第31話 完全な器
御堂の目的が、ついに明かされます。
森を進んでいた一行の視界に、突如、割り込むように映像が浮かび上がった。
〈強制接続:御堂玲司〉
「――逃げ切ったつもりかい?」
白衣を纏った御堂の姿が、宙に投影される。その口元には、余裕の笑みが浮かんでいた。
「随分と手間をかけさせてくれたね。まあ、想定の範囲内だが」
「……何のつもりだ」
環が、警戒しながら前に出た。
「ここまで来た君たちには、種明かしをしておこう」
御堂は、静かに両手を広げた。
「私は長年、一つの理想を追ってきた。複数の固有能力を併せ持つ、完全な器――誰の力も奪わず、誰の願いも損なわず、あらゆる可能性を内包できる存在をね」
「何を、言って……」
「そんな中、水無瀬澪。君の固有能力『共鳴読心』を見つけた」
御堂の視線が、まっすぐに澪へと向けられる。
「他者の可能性に触れ、一時的にその力を宿す。それは私が人工的に作り出そうとしていたものに、あまりにも近かった」
澪の背筋に、冷たいものが走った。
「――だから、私を」
「そう。だから君を、このプログラムに組み込んだ」
御堂は、悪びれもせずに頷いた。
「柚木小春の脱落も、神崎レイの脱落も、七瀬環の代償進行も――すべて、貴重なデータだった。君の能力が、どのように他者の断片を取り込み、どう変質していくか。それを見るための、絶好の観察対象だったんだ」
「――ふざけるな!」
澪は、思わず声を荒げた。
「あの人たちの死は、道具なんかじゃない!生きて、誰かのために選んで、そうやって消えていったんだ!」
御堂は、まるで動じなかった。
「その事実と、私にとって有用なデータであったことは、両立する」
その冷酷な言葉に、澪は言葉を失った。
「次のフェーズで、君の完成形を見せてもらう」
映像が、ノイズとともにかき消える。
〈通信、終了〉
その表示だけが、静かに残った。
森の中に、重い沈黙が落ちる。
「……あいつ」大和が、拳を強く握りしめた。「絶対に、許せない」
「小春さんも、レイさんも」陽の目に、涙が浮かんでいた。「あんな奴のために、消えたわけじゃないのに」
澪は、その場に立ち尽くしたまま、動けずにいた。
自分の存在が、仲間たちの死を「利用」する道具として見られていたという事実。それは、これまで感じてきたどんな絶望よりも、深く澪の心を抉っていた。
「――澪」
環が、静かに澪の肩に手を置いた。
「あんたのせいじゃない。あんたが望んでこうなったわけじゃないんだから」
「でも……」
「それに」
環は、澪の目をまっすぐに見た。
「あいつがどう思ってようと、あんたが何を選ぶかは、あんた自身が決めることでしょう」
その言葉に、澪はようやく、少しだけ息を吸い込むことができた。
「――私たちがついてる」
大和が、力強く頷いた。
「佐伯さんも、獅子堂さんも、環さんも、陽さんも。俺たちは、御堂の思い通りにはならない」
「そうだね」佐伯も、静かに頷いた。「あいつの筋書き通りに終わってやる義理は、ひとつもあらへん」
その言葉に、澪の中に、少しずつ力が戻ってくるのを感じた。
道具として利用されてきた過去は変えられない。だが、これから何を選ぶかは、まだ自分の手の中にある。
夜の森に、次のフェーズへのカウントダウンが、静かに刻まれ始めていた。
第31話、いかがだったでしょうか。
御堂の目的、そしてNirvanaの本当の恐ろしさが明らかになりました。仲間たちの死が「データ」として扱われていたという事実は、澪にとって最大の衝撃だったと思います。それでも仲間たちが寄り添ってくれたことで、澪はまだ前を向けています。
次話では、このフェーズの締めくくりを描く予定です。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




