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第33話『一器ニ魂』

新たな人格へと切り替わった罪深(つみか)とせんじゅの攻防は、一見すると一方的なように見えた。


僅(わず)かに速度(スピード)で上回る彼女が、襲い来る鉄腕を紙一重でかわし、その隙を縫うように釘バットを叩き込む。

避けて、殴る。

避けて、殴る。

その繰り返し。


けれど——おかしい。

どれだけ殴っても、せんじゅの動きに衰えの色はみえない。

何度その身体を殴りつけても、一時的に怯ませることで精一杯。

これでは決定打というには程遠い。

むしろ、疲労が蓄積されていくのは罪深(かのじょ)の方で、このままではいずれ捕まってしまうのも時間の問題。


「いひひ、いひひひひ♪ まだこんなヒミツを隠してたなんて。さすがは梯宮(うてなみや)一族に、その才能を買われるだけのことはあるね。でも——」


ガシィッ!

不規則な軌道で振り下ろされた釘バットを、巨大な鉄腕が真正面から掴み取る。


「せんじゅのカラダは、こんなへなちょこぢゃ傷一つつかないよん♪」

にんまりと口角を吊り上げ呟いた、その直後。


バキィッッ!!

あれほど何度もせんじゅを殴りつけていた金属製のバットが、まるで枯れ枝のように呆気なくへし折られた。


「…………っ」


冗談じゃない。

あれを、握力だけで……?

もし今掴まれていたのが、バットではなく人間の腕だったら。

表皮どころか、骨ごと簡単に潰されていたに違いない。

改めて思い知らされる。

あの小さな身体に詰め込まれている力は、生身の人間がまともに張り合っていい領域を、とっくに逸脱しているのだと。


「……あ、やっぱムリ」

罪深は小さくそう呟くと、あっさりと釘バットから手を離した。

「あれれ〜〜?もう諦めちゃうの?つまんないなぁ」


せんじゅが自らの巨大な右腕を大きく振り上げる。


「じゃあ、ばいばい」

絶体絶命。

だというのに、当の罪深(かのじょ)に焦った様子はない。

迫り来るせんじゅの巨腕など、まるで眼中にないかのように、自らの手の甲に刻まれた六芒星(ヘキサグラム)模様のタトゥーを、指先ですうっとなぞる。


「あ〜また口悪女にばとんたっち〜?残念(じゃんねん)だけど、もう通用しない——よっ!」

直後。

頭上まで振り上げられた巨大な鉄腕が、罪深もろとも地面を叩き潰さんと、凄まじい勢いで振り下ろされた。

 

バギバギバギバギバギバギバギッ——!!


「っ……!!」

視界が揺れる。

ぐらぐらと、足元から世界そのものがひっくり返りそうなほどに。あまりの衝撃に両脚の感覚が狂い、私はその場でよろめきかける。せんじゅの一撃が叩きつけられた瞬間、観客席一帯の床は耐えきれずに陥没したのだ。


亀裂が蜘蛛の巣状に駆け巡り、座席もろとも地盤が砕け散った。

吹き飛んだ瓦礫や木片が激しく宙を舞い、巻き上がった粉塵が辺り一帯を呑み込み、罪深とせんじゅの姿は完全に見えなくなっていた。


「罪深(つみか)さ——っ!!」

私は彼女の名を大声で叫び、そのまま駆け寄ろうとしたその時。

不意に背後から伸びてきた何者かの手が、私の肩を掴んだ。


「あっ」

反射的に振り返るとそこに立っていたのは、ついさっきまで意識を失って倒れていたはずの人物だった。


「百千切さん……?ぶ、無事だったんですね!」

「ああ。意識が戻ったのは少し前だけどね。それにしても……まじゅまちゃんの応急処置をしていたところまでは覚えているんだけど、おかしいな」


百千切はそう言って、不思議そうに小首を傾げる。

どうやら突然倒れた原因については、本人にも心当たりがないらしい。見たところ、目立った外傷もない。

相変わらず病的なまでに白いその肌は少し気掛かりだけど、今のところ身体に異常があるようには見えなかった。


何より、こうして意識を取り戻してくれたという事実に、私はほんの少しだけ胸を撫で下ろす。

 

