↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニルヴァーナ -Nirvana-  作者: 夜華カナタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/35

第10話 灰色の空の下で

残された時間、誰もほとんど言葉を発しなかった。


討伐された巨影の跡には、何も残っていなかった。まるで最初から、そこに何もなかったかのように。


〈第一フェーズ終了〉

〈生存欲求指数、上位30%を判定します〉


〈判定完了〉

〈水無瀬澪:生還条件達成〉

〈七瀬環:生還条件達成〉

〈遠野陽:生還条件達成〉

〈大和:生還条件達成〉


生き残った者たちの名前が、静かに表示されていく。


だが、そこに小春の名前が並ぶことは、もうなかった。


「――生き残った、のに」


陽が呟いた。


その声には、安堵よりも深い戸惑いが滲んでいた。


「小春の分まで、とか。そんな綺麗な話じゃないよね、これ」


環が乾いた声で言った。


誰も、それを否定しなかった。


夜明けの気配もないまま、灰色の空だけが、いつまでも同じ明るさで広場を照らしていた。


大和は、まだ膝をついたまま、動けずにいた。


澪はその隣に、そっと座った。


「私も、同じ気持ちです」


「……水無瀬さん」


「自分のせいだって、思ってしまう気持ち。私も、よく分かります」


大和はしばらく黙り込んでから、小さく頷いた。


「あの人……小春さん、最後まで俺のこと、心配してくれてました」


「はい」


「俺、絶対に忘れません。この先、何があっても」


その言葉に、澪は静かに頷いた。


忘れないこと。


それは、小春が最後に望んだことと、きっと同じ願いだった。


その夜、澪は再び、システムログの片隅に見慣れない表示を見つけた。


〈外部接続を検知しました〉

〈メッセージ受信:1件〉


「よく、頑張ったね。まだ、この先も長い。でも、あなたは一人じゃない」


差出人の情報はなかった。


だが、その言葉の温度に、澪は覚えがあった。


「……千夏さん」


呟いても、返事はなかった。


ただ、そのメッセージだけが、澪の視界にしばらく残り続けていた。


視界の端、集団の輪の外側に、あの目立たない青年の姿があった。


彼は澪の方を一瞬だけ見て、それから何事もなかったかのように視線を逸らした。


その一連の仕草に、澪はまだ、何の意味も見出せずにいた。


薄暗い管理室に、無数のモニターが等間隔で並んでいる。


「第一フェーズ、終了しました。生存者数、想定を上回っています」


記録者らしき人物の報告に、白衣の人物は静かに頷いた。


「水無瀬澪の周辺、集団形成による相乗効果が顕著だな」


「はい。単独行動していた個体と比較して、生存率、感情反応の複雑さ、ともに有意な差が出ています」


白衣の人物は、モニターの中の澪をしばらく見つめていた。


「――次のフェーズも、楽しみだ」


その言葉には、どこまでも冷たい響きだけが残っていた。


〈第二フェーズ:開始まで残り12:00:00〉


新しいカウントダウンが、灰色の空の下で静かに始まっていた。


澪はその表示を見つめながら、小春の最後の言葉をもう一度、静かに反芻していた。


――忘れないで。


それだけは、どんなにこの先が過酷であっても、決して手放さない。


澪は静かに、心に刻んでいた。


あとがき

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


第一フェーズが終わり、物語はいったん大きな区切りを迎えます。


生き残ることは、必ずしも救いではない。

それでも澪たちは、小春の言葉を抱えながら次のフェーズへ進んでいきます。


そして、外部から届いたメッセージ。

澪を見つめていた目立たない青年。

管理室で観測を続ける者たち。


第二フェーズでは、彼らの置かれた世界と、この実験の目的が少しずつ見えてくる予定です。


よければ、ブックマークや評価、感想をいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。