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ニルヴァーナ -Nirvana-  作者: 夜華カナタ


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第12話 好意という名のルール

〈第二フェーズ:開始まで残り 00:12:00〉


拠点の中で、全員が固唾を呑み、カウントダウンを見つめていた。


「今回も、始まったら勝手にルールが出るのかな」


大和が緊張した声で言う。環は腕を組んだまま、短く答えた。


「多分ね。心の準備、しておいて」


カウントダウンがゼロになった瞬間、視界に新しい文字列が浮かび上がった。


〈第二フェーズ・ルール開示〉

〈本フェーズにおける生還条件:他プレイヤーから得た好意的感情の蓄積量、規定値以上〉

〈判定方法:相互評価システムによる記録〉


その文字列を見た瞬間、澪の中で何かが冷たくざわついた。


――今度は、「好かれること」が条件。


陽と環も、それぞれ表情を強張らせていた。


「これ……最悪じゃない?」


環が苦々しく言う。


「誰かを助ければ好感度が上がるってこと? じゃあ、これからそういう状況が増えるってわけ」


大和が、恐る恐る口を開いた。


「じゃあ……助け合った方が、いいってことですよね?」


「表向きはね」


環の声には警戒が滲んでいた。


「でも、こういうルールって大体、裏がある。助け合いが美談で終わるとは思わない方がいい」


その指摘に、澪は思わず身構えた。


「裏、というのは……」


「誰かを助けた“振り”をして、評価だけ稼ぐ奴が絶対出てくる。あるいは、助けを求める“振り”をして、罠を張る奴も」


環の言葉は、これまでの経験に裏打ちされた冷静な予測だった。誰も、それを否定できなかった。


陽が少し考えてから、口を開いた。


「でも……小春は最後まで、誰かのために動いた。それが間違ってたとは、思いたくない」


その言葉に、澪の胸が静かに疼いた。


「私も、そう思います」


澪は続けた。


「打算だけで動く人がいたとしても……本当に誰かのために動くことの意味は、変わらないと思うんです」


環はしばらく澪を見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。


「――理想論だけどね。でも今は、それに賭けるしかないか」


その言葉に、拠点の空気がわずかに和らいだ。


「これから、街を出歩くことになると思うけど」


環が全員を見渡しながら言った。


「誰かに会っても、すぐに信用しないで。特に、やたら親切な奴には気をつけて」


その忠告に、誰もが真剣な表情で頷いた。


澪は視界の端に残る、あのルール表示をもう一度見つめた。


――誰かのために動くことが、数字として測られてしまう。


それは、小春が最後に見せた優しさすらゲームの駒として扱われかねない、残酷な仕組みだった。


それでも澪は、この力を正しく使いたいと思っていた。


〈第二フェーズ・展開開始〉


新しい戦いの気配が、灰色の街並みの中に静かに広がり始めていた。


第四章 一人の生存者


拠点を出て、街の様子を探り始めてすぐ。


澪たちは広場に近い場所で、新たな一団と遭遇した。


先頭に立っていたのは、鋭い目つきの少女だった。


他の参加者とは明らかに違う、迷いのない足取り。


「あんたたち、まだ誰も欠けてないみたいね」


値踏みするような口調だった。


環が一歩前に出る。


「あんたは?」


「神崎レイ。悪いけど、あんたらのグループ、数が多くて目立ちすぎ」


レイは澪たちを見回し、淡々と続けた。


「このルールだと、数が多い方が有利に見えて、実は足の引っ張り合いになりやすいの。知ってる?」


レイの言葉には、澪たちの誰も反論できない鋭さがあった。


彼女は、これまでの参加者の誰よりも、このゲームのルールを冷静に分析しているようだった。


「あんたのグループは?」


陽が尋ねると、レイは初めて、わずかに表情を曇らせた。


「……もう、いない。私一人」


その言葉に、その場の空気が少しだけ変わった。


誰かを失った経験を持つのは、澪たちだけではなかった。


「一人でここまで生き残ってるの、すごいですね」


澪が思わず言うと、レイは澪をまっすぐ見た。


「すごくない。ただ、誰も信じないようにしただけ」


その乾いた言い方に、澪は環と重なる何かを感じた。


だが環とはまた違う種類の、もっと計算高い冷たさが、レイの中にはあった。


〈対象:神崎レイ 感情パターン検出――警戒 80%/孤独 88%〉


澪の視界に浮かんだ数値を見て、澪は思わず言葉を失った。


警戒よりも高い、圧倒的な孤独の数値。


誰も信じないと言い切ったレイの内側は、それとは裏腹に、誰よりも「誰かと繋がりたい」という願いで満ちているように、澪には感じられた。


「レイさんは、これからどうするんですか」


澪が尋ねると、レイは少し考えるように黙り込んだ。


「情報交換くらいはしてあげる。あんたらが持ってる情報、私も欲しいし」


それは仲間になるとも、ならないとも言わない曖昧な返事だった。


だがレイは、それ以上その場を離れようとはしなかった。


「一人で動く方が、リスク低いんじゃないんですか」


大和が素朴な疑問を口にした。


レイは少し考えてから答えた。


「今回のルールだと、話が別。好感度を稼ぐのに、一人だと限界がある」


「じゃあ、私たちと組むメリットはあるってことですね」


環が確認するように言うと、レイは小さく頷いた。


「一時的にね。あんたらを信用したわけじゃない」


その言い方は素っ気なかったが、拒絶ではなかった。


澪は、その裏にある本音を、また少しだけ感じ取っていた。


「よろしくお願いします、レイさん」


澪がそう言うと、レイは一瞬だけ意外そうな顔をした。


「……別に、よろしくって言われるようなことじゃない」


そう言いながらも、レイの表情には、これまでよりわずかに柔らかいものが浮かんでいた。


こうして、澪たちのグループにまた一人、新しい影が加わった。


〈第二フェーズ:終了まで残り 22:47:31〉


長い戦いが、また一歩前に進み始めていた。


あとがき

第二フェーズの条件は、「他人から得た好意的感情」。


助け合いが生存に繋がるように見えて、その優しささえ利用されかねない危険なルールです。


そして澪たちの前に現れた、一人の生存者・神崎レイ。


誰も信じないと言いながら、彼女が抱えている孤独は誰よりも大きいようです。

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