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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第二章『集団戦への参加は、調査です。仕事です。本当です』
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二十二の巻『吟遊詩人は三味線を持つ』

   二十二の巻『吟遊詩人は三味線を持つ』



「チェリー姫、早く剣を拾ってくれ」


 冒険者の一人が懇願するように訴える。緋桜の武器はまだ河原に転がったままだ。


「リトルウルフ、ロングソードを拾いに行って――」

「大丈夫」


 清がまた袖を引いて止める。ポーズを取ろうとしていた雷丸がバランスを崩しかける。リトルウルフは中途半端な指示にどうすればいいのと首をかしげる。


「清、いやキヨナ、どうして?」

「相手、小さい」


 特に警戒するでもなく清はスタスタと茂みに近づいていく、それにおそるおそるついて行く雷丸に、さらにゆっくりとついて行く冒険者たち。

 清が警戒なく茂みをかきわけ覗き込む。


「御頭様、こっち」


 エルフ娘が雷丸を手招きする。


「ここではザークルと呼んでくれ」

「失礼、ザークル殿」


 もはや二人のコミュニケーションになりつつあるいつものやり取り、雷丸は清に横に並んで茂みを覗くと、小さな黒い毛玉がいた。毛玉には一本の赤いラインが入っておりミューと高い声で鳴く。


「ひょっとして、月光熊の子どもか」

「熊の幼子、特徴は月光熊と一致」

「さっき倒したのは番だったのか」


 雷丸の作った設定では魔物も番となり子どもを儲けることができる仕様にしていたことを、すっかりと忘れていた。

 清が茂みから抱き上げた小熊を冒険者たちに見せる。


「こんな子どもを退治するのは気が引けるな」


 討伐パーティーリーダーのカーンズが苦い顔をした。確かに躊躇してしまうが、放っておけば成長して凶暴な月光熊になってしまう。作り物だと分かっていても、先ほどの恐怖体験から素直に逃がそうとは言いだせない冒険者たちであった。


「誰かがテイムすればいいじゃないか」

「おお、その手があったか」

「誰か欲しい奴がいたらテイムしてくれ」


 召喚士は登録した時に初期テイム魔獣の中から二匹を選んで契約でき、それからはレベルが七の倍数になるごとに契約できる枠が一つ増える設定になっていた。

 雷丸の現在のレベルは12あと一体と契約できるが、いま契約を結んでいるのが子狼と子狐なので、次は空を飛べる魔物をと考えていたため今回は譲る気でいたのだが、しかし――……。


「誰もいない……」


 月光熊の子どもをテイムしたいという者が一人もいなかった。正確にはテイムできる者が一人もいなかった。召喚士が雷丸以外、全員やられてしまっていたのだ。逆奇襲で最初に飛ばされ雷丸たちの頭の上を飛んで行った彼も召喚士であったらしい。


「成長したらパワーのゴリ押し部隊になりそうだが、お前は俺と契約したいか」


 清の腕の中で丸くなってあくびをしていた小熊がミューと了承するように鳴いた。


「ならば、お前を我が仲間に迎え入れよう」


 ローブをひるがえし杖を構えギルドカードを掲げる。カード掲げる以外は不要な動作だが、形式美にこだわるのが冒険者雷丸であった。


「俺がお前を最強の月光熊へと育ててやろう。それが親を討った俺に責任でもある。忠誠を誓え古に盟約に基づきお前を我が魔獣隊の末席に加える」

「ミュー」


 小熊の足元にエメラルドに光る魔法陣が現れ、蛍のような魔法の粒子が小熊のまわりを漂い小さな体に吸い込まれていった。雷丸のギルドカードの召喚獣一覧に赤小熊(リトルレッドベア)の名が新たに書き込まれた。





 カーンズ率いる月光熊討伐隊はクエストを成功させギルド本部に帰還する。途中リタイアとなった冒険者たちとも合流して成功報酬を分け合い、また一緒に冒険しようと誓い合い先ほど解散したばかり、雷丸は留守番をしてくれていた亜雪に労いを兼ねて報告に赴くと。


「皆さん、おかえりなさい」


 受付嬢姿の亜雪お嬢様が出迎えてくれた。


「聞いてください雷丸、私の担当したカウンターにも列ができたのですよ」


 報告に来たはずが先に報告を聞かされた。

 緋桜や清が受付の時、他のカウンターに比べて列ができる原因を美人受付嬢だからと雷丸が褒めていたことを亜雪なりに意識していたようだ。


「楽しめたようだな」

「ええ、とても。雷丸たちは楽しめましたか?」

「おう、バッチリ楽しんできたぜ!」


 イェ~イとハイタッチを交わす正副ギルドマスターズ。


「雷丸様、何度も申し上げていますが、目的を忘れてはいませんか?」

「忘れてるわけないだろ、俺に任せな、冒険譚風にかっこよく報告してやるぜ」

「なぜ冒険譚?」


 一冒険終えてもまだまだ元気が有り余っている雷丸、過酷な訓練を積んできた緋桜よりも体力が余っていそうだった。


「なぜ冒険譚かだって、その方が異世界っぽいからだ、いくぜ!」


 ――ベベン!――


 清がどこからか取りだした三味線で雷丸の語る冒険譚に伴奏をくわえた。


「おお、吟遊詩人ぽくていいな」

「エルフのキヨナ、楽器が得意」


 エルフスタイルのまま勝手に設定を付け加え三味線を構えてポーズを決める。異世界で吟遊詩人ならリュートだろとツッコミを入れる所だが、ツッコミ担当の緋桜には入れるだけの異世界知識がなかった。


「オホン、オホン『時はさかのぼること今日の朝、月光熊を討伐するため集まった冒険者二十七名はリーダーであるカーンズを筆頭に――』」


 わざとらしい咳払いをした雷丸が得意顔で、落語のような口調で語り、清が三味線で彩を加える。


「ずいぶんと和風な吟遊詩人ですね」


 美少女エルフが三味線で彩る落語形式の冒険譚。和洋折衷どころか、現代と異世界が混在した現異折衷なる新しいジャンル?  が誕生していた。

 緋桜は呆れながらも雷丸が語る冒険譚風報告の補足説明を亜雪にしていたが、話が緋桜の活躍で月光熊の討伐が成功したくだりで。


「『冒険者たちはその名を呼ぶ、月光熊を討伐した一人の美しき傭兵の名を、その名はチェリー、魔法剣士チェリー』」


 ガツンと緋桜が額を事務所のデスクに叩きつけた。


「緋桜、合の手の場所が違うぞ」

「合の手ではありませんから」


 額をさすりながら起き上がる緋桜、このやり取りだけで亜雪は誰がチェリーかを理解した。


「ああそうだ緋桜、月光熊を倒すときはちゃんと名乗りを上げろって言ってただろ」

「できるわけありません」

「わかった、俺がカッコいい口上を考えておく」

「考えなくていいです」


 調査結果を報告するだけのはずなのに、緋桜の精神力がゴリゴリと大根が摩り下ろされるように削られていった。

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