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ニルヴァーナ -Nirvana-  作者: 夜華カナタ


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第25話 白い箱

新しいフェーズ、始まりです。

 カウントダウンが零を刻んだ瞬間、視界が白く塗り潰された。


 光が引いた後、澪たちが立っていたのは、これまでとはまるで違う場所だった。


 無機質な白い壁。等間隔に並んだ蛍光灯。消毒液に似た匂いが、鼻の奥に残る。


「――ここ、施設?」


 陽が、辺りを見回しながら呟いた。


 長い廊下の両側に、ガラス張りの小部屋がいくつも並んでいる。中には、古びた医療機器らしきものが放置されていた。


「森でも、廃墟の街でも、廃教会でもない」佐伯が、珍しく硬い声で言った。「なんか、嫌な感じがするな」


「――待って」


 環が、廊下の奥にある扉を見つめた。扉には、掠れた文字でこう書かれていた。


『被験者観察棟』


「被験者……?」


 大和の声が、わずかに震える。


 その時、澪の視界にシステムログが浮かんだ。


 〈第4フェーズ「真実の代償」〉


 〈生還条件:各参加者は、自身の抱える「隠された真実」を、最低一つ、他者に開示すること〉


 〈備考:真実を開示しない場合、フェーズ終了時に強制排除の対象となる〉


「――は?」


 環が、思わず声を上げた。


「秘密を話さないと、脱落するってこと?」


「随分と、直接的なルールですね」佐伯が、苦い顔で呟いた。


 澪は、その言葉に、ふと胸の奥がざわつくのを感じた。誰にも話していない自分自身の恐れ、共鳴読心という力の本当の危うさ――それを、この場で明かさなければならない日が来るということだ。


 廊下の奥から、かすかな足音が聞こえてきた。


 全員が、一斉にそちらへ視線を向ける。


 現れたのは、白衣を纏った、線の細い男だった。眼鏡の奥の目が、値踏みするように澪たちを見つめている。


「――ようこそ。第4フェーズへ」


 その声は、これまで出会ったどの参加者とも違う、落ち着き払った響きを持っていた。


「あなたは……?」


 澪が問うと、男は薄く笑った。


「名乗るほどのことでもないが」


 男は、白衣の胸元に付けられた名札に、軽く触れてみせた。


『御堂』


「――このプログラムの、運営側の人間だ」


 その一言に、五人の間に、これまでとは種類の違う緊張が走った。


「運営が、直接姿を見せるなんて」環が、警戒を露わにして言った。「今までは、システムログだけだったのに」


「第4フェーズは、特別だからね」


 御堂は、感情の読めない目で澪を見た。


「特に、そこの彼女には」


 その視線が、まっすぐに澪へと向けられる。


「水無瀬澪。ずっと、君のデータに興味があったんだ」


 澪の背筋に、冷たいものが走った。


「――どういう、意味ですか」


「それは、これからゆっくり話そう」


 御堂は、そう言って踵を返した。


「フェーズは、もう始まっている。せいぜい、隠し事のない身になることだ」


 その背中が、廊下の奥へと消えていく。


 残された五人の間に、重い沈黙が落ちた。


「――ろくでもない相手みたいね」


 環が、低く呟いた。


「せやな」佐伯が頷く。その声には、隠しきれない緊張があった。


 澪は、御堂が最後に向けた視線を、まだ肌に感じていた。


 これまでとは違う段階。千夏が予告していた言葉の意味を、澪は今、ようやく理解し始めていた。

第25話、いかがだったでしょうか。


ついに運営側の人間、御堂が直接姿を現しました。そして「隠された真実を明かす」という、これまでで最も残酷なルール。この物語の根幹に関わる真実が、少しずつ明らかになっていきます。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


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