「とにかく、意識が戻ってくれて安心しました。ですが……状況はさっきより悪くなっています。なんなら、最悪と言ってもいいくらいに」

「どうしたんだい?」


「殺戮兵器は“一体”じゃありませんでした。小鳥遊(たかなし)せんじゅ——彼女こそが、私たちにとっての本当の敵だったんです」

「……なるほどねぇ。あの小さい子が……ククク……興味深い、実に興味深いよ」

百千切は特に驚いた様子もなく、それどころか、むしろ興味をそそられたように目を細める。


「と、とにかく!今は罪深(つみか)さんが危ないんです!私も拳銃で何度か撃ってみたんですが、彼女にはまるで通用しなくて……」

「ハッハッハ。拳銃が効かないなんて、それはもう完全に"バケモノ"だよ。凡人の僕はあっさりお手上げだ。白旗はどこにあるんだい?ないなら僕のこの白衣で、今すぐにでもこさえようか」


……いや、何をふざけ散らかしてるんだ、この人は。

こっちは冗談でも何でもなく、本気で殺されかけているというのに。そのあまりにも他人事じみた態度に、さすがの私も少しだけ苛立ちを覚える。


「ふざけないでください!そんなバケモノ相手に、罪深さんは今、たった一人で戦っているんです!」

「おお〜、怖い怖い。そんな人殺しみたいな目で見ないでくれよ」


百千切は降参とでも言いたげに、両手をひらひらと振る。


「安心してくれ。確かに僕は凡人だけどね。罪深ちゃんは——どちらかというと、“あちら側”だ」

「あちら側?それはどういうことですか……?」


意味を問い返すも、百千切は答えない。

代わりに、私の背後へと視線を向けると、そのまま人差し指をすっと伸ばした。


「ほら。煙が晴れてきたよ」

百千切が指し示す先へ、ゆっくりと視線を滑らせる。

もうもうと立ち込めていた粉塵が少しずつ薄れていくと、崩れ落ちた観客席と砕け散った瓦礫の向こうから現れたのは。

私の予想を、まるで裏切る光景だった。

 

「——やっと♡ウチウチの出番だねぇ?」

「べべべッ!潰(ブチ)潰(ブチ)潰(ブチ)潰(ブチ)潰(ブチ)潰(ブチ)潰(ブチ)潰(ブチ)潰(ブチ)潰(ブチ)潰(ブチ)鏖殺(コロス)ゥッ!!」

「キャパッ!いつになく絶好調だね、"そっちゃん"♡」


「な、どうやって……躱(かわ)ちたの……?」

予想だにしない光景に、明らかに動揺を見せるせんじゅ。

確実に仕留めたはず。

だがその目論見は、あっさりと覆されることになった。


巨大な鉄腕の上に、無傷で立ち尽くす罪深(かのじょ)。

さっきまでとは明らかに様子が違う。

誰もいないはずの隣に、親しい友人でもいるかのように楽しげに語りかけ、それに応えるように、まるで別人の声色と口調で言葉を返す。


会話が、成立している——?

一人しかいないはずなのに。

まるでそこに、"二人"存在しているかのように。

いや、今の罪深から感じる異様な存在感は、そんな比喩なんかじゃ片づけられない。


いる。

確実に"二人"の人格が、同時に顕現(けんげん)している。

 

地這滑(ちはずり)罪深(つみか)。

否、彼女にとって、最初(はじめ)の名などにもはや意味などないのかもしれない。

一器に二魂。

一つの肉体に、二つの人格。

それは、罪深(かのじょ)であって罪深(かのじょ)ではなかった。


「あれが罪深ちゃんの中で、最も取り扱い"注意"の人格——妬深(ねたみ)と嫉深(そねみ)の双子コンビさ」

「妬深と、嫉深……?罪深さんの人格はまだ他にもいるんですか?それに、多重人格の上に双子って……どういう」

「僕にも詳しいことは分からない。罪深ちゃんと二人きりになった時に、色々聞かせてもらったのさ。ククク……非常に興味深かったよ」

 

