第33話 器の完成
最終フェーズ、始まりです。
カウントダウンが零を刻んだ瞬間、これまでとは違う感覚が澪を包んだ。
光ではなく、意識そのものが引っ張られるような、奇妙な浮遊感。
気づけば、澪たちは白く発光する、輪郭のない空間に立っていた。床も壁も天井も判然としない。まるで、現実とゲームの境目そのものに放り出されたようだった。
「――ここ、今までと違う」
環が、辺りを見回しながら警戒を強めた。
「森でも、廃墟の街でも、廃教会でも、施設でもない」佐伯が、低く唸る。「一体どういう場所や」
その時、澪の頭の奥で、何かが軋んだ。
〈……澪〉
聞き覚えのある声が、遠くから響いてくる。
〈私の力、ちゃんと役に立った?〉
小春の声だった。
〈――あんた、まだそんなこと気にしてるの〉
続いて、レイの声。
澪は、思わず頭を抱えた。二人はもういない。それなのに、その声が、確かに自分の中から聞こえてくる。
「――澪!」
環の声に、澪は我に返った。
「大丈夫?顔色、悪いよ」
「……なんか、頭の中に、色んな声が」
その言葉に、全員の表情が強張った。
〈施術の準備が、整いました〉
無機質な声とともに、空間の奥に、御堂の姿が浮かび上がった。今度は、通信映像ではない。本人が、そこに立っていた。
「――ようこそ、最終段階へ」
「あんた……!」
大和が、拳を構えて前に出る。
「焦る必要はない。ここでは、私に危害を加えることはできないよ。この空間自体が、私の管理下にあるからね」
御堂は、澪へと視線を向けた。
「水無瀬澪。君の中には、これまで失われた者たちの、可能性の残滓が蓄積している。小春、レイ、そして環の代償――すべてが、君という器の中に沈殿している」
「――やめろ」
澪の声が、震える。
「これから、それを一つの形に凝縮させてもらう。完成すれば、君はもう、無数の願いを内包した、完全な存在になる」
御堂が、静かに手をかざす。
その瞬間、澪の視界が激しく歪んだ。
頭の中で、小春の声、レイの声、そして数えきれない断片が、一斉に渦を巻き始める。自分が誰なのか、その輪郭が急速に薄れていくのを、澪は感じた。
「――澪、しっかりして!」
環の声が、遠くから聞こえる。
「澪ちゃん、俺たちの声、聞こえてるか!」
佐伯の声も。
「澪さん!」
陽と大和の声も。
だが、その声さえも、渦の中に飲み込まれていくようだった。
自分は、誰だったのか。
何のために、ここにいたのか。
答えが、少しずつ、遠ざかっていく。
崩れていく意識の中で、澪はそれでも、必死に何かにしがみつこうとしていた。
第33話、いかがだったでしょうか。
ついに最終フェーズが始まりました。御堂の目論見通り、澪の意識が危険な状態に陥ってしまいました。次話からは、いよいよ最終クライマックスに突入します。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




