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現代の忍ギルドは忍ばない  作者: 江山彰
第二章『集団戦への参加は、調査です。仕事です。本当です』
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十九の巻『追跡、調査です』

   十九の巻『追跡、調査です』



 今回討伐に参加した正式な人数は二十七人、集まっていた者全員がリーダーの示す参加条件をクリアしていた。最初からCランクのクエストだと伝わっていたため、集まったメンバーも受付嬢やエルフ娘に浮かれようと、それなりに腕に自信を持つ者ばかりであった。


 道を知っているカーンズのパーティーが先行、中衛に近接戦闘の苦手な術者達が続き、後方を戦士系の冒険者たちが続く、どこから奇襲を受けてもすぐに対処できるよう隊列を組み山を登り始めて十数分、踏み固められた道を外れ獣道に入る。


「大人数でも討伐クエスト、わくわくしてくるぜ」

「調査ではなかったのですか?」


 完全に忘れていますねと、口には出さないが緋桜に顔に書かれていた。


「もちろん調査もするぞ、だが調査を楽しんでやってはいけないという決まりはない」


 周囲に聞かれないように小声で返す。


「楽しむ口実にしか思えませんが」

「そんなことはない、あれを見てみろ。早速調査対象だ」


 雷丸が集団を先導するカーンズの手に持っている物を指さした。


「あれは、地図ですか」

「ああ地図だ、ちなみに俺が冒険者用に作った地図より数倍の情報量があるみたいだな」


 ギルド本部では異世界冒険に役立つ様々なアイテムが販売されていた。それはもちろん現実の通過ではなくクエスト報酬で手に入る異世界通過のraienでのみ購入できる。現金による換金も可能。


「古本屋で買ったと言っていた」


 偵察要員として地図を見せてもらってきた清が報告をあげる。近くの商店街の古本屋でこの山周辺の細かい地図が売られていたようだ。幻術で異世界に作り替えたからと言って地形までもが大きく変化したわけではない、細かく記載されている地図なら攻略に大いに役立つだろう。


「情報交換もさかん」


 清が出発前に調べた情報によると、すでに裏山異世界の三分の一は冒険者たちが独自に制作した攻略マップがあるらしい。


「予想より攻略ペースが速いわけだ」


 腕を組み嬉しそうにうなずく。


「冒険者達は俺の予想を大きく超えて進化している」


 まわりの反応を伺うかぎりカーンズの攻略マップに驚いている者はいない、情報の差こそありそうだが、すでに冒険者たちにとって攻略マップは当たり前のアイテムになっているようだ。きっとギルド販売の地図は殆ど売れなくなっているだろう。


「もしかしたらアイテムの売れ行きを調べるだけでも、冒者たちの動向調査になるかもな」






 襲撃を警戒しながら進む一行、途中ゴブリンなどの小物には遭遇したが問題なく撃破していき、前回月光熊と戦闘したという地点に到着、先日の戦闘の余波が色濃く残っており大型獣の爪痕などがはっきりと木々に刻みつけられていた。


「偵察スキルのある者はあたりを探ってくれ」


 カーンズが指示を飛ばす。冒険者たちは目的の対象と対峙もしていないのに、現場の痕跡から威圧感を押し付けられる。


「御頭様」

「サンダー・ザークルだ」

「失礼、サンダー殿。私も探索、必要?」


 偵察メンバーに分類されている清が伺いをたてる。忍である清が全力が探れば熊の痕跡など簡単に発見できるだろう、しかしそれは雷丸が楽しんでいる集団冒険の醍醐味を壊すことになってします。


「他にも偵察要員はいるんだ。キヨナ、東の方向だけ一点集中で探索してくれ」

「御意、東側のみ全力で探索します」


 一点集中、一か所のみに絞って探索、これなら見つからない可能性も出てくるので全力で探索してもメンバーのバランスを崩すことはないだろう。行動に制限を加えて全力で楽しむ。雷丸の言いたいことを正確に読み取った清は探索のため東側へ向かっていった。


「残りのメンバーは周囲を警戒、相手は不意打ちが得意だぞ」


 カーンズの指示の元、術者を中央に置き円陣を組み死角をなくす。


「あの、雷ま――サンダー様。月光熊とはどのような相手なのですか」

「普通の熊より一回り大きいな四メートル前後はあるはずだ、頭から背中にかけて伸びている赤い鬣が特徴、その鬣は月の光を浴びると血の色のような真っ赤な光を放つことから、月光のもと血に染まる赤い大熊、月光熊と名付けられた」

「さすが召喚士詳しいな、テイムする気か」

「チャンスがあったらな」


 円陣を組んでいたので雷丸の月光熊解説は冒険者たちにも聞こえていた。カーンズが外を向いたまま話しかけてくる。


「付け足すと、体格のわりに気配を消すのがうまい、足音も立てないで移動もできる。カーンズの情報通り奇襲がうまい」


 奇襲がうまいとの情報に冒険者たちの警戒レベルが上がる。無駄話など一切なく、偵察班の帰りを待った。


「戻ってきたようです」


 静かな円陣に緋桜のつぶやきが聞えた。

 視界にわずかな影が差したかと思えば、円陣の中、雷丸の側に清が上から音もなく降りてきた。舞い上がる木の葉がいかにも忍ぽいと感じる雷丸。


「東側、大型系の痕跡無し」

「だそうだカーンズ」

「いま、空から降りてこなかったか」

「エルフだから」


 理由になっていない説明を繰り出す清。


「そうなのか、エルフだからか、エルフだから?」


 試験の時から続くとんでも展開にカーンズの感覚は麻痺してきたようで、突然現れた清に深くツッコムことはなかった。それから清に遅れること数分、偵察に出ていた者たちが続々と戻ってくる。そのうちの一つが。


「大型の足跡を見つけたぞ。まだ新しい」


 足跡が見つかったのは清が偵察した反対側である西の方向、カーンズの攻略マップで足跡の先に川が流れていることがわかった。


「水場か、いる可能性があるな、ここからは戦闘態勢でいこう。召喚士、リトルウルフで足跡の追跡できるか?」

「任せてくれ、小さくても立派な狼だ」


 杖を掲げ、右へ左へと振り回し、腰を落としヘソに力を入れた動作で杖を前方に付きだす。


「来い、黒き雷風の王の子よ、我が呼び声に答えろ『リトルウルフ』召喚!!」


 前回の召喚の時とポーズとセリフが変わっていた。


「夕べ部屋で練習してた」

「昨日の雷丸様の護衛担当は弧乃衛衆だったな」


 忘れがちになるが、雷丸は冒険者ギルドのマスターである前に狗賀忍軍と狐賀忍軍の長、当然護衛がついており二つの忍軍が交代であたっている。護衛のため部屋近くで控えていた清は召喚に使う詠唱の呪文練習を聞くつもりはなかったのに聞いて、いや、聞かされていた。


 雷丸の足元に浮かび上がった魔法陣から黒い子狼が姿を現した。


「さぁリトルウルフ、追跡開始だ」


 ノリノリの雷丸。


「絶対に楽しんでますね」

「楽しんでる」


 傭兵とエルフに呆れられた視線を送られるギルドマスターであった。

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