百千切の口元に浮かんだ薄気味悪い微笑みに、私は若干身を引く。……というか、この二人が二人きりになる瞬間なんてあっただろうか。


…………あ。

思い出した。

第二試練(ゲーム)——あのジグソーパズルの部屋だ。

確かあの時、百千切は罪深とペアだったはず。

なるほど、それなら話を聞く機会はいくらでもあったのだろう。


聞き出す機会、か。

興味の対象を前にした時の、この男の執念は相当なものだ。

あのヘッドマイク越しに「あれは?」「これは?」「それでそれで?」と延々質問責めにされる罪深の姿が、容易に想像できてしまう。

私はなんだか少し、同情してしまった。

 

「罪深ちゃんはこう言っていた。自分には七つの人格がある、と。主人格である"罪深"ちゃん。それと口調が荒い"罰深(ばつみ)"ちゃん。あ、第二試練(ゲーム)の時に"恨深(うらみ)"ちゃんって子も声だけ聞いたよ。あとはさっきまでの大人しそうな人格の子も、別の人格なんだろうね」

「人格が七つ……」


七つ。

その数字を、私は頭の中でもう一度繰り返した。

多重人格というものについて、以前どこかで聞いたことがある。

人は、自分一人では到底受け止めきれないほどの苦痛や恐怖に晒された時、その記憶や感情から自分を守るため、別の人格を生み出すことがある、と。


もちろん、すべてがそんな単純な話ではないのだろう。

人の感情(こころ)なんて、教科書の数行で説明できるほど簡単なものじゃない。


だけど——もし。

もし、それが罪深にも当てはまるのだとしたら。

彼女の中には、七つもの人格が存在している。


一人では足りなかった。

二人でも。

三人でも。

きっと、足りなかった。


自分を守るために。

自分一人では抱えきれない何かを、代わりに背負ってもらうために。


そうして一人。

また一人。

心の中に"誰か"を必要とし続けた果てに——七つもの人格に分かれなければならなかったのだとしたら。


一体、どれほどのものを背負わされてきたんだろう。

どれほど痛くて。

どれほど怖くて。

どれほど苦しかったら。

一人の人間を"七つ"に無理やり切り分けて、生きていかなければならないんだろう。

そんなこと、私には到底想像すらできない。


「解離性同一性《かいりせいどういつせい》障害——所謂(いわゆる)“多重人格”と呼ばれる症状の患者なら、僕も何人か診たことがある。だけどね、二つの人格が混在したまま、同時に表へ出てくるなんて症例は聞いたこともなければ、見たこともない」


百千切はそこで一度言葉を切ると、罪深(かのじょ)の方を見つめながら愉快そうに口角を吊り上げた。


「良い意味でも、悪い意味でも——彼女は間違いなく“逸材”だよ」


✳︎ ✳︎ ✳︎


「あ、気がついたらもう一分経ってる!?——ウチウチは五分しか表に出れないのに〜!!」

「ハヤクッ!ハヤクッ!!殴殺(コロ)サセロォッ!!」


「いひっ……!な、なにコイツ!?一人でぶつぶつキモヂワルイッ!!」

せんじゅは苛立ち任せに腕を振り上げ、罪深を振り落とそうとする。


「あれ……?」

しかし、手応えがない。

気づいた時には、罪深の姿は忽然と消失していた。

いつ動いた?

どこへ行った?

