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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第二章『集団戦への参加は、調査です。仕事です。本当です』
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二十の巻『奇襲、月光熊』

   二十の巻『奇襲、月光熊』



「リトルウルフよ月光熊の足跡を追え」


 召喚された黒い子狼はワンと子供特有の高い声で鳴くと、鼻をフンフンしながら見つかった足跡をなぞって進みだした。


「行くぞ、武器はいつでも抜けるようにしておけ」


 鼻をフンフンと動かし、小さな尻尾を左右にフリフリしながら進む子狼の後にぞろぞろと続く真剣な表情の冒険者たち、モニターで見たらコントに見えるかもしれないシュツエーション光景だが本人たちはいたって真面目である。


 これまで相手にしてきたゴブリンなどと違い体格が自分たちの倍以上ある大型の魔物を相手にするのは今回がはじめての者が多いであろう。木々に刻み付けられた縄張りを主張するかのような巨大な爪跡が冒険者たちの恐怖を演出する、風で草木が揺れるたびにビクリと反応してしまう。


 追跡を始めてからしばらく、水の音が聞こえてきた。


「この先には川があるな」


 地図で位置を確認するカーンズ。もう二百メートルも進めば見えてくる。

 幻術で作られた魔物たちだが、雷丸から生まれた想像力は科学の補助を受け、とてつもない完成度になっている。食事もすれば便もするし、番になって巣も形成する。

 喉が渇けば水も飲みにやってくる野生の熊と変わりはない。


「風下から川に近づくぞ、みんな大きな音をたてないように注意していこう」


 とうぜん臭いも再現されている。

 先頭をリトルウルフから偵察班へとシフト、音をたてないように慎重に川を視界にとらえるところまでやってきた。

 山の合間に流れる川は傾斜がありやや勢いが強い、その強い流れに顔をつけ水を飲むターゲットを確認した。


「いたぞ」


 遠目からでもわかるその巨漢と赤い鬣。


「打ち合わせ通りにいくぞ」


 あらかじめ決めてあった配置につく。魔法や飛び道具の使い手が中央にあつまり戦士系の近接要因が左右を固めた。作戦は遠距離で攻撃を打ち込みダメージを与えた所で戦士たちの接近戦でとどめをさすというもの。


 シンプルだが決まれば効果的な作戦の一つである。

 全員が配置についた所でカーンズが剣を持たない左手を掲げる。この手が振り下ろされた時が攻撃開始の合図だ。冒険者たちの意識が前方の月光熊とカーンズの左手に注がれる。

 魔法使いは小声で詠唱をはじめ、弓の持ち手は弦を引き、銃使いはトリガーに指をかけ狙いを定める。戦士たちは己の武器の握りを確かめいつでも走り出せるように身構えた。


 月光熊がこちらに気がついた様子はない、絶好に奇襲になる。


 攻撃開始まさにそのタイミングで、後方にいた冒険者たちが悲鳴をあげた。

 日差しを遮り雷丸たちの頭上を悲鳴をあげた冒険者が飛ばされていく、その体は茂みを越え石が敷きつめられた河原に叩き付けられた。HPがゼロになったのだろう体が徐々に薄くなりドロンと煙りを出して影も残さずに姿を消した。


 死亡判定、この裏山異世界でHPがゼロになり死亡が確定すると、ギルドカードが反応してギルドホールの帰還部屋に忍術の一つ口寄せの術で強制帰還させられる。

 この部屋で蘇生した冒険者はギルドカードの所持金と経験値がペナルティとして若干減ってしまう。また帰還アイテムや魔法を使えば、山のどこにいてのノーペナルティで帰ってくることもできる仕組み。


「後ろに何が」

「雷丸様、伏せてください」


 緋桜が抱き着くかたちで雷丸を押し倒し、ダガーを抜いた清が二人を庇うように前に立つ。突然の事態で混乱した冒険者たちが右往左往して状況の確認が難しい。


「慌てすぎだぞチェリー、これは幻術なんだから」

「チ、チェリーって言わないでください」


 緋桜も幻術だとわかってはいるが、ずっと訓練してきた習慣が細胞単位で刷り込まれているようで、とっさに雷丸を庇ってしまう。


「それで後ろはどうしたんだ」

「逆奇襲、状況不利」


 奇襲を掛けるつもりが、反対に奇襲を掛けられた。

 いったい何者に奇襲を受けたのか、このフラグのような場面に雷丸はだいたいの予想はつけられた。


「月光熊だ!!」


 悲鳴をあげる冒険者。また数人が吹き飛ばされ、背後からの恐怖に冒険者たちがころげるように茂みを飛びだし河原へと逃げていく。

 緋桜に抱かれたままの状態で最後尾になった雷丸たちの前に、川にいたのとは別の個体の月光熊がその巨体を現した。


「おう、まじかで見るとけっこう怖いな」


 魔力を帯びた赤い眼光に歯茎までむき出した唸る口には鋭い牙が見えている。余裕を見せていた生みの親である雷丸も、迫力に押され頬に一粒の汗が流れ落ちる。


「逃げますか?」

「頼みます」


 緋桜は雷丸を抱え上げると冒険者たちがいる河原へ跳躍した。すぐ後に清も続いて跳躍する。


「河原退避は下策」

「悪手だが仕方がない、目的はあの熊の討伐で他に選択肢はない」


 逃げるのならば身を隠せる茂みの中のほうがよいが、戦うのであれば障害物の少ない河原にでるのは全力で武器が振るえるのでメリットある。しかし、後方からの奇襲で皆の頭から抜け落ちているが、この河原にはもう一頭の月光熊がいるのだ。


 想い出したころには川で水を飲んでいた月光熊は、最初に河原に飛びだした冒険者へその鋭い爪を振り降ろしていた、また一人リタイアさせられた。


「円陣を組め、遠距離組を中央に近接組が外を囲むんだ!」


 カーンズが指示を飛ばす。


「今度はまあまあ」


 落ち着いて指示の評価をする清さん。


「武器を突き出して大声で威嚇、数ではこっちが上なのだ!!」


 雷丸を抱えたままだった緋桜は円陣の中央にいたためカーンズの指示を補足する形で声を張り上げる。二頭の月光熊は冒険者たちのまわりを隙を伺うかのようにゆっくりとまわしだす。


「川への足跡、罠だった可能性有り」

「確かに知能が高いように設定したけど、ここまでになるのか」


 魔物が罠を仕掛けるなど、生み出した雷丸本人が驚いている。予想を超える展開に普段なら踊りだすほど喜ぶ雷丸だが今はそれほどの余裕はない。


 リアルに間近で見る大熊はけっこう怖かった。

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