第21話 地下の記録
教会の地下に、何かが眠っています。
翌日、拠点の整備を続ける中で、陽が祭壇の裏にわずかな隙間を見つけた。
「――ここ、下に続いてるみたいです」
石畳の一部が、不自然に浮いている。佐伯が慎重にそれを持ち上げると、下へと続く狭い階段が現れた。
「地下、ですか」大和が、覗き込みながら声を落とした。
「行くしかないでしょうね」
環がランタンを手に取り、先頭に立った。澪たちも後に続く。
階段を降りていくと、冷たく湿った空気が肌を刺した。狭い通路の先に、小さな部屋があった。
壁一面に、無数の文字と印が刻まれている。
「――これ、全部……」
陽が、灯りをかざしながら壁に近づいた。
刻まれていたのは、日付らしき数字の羅列と、断片的な記録だった。
〈観測記録:フェーズ稼働回数、23回目〉
〈対象施設:継続使用可能〉
〈備考:施設固有の残留エネルギーにより、参加者の精神状態が不安定化しやすい傾向あり〉
「23回目……?」
澪の声が震えた。
「この教会、私たちが初めてじゃないってこと」環が、低く呟いた。「何度も、同じことが繰り返されてきた場所」
「継続使用可能、って書いてありますね」佐伯が、腕を組んで壁を睨んだ。「まるで、道具みたいな扱いや」
その言葉に、誰も反論できなかった。
大和が、壁の刻印をなぞるように指を這わせた。
「22回分の記録がある、ってことは……その分だけ、俺たちみたいな参加者がいたってことですよね」
「そういうことでしょうね」
環の声は、いつになく重かった。
「23回目まで続いてきたのなら、そのたびに誰かが脱落して、誰かが生き残った。その繰り返し」
「気味悪いくらい、淡々とした書き方ですね」陽が、両腕をさすりながら壁から距離を取った。「まるで、私たちの命が数字の一つでしかないみたいで」
「実際、運営から見たらそうなんかもしれん」
佐伯が、静かに言った。その口調には、いつもの軽さの代わりに、何か諦めに似た響きがあった。
さらに奥へ進むと、壁の一角に、小さな祭壇のようなものが設えられていた。中央には、ひび割れた水晶のような塊が置かれている。
「これが、施設固有の残留エネルギーの正体でしょうか」
陽が、恐る恐る手を伸ばそうとした、その時。
「――触るな」
環が、鋭くそれを制した。
「何か、来る」
その言葉と同時に、水晶がかすかに明滅した。
通路の奥、闇の中から、複数の気配がゆっくりと近づいてくる。一つや二つではない。地の底から染み出すように、いくつもの影が輪郭を持ち始めていた。
「――囲まれてる?」
大和の声が上ずる。
「落ち着いて。出口はここしかない、ならやることは一つ」
環が、腰を落として構えを取った。
「――迎え撃つ」
その声を合図に、五人はそれぞれの武器を構え、闇の奥から迫る気配へと向き直った。
地下の狭い空間に、水晶のかすかな光だけが揺れていた。
第21話、いかがだったでしょうか。
この教会が、過去に何度も使われてきた「施設」だったという事実が明らかになりました。次話は、地下での戦闘回になる予定です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




