ヶ月で資金を貯めるつもりですか!?」
帳簿を預かっている緋桜が悲鳴をあげた、彼女がギルドで一番細かく資金の動きを把握しているのだ。それがどれだけ無謀な目標か脳内ソロバンが難易度の高さ割り出す。それは存在しないSクラスのクエストよりも難しいだろう。
「大丈夫だ、俺たちならできる!」
「その根拠のない自信はどこからくるのですか? 帳簿を預かる身として――」
「根拠ならあるぞ!」
雷丸は緋桜の鼻先に指を突きつけ黙らせた。
「へ?」
「さっき、亜雪が依頼がありそうなこと言っていただろ」
「そう言えば」
別の頼みがあるから緋桜の機嫌は損なえないと言っていた。
「なんでしたら、報酬を隣の山にしてもよろしいですよ」
「それは仕事の中味にあった報酬額か?」
「もちろんです」
穏やかな表情が消え真剣な瞳の亜雪。
「今回の依頼は、先日の件よりも厄介なものですから」
クラッシャービークルみたいな化物が相手であった依頼よりも厄介な依頼。
冒険が終われば、また次の冒険がはじまる。それは冒険譚のお約束であるが、さすがの雷丸もすぐに内容を聞き返せなかった。
口を開くものがいなくなった事務所で、コンコンとドアをノックする音が本日の終了時間であることを知らせてくる。
「お嬢様、御迎えにあがりました」
亜雪の専属執事、鮫裏が昨日と同様に気配を感じさせることなく現れた。
「詳しい話はここではなんですので、明日お屋敷の方へお越しいただけますか」
「了解だ。緋桜、問題はないよな」
「雷丸様の意思にしたがいます」
不安はあるが、期待もそれ以上にある。
雷丸にとって異世界拡大のチャンスが転がり込んできたのだ。不安だからとこのチャンスを拾わない選択肢など存在しない。
「おっしゃ、燃えてきたぜ!」
雷丸はすでに依頼を受ける気になっている。それを感じ取った緋桜は明日以降のギルドスタッフのローテンションの調整を頭の中で開始するのであった。
これにて2章完結。次回かあら3章へと突入します。




