第24話 誰も欠けずに
誰も欠けずに終えられた、初めてのフェーズです。
崩れかけた教会の中に、朝の光が差し込んでいた。
〈第3フェーズ、終了を確認〉
〈生還条件判定を実行します〉
〈水無瀬澪:生還条件達成〉
〈七瀬環:生還条件達成〉
〈遠野陽:生還条件達成〉
〈大和:生還条件達成〉
〈佐伯:生還条件達成〉
システムログが流れるのを、五人は無言で見守っていた。
「――全員、生き残った」
陽が、絞り出すような声で呟いた。
「小春さんが脱落してから、初めてですよね。誰も欠けなかったの」
その言葉に、誰も、すぐには何も言えなかった。
これまでの二つのフェーズでは、必ず誰かを失ってきた。だから、五人揃って迎えるこの朝が、どこか現実味を持たないもののように感じられた。
「――終わったんだ、今回は」
大和が、そう言ってから、少し照れたように笑った。
「なんか、実感が湧かないですけど」
「私も、正直まだ信じられない」
環が、自分の手のひらを見つめながら答えた。あの力は、もう戻らない。それでも、その声には、悲愴さよりも静かな落ち着きがあった。
朝食を分け合う間、佐伯はずっと大和の様子を窺っていた。やがて、意を決したように口を開く。
「――大和、話がある」
「なんですか?」
「森で影に襲われた時、俺が庇うたやろ。あの時の代償で……お前の記憶、一部消えてしもたんや」
大和は、一瞬きょとんとした顔をした。
「……そうだったんですか」
「悪かった。黙ってて」
佐伯が頭を下げようとするのを、大和は慌てて止めた。
「待ってください、佐伯さんは謝ることないです」
「せやかて」
「俺、佐伯さんに庇ってもらって、生きてます。それで何か忘れたとしても……それは、佐伯さんのせいじゃないです」
大和は、少し困ったように笑った。
「それに、忘れたことが何なのかも分からないのに、悲しみようがないですよ」
その言葉に、佐伯はしばらく黙り込んでから、ようやく小さく息を吐いた。
「――お前、ほんまにええ奴やな」
「佐伯さんに似たんですかね」
「調子乗るな」
そのやり取りに、澪と陽が、思わず小さく笑った。重かった空気が、少しだけ和らいでいく。
昼を過ぎた頃、システムから帰還のカウントダウンが表示された。この教会での時間も、もうすぐ終わる。
夕方、澪は一人、崩れた祭壇の前に立っていた。
〈外部接続を検知しました〉
〈メッセージ受信:1件〉
視界に、見慣れた文字が浮かぶ。
「よく、ここまで来たね。次は、これまでとは違う段階に入る。覚悟しておいて」
差出人の情報は、やはり無かった。だが、その言葉の奥に、これまでとは違う緊張が滲んでいるのを、澪は感じ取った。
「――千夏さん」
呟いても、返事はなかった。
ただ、そのメッセージだけが、しばらく視界の隅に残り続けていた。
〈次フェーズ:開始まで残り 24:00:00〉
新しいカウントダウンが、静かに始まる。
誰も欠けずに終えられた、初めてのフェーズ。
だが、千夏の言葉が予告する「これまでとは違う段階」が、どんな形で自分たちの前に現れるのか、澪にはまだ、見当もつかなかった。
===== 後書き =====
第24話、いかがだったでしょうか。
誰も脱落せずに終えられたのは、この物語では初めてのことでした。
次からは、いよいよ「真相」編に入ります。玲司の真意、千夏の告白、佐伯の正体、そして獅子堂の消息――積み重なった謎が、少しずつ明らかになっていく予定です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
誰も脱落せずに終えられたのは、この物語では初めてのことでした。
次からは玲司の真意、千夏の告白、佐伯の正体、そして獅子堂の消息――積み重なった謎が、少しずつ明らかになっていく予定です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