せんじゅの視線が、反射的に周囲を彷徨う。


「「こっち♡コッチダ」」

即座に背後へ振り返ると、正面にはへし折れた釘バットを今にも大きく振りかぶる罪深の姿があった。

「ッ!」

せんじゅは反射的に腕を前へ突き出し、その一撃を防ごうとする。


その時だった。


「「——二重暗示(ダブル・バインド)」」

二つの声が、寸分の狂いもなく重なったかと思えば。


「——ッ!?」

ガクンッ。

せんじゅの身体が、不自然に傾く。

防御のために突き出したはずの腕が僅かに逸れ、同時に踏ん張っていた脚からも力が抜けた。重心が大きく崩れ、体の制御が効かなくなる。


「ナ……ニ、コレ……ッ!?」

 

「罰血痕(バチコン)ッ!!」


バゴォッ!!


「ぐかっ——」

防御(ガード)を崩したせんじゅの側頭部へ、へし折れた釘バットが容赦なく炸裂する。

だが、なおも追撃は終わることなく。


「罰血痕ッ!罰血痕ッ!罰血痕ッ!罰血痕ッ!罰血痕ッ!罰血痕ッ!罰血痕罰血痕罰血痕〜〜ッ!!!!!!!!」


ガンッ!ゴギュッ!バギィッ!ドゴォッ!!

体勢を立て直す暇すら与えない。

右から、左から、上から。

振り抜いた反動すら次の一撃へと繋げ、ひたすら、ひたすら、ひたすら殴り続ける。

手のひらに収まりそうなせんじゅの小さな頭を、まるで打楽器でも叩くかのように。


そこに躊躇も、慈悲もない。

あまりにも一方的。

あまりにも執拗に。

敵であるせんじゅに向けられた暴力だというのに——見ている私ですら、思わず背筋に寒いものが走るほどに。

 

「すごい……あの"小鳥遊 せんじゅ"を相手に一方的にあそこまで……わ、私達も加勢しましょう!」

「落ち着いて、瑠璃ちゃん。油断するのはまだ早いよ」


「え、どうしてですか?」

「敵は間違いなくバケモノだ。釘バット(あんなもの)じゃ、多少の傷は与えられても、致命傷には決してならない。あのバケモノを完全に機能停止まで追い込むには——僕らには僕らの、やるべき事がある」

「やるべきこと……?」


「ああ、ついてきて」

「えっ、あっ、ちょっと!」


返事を待つ気など最初からなかったらしい。

百千切は私の手を掴むと、半ば強引に引っ張るようにして走り出した。


「ち、百千切さん!?どこ行く気——」


✳︎ ✳︎ ✳︎


罪深の別人格である妬深(ねたみ)と嫉深(そねみ)が観客席付近でせんじゅと激しい攻防を繰り広げる中、私と百千切はそこから少し離れ、闘技場の中心部へと向かった。


正面には、罪深の手榴弾によって各所を損傷した阿修羅道(アシュランド)が沈黙したまま佇んでいる。

先ほどまで眼部に灯っていた光は消え、右腕は根元から失われ、全身を覆っていた装甲も所々が剥がれ落ちている。

その姿を見る限り、恐らくもう動くことはないだろう。


頭では、そう分かっている。

それでも、六メートル近い巨躯を間近にすると、ほんの少しだけ心臓がきゅっと縮んだ。

 

「せ、説明してください。なんで今更こんなとこ——」

「——ちゃん、——ちゃん」


「……?」

声?

