第27話 弟の面影
佐伯の隠された真実です。
「――俺には、弟がおったんや」
佐伯は、静かにそう切り出した。
「歳の離れた弟でな。可愛くて仕方なかった。俺が親代わりみたいなもんやった時期もある」
大和は、黙って耳を傾けていた。
「ある日、俺が目ぇ離した隙に、事故があってな」
佐伯の声が、初めて明確に震えた。
「たった数分や。ほんの数分、目を離しただけやった。それで、弟は死んだ」
部屋の中に、重い沈黙が落ちた。
「お前を初めて見た時、驚いたんや。面影が、あんまりにも似てて」
佐伯は、大和をまっすぐに見た。
「せやから、放っておけへんかった。お前を守ることが、あいつを守れんかった自分への、償いみたいになってた」
「――俺は」大和が、絞り出すように口を開いた。「弟さんの、代わりですか」
「最初はそうやったかもしれん」
佐伯は、正直に頷いた。
「せやけど、今は違う。お前は、お前や。弟の代わりやなくて、大和として、大事に思ってる」
その言葉に、大和の目に涙が浮かんだ。
「もう一つ、話さなあかんことがある」
佐伯は続けた。
「弟を亡くした後、俺はしばらく、まともに生きられへんかった。その時、支えてくれたんが、千夏さんや」
「千夏、さん……?」
「せやから、千夏さんに頼まれた時、断れんかった。参加者を陰から支援してほしい、いう頼みを」
佐伯は、深く息を吐いた。
「俺がこのゲームにおるんは、その恩返しと、弟への償いと……両方や」
すべてを話し終えた佐伯の顔には、憑き物が落ちたような静けさがあった。
大和は、しばらく黙り込んでから、ゆっくりと口を開いた。
「――佐伯さんは、悪くないです」
その言葉に、佐伯は驚いたように顔を上げた。
「事故のことも、俺を弟さんに重ねてたことも。俺、責める気にはなれません」
大和は、少し笑ってみせた。
「それに、代わりから始まったとしても、今、ちゃんと俺自身を見てくれてるなら、それでいいです。俺、これからも佐伯さんの傍にいます」
その言葉に、佐伯は目を伏せ、小さく喉を鳴らした。泣くのを堪えているようだった。
「――ほんまに、ええ奴やな、お前」
〈対象者:佐伯。真実の開示を確認〉
システムログが、静かにそれを告げる。
だが、そのすぐ後に、澪の視界にだけ、別の表示が浮かび上がった。
〈追加情報:大和の欠落記憶の断片を検出しました〉
〈断片内容:「――兄ちゃん、待って」〉
その短い一文に、澪は息を呑んだ。
大和が失った記憶の中に、誰かを「兄ちゃん」と呼ぶ言葉があった。
それが誰を指すのか、澪にはまだ分からない。だが、確かなのは――この物語には、まだ知られていない繋がりが、他にも隠されているということだった。
第27話、いかがだったでしょうか。
佐伯の抱えていた真実が、ようやく明らかになりました。大和の答えが、佐伯にとって大きな救いになったと思います。同時に、澪だけが見た大和の記憶の断片――これが今後、どう繋がっていくのか、楽しみにしていただけると嬉しいです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




