第32話 次に向かうために
このフェーズの締めくくりです。
フェーズ終了までの残り時間、一行は森の奥、小さな洞窟に身を寄せていた。
「――もう、大丈夫なんですか」
大和が、獅子堂の様子を窺いながら尋ねた。
「まだ本調子とは言えんが」獅子堂は、体を軽く伸ばしながら答えた。「戦えんほどじゃない。むしろ、寝てるだけの方が性に合わない」
「無理は禁物ですよ」環が、釘を刺すように言う。
「分かってる」獅子堂は、苦笑いを浮かべた。「――それより、これからも、お前らと一緒でいいのか。俺は、一度お前らを見捨てて逃げた側の人間だ」
その言葉に、大和が真っ先に首を振った。
「見捨てたわけじゃないです。俺たちを逃がすために、囮になってくれたんです」
「――そうだね」澪も頷いた。「獅子堂さんがいてくれたら、心強いです」
その言葉に、獅子堂はしばらく黙り込んでから、小さく頭を下げた。
「――よろしく頼む」
限られた食料を分け合いながら、それぞれが静かに言葉を交わした。
「小春さんも、レイさんも、生きてたらこの光景、見たかったでしょうね」
陽が、ぽつりと呟いた。
「きっと、文句言いながらも一緒に飯食ってたでしょうね」佐伯が、少し目を細めて言う。
「――絶対そうです」大和も、小さく笑った。
その笑いには、寂しさと、それでも前に進もうとする温かさが同居していた。
澪は、その輪の中で、御堂の言葉を思い返していた。
――次のフェーズで、君の完成形を見せてもらおう。
利用されるだけの存在で終わるつもりはない。
自分の力がどんな形で狙われていたとしても、それをどう使うかは、自分自身が決めることだ。環が言ってくれた言葉を、澪はもう一度、胸の中で噛み締めた。
「――澪、大丈夫?」
環に声をかけられ、澪は我に返った。
「はい。大丈夫です」
「なら、いい」
環は、それ以上は聞かず、小さく笑った。
やがて、視界にシステムログが浮かぶ。
〈第4フェーズ、終了を確認〉
〈生還条件判定を実行します〉
〈水無瀬澪:生還条件達成〉
〈七瀬環:生還条件達成〉
〈遠野陽:生還条件達成〉
〈大和:生還条件達成〉
〈佐伯:生還条件達成〉
〈獅子堂:生還条件達成〉
六人分の表示に、誰からともなく、安堵の息が漏れた。
「――全員、無事に終えられましたね」
陽の声に、皆が頷く。
だが、その空気はすぐに、緊張へと変わった。
〈次フェーズ:最終段階へ移行します〉
〈開始まで残り 24:00:00〉
これまでとは違う響きを持つ通知に、全員の顔が引き締まる。
「――最終段階、か」
環が、低く呟いた。
「いよいよ、って感じですね」佐伯が、静かに答えた。
澪は、自分の左手をじっと見つめた。
御堂が見たがっている「完成形」。それがどんなものであれ、そこに至る道を選ぶのは、自分自身でありたいと、澪は強く思った。
視界の端で、数字が一つ、また一つと減っていく。その先に何が待っているのか、澪にはまだ分からなかった。
第32話、いかがだったでしょうか。
御堂の目的、千夏や佐伯の抱えていた真実、獅子堂の生還――積み重なった謎が、少しずつ形になってきました。
次からはいよいよ最終局面です。澪がどんな選択をするのか、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