思わず言葉を止める。

百千切のものではない。

か細く、少し鼻にかかったような女の人の声。

今にも消えてしまいそうなほど弱々しいのに、不思議とはっきり耳に届いた。


「——ちゃん……」

また聞こえた。

私は声の出所を探して、周囲へ視線を巡らせる。

そして——阿修羅道(アシュランド)の巨大な脚部、その陰から。ゆらりと二つの人影が、こちらへ姿を現した。


「う……うぅ……」

「烈々子(れつこ)!ミスティさん!なんでこんな所に?」

「百千切さんに言われてね……あそこは視界が開けてるから、狙われたらひとたまりもないからって……ぐすんっ」


言いながら烈々子は、自分よりも一回り大きなミスティの身体を、肩に担ぐようにして必死に支えていた。

せんじゅの攻撃を受け、左腕の肘から先を失ったミスティ。

その身体は烈々子にほとんど預けられているものの、幸いにも意識は取り戻しているようだった。

切断された左腕には、烈々子が着ていたメイド服の一部が何重にもきつく巻きつけられ、どうにか止血が施されている。


「良かった……二人とも無事で……」

「うん……でも……ま、ま、まじゅまちゃんがぁ……っ」


それまで必死に堪えていた烈々子の顔が、くしゃりと歪む。


「烈々子っ!」

ミスティを支えていた腕から力が抜け、その身体が崩れるように傾いていく。私は咄嗟に駆け寄り、倒れ込んできた烈々子の身体を間一髪で受け止めた。


「うっ……うぅぅ……まじゅまちゃんが……まじゅまちゃんがぁ……!」

私の胸元に縋りつくようにして、烈々子は堪えていたものを一気に吐き出すように泣き崩れた。


あえて、言葉をかけることはしなかった。

ただ、その背中を優しくさすりながら、何度も頷く。

この異様すぎる状況の中で、いつの間にか私自身の感覚も少しずつ麻痺していたのかもしれない。


人が傷つくことも。

血を流すことも。

目の前で誰かが死ぬことさえも。

そんなものを何度も繰り返し見せられているうちに、どこかで"そういうもの"として受け入れかけていた。

だけど、目の前で泣き崩れる烈々子を見て、改めて気づかされる。


やっぱり——こんなの、おかしい。

ある日突然、勝手に連れてこられて。

何の関係もない人間同士を集められて。

試練(ゲーム)なんてふざけた名前をつけた、生命(いのち)の奪い合いを強制されて。


怖くて。

苦しくて。

もう嫌だって泣き叫んで。

全部投げ出して逃げたくなる。

本当なら、それが当たり前の反応であるはずなのに。

むしろ、こんな状況に慣れ始めていた私の方が、どこかおかしくなりかけていたのかもしれない。


「ハァ……ハァ……ありがとね烈々子(れっちゅん)。安心しなさい。まじゅまんのカタキは、アタシが絶ッ対にとってみせるわ」

憤りとも、憎しみとも、また違う。

悲しみも、怒りも、悔しさも。

いくつもの感情がぐちゃぐちゃに入り混じったような、一言では形容できない。

初めて見る表情(かお)だった。


右脚の骨を砕かれ、肘から先の左腕まで失った満身創痍の身体。

それでもミスティは残された左脚で体を支えながら、右脚を引きずり、せんじゅのいる方へ歩き出そうとする。


「ミスティさん、気持ちは痛いほど分かるけど、落ち着いてくれ」

「うっさいわよっ!アンタに何が分かるっていうの!?まじゅまんは、アタシの命を助けてくれた恩人なのよっ!前の試練(ゲーム)だって、まじゅまんがいなかったら、アタシは今頃とっくに……!」


「だからこそッ!!」

突然響いた怒声に、ミスティの足がぴたりと止まった。

「これ以上、むやみやたらに死者を増やすわけにはいかないんだ!」


そこにいたのは、私の知っている百千切とはまるで別人だった。

いつもの薄ら笑いも。

人をからかうような軽い口調も。

何を考えているのか分からない飄々とした雰囲気も違っていた。


「くぅっ……じゃあ何かッ!?このままじっと隠れてろとでも言うつもり!?」

「いや、僕に考えがある」

そう言って、百千切は、沈黙した阿修羅道(アシュランド)の近くへと歩み寄っていく。


「考え!?なによそれ、いいから早く教えなさいよ!」

百千切は答えない。

半壊した巨体の傍らまで近づくと、その場で足を止める。

そして視線を上げた先にあったのは、未だかろうじて原形を留めている、巨大な左腕。


「目には目を。歯には歯を」

百千切は、その先端に備え付けられた砲身を指差した。


「電磁砲(コイツ)を——利用させてもらう」


「なっ……!?」

「なんですって!?」


「力を貸して欲しい。これは僕一人じゃ、決して成し遂げられない——みんなの力が必要なんだ」